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継投策がはまりクラーク記念国際が勝利 『第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会』

中川路里香フリーランスライター
勝利の喜びを全身で表すクラーク記念国際選手たち

 第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会は23日、兵庫県丹波市、淡路市で大会4日目が行われ、2回戦までが終了した。淡路佐野総合運動公園第1球場では、昨秋ユース大会優勝校のクラーク記念国際(宮城)と準優勝の福井工大福井(福井)が激突。終盤まで勝負がもつれこんだ試合は、クラーク記念国際が最終回に勝ち越し、サヨナラ勝ちを決めた。

◆7月23日 福井工大福井 対 クラーク記念国際

  福井工大福井     000 100 0 =1

  クラーク記念国際   000 010 1x = 2

▼バッテリー

【福井工大福井】藤田(7回)ー 佐藤 

【クラーク記念国際】菊田(3回0/3)、柴田(3回)、今野(1回) ー 海野

▼二塁打 クラーク記念国際:本郷

 同点で迎えた最終回、クラーク記念国際は、先頭打者の9番・本郷桃奈(1年)の二塁打と申告敬遠で1番・内田梨絵瑠(3年)が出塁すると、2番・清野利理子(3年)の犠打で一死二、三塁と好機を広げた。3番・菊池夏帆(3年)の中堅飛球で、本郷の代走、伊藤結月(2年)が生還、サヨナラ試合とした。

クラーク記念国際・伊藤結月がヘッドスライディングを決めサヨナラ勝ち
クラーク記念国際・伊藤結月がヘッドスライディングを決めサヨナラ勝ち

勝利へのこだわりで対照的な投手起用法へ


 緊迫した投手戦となったが、両チームの投手起用は対照的だった。福井工大福井は、エース・藤田奈那(3年)に先発マウンドを託して最後まで藤田で勝負したのに対し、クラーク記念国際は、菊田波音(2年)、柴田栞奈(3年)、今野心結(2年)と継投策に出た。柴田は、昨秋のユース大会で藤田と投げ合い、その時も投手戦を繰り広げた好投手。福井工大福井の主将、山本海咲(3年)は、初戦後にクラーク戦について尋ねた際に「柴田さんで来るだろう」と話していたことからも、まるでその裏をかいたかのようだ。

「先発は菊田とはじめから決めていた」

 「一番苦しいところで行ってもらうから」。クラーク記念国際の広橋公寿監督は、試合前から柴田にはそう告げていたという。「先発は菊田さんと決めていました。一番苦しい場面で柴田さん、最後は今野さんで行くことも決めていました」と話す。柴田、今野は、昨秋のユース大会後に広橋監督が「1年生(昨年当時)の中に、なかなか面白い子が2人いる。来年はもっと楽しくなるよ」と話していた投手だ。

先発したクラーク記念国際・菊田波音投手
先発したクラーク記念国際・菊田波音投手

 その一番苦しい場面は、4回にやってきた。菊田が先頭打者に四球を与えると、すかさず柴田に交代した。「柴田さんはバント処理が上手いから。予定通りの交代です」。立ち上がりということもあってか、犠打の後に走者をためて先制点は許すが、最少失点で切り抜けられたのは、柴田だからだったかもしれない。続く5回は3人で攻撃を終わらせる好投で、同点に追いつく流れを引き寄せた。
 「うちの打線なら1点なら取り返せる」(広橋監督)と思っていたし、「自信を持って送り出せる投手陣」から最終回に今野を登板させ「すべて計画通りに運んだ」継投だった。

5回裏、同点ホームを踏むクラーク記念国際・笠森咲希選手
5回裏、同点ホームを踏むクラーク記念国際・笠森咲希選手

 少し計画が狂ったのは、思うように得点できなかったこと。「高めを振らないようにと指示していたけど、振らされてたね。(福井工大福井の)藤田さんはいいピッチャーですから」と相手投手を称えた。
 日本一を目標に大会に臨んでいる同校。元気いっぱいの主将、内田を中心にまとまっているチームが、今回の勝利でますます乗ってきた感があるが、広橋監督は「センバツは2回戦敗退ですよ。うちは常に挑戦者です」と気を引き締めていた。

クラーク記念国際・広橋公寿監督の談話

「継投は最初から決めていた。先制は許したが、1点なら問題ないと思っていた。(今大会では)日本一しか見ていないが、センバツは2回戦で負けているし、うちは常に挑戦者です。(次戦も)3年生を中心に、1、2年生も十分な戦力として総力戦で臨みます」


救援登板した柴田栞奈の談話

「監督から『今日は先発でなく、間の一番苦しい場面でいくよ』と言われていたので、そのつもりで準備していました。(4回2人目打者から救援登板したことについて)イニングに入る直前に『そろそろ出番が来るかもしれないよ』と監督から声をかけられていたので、特に慌てませんでした。得点は許しましたが、次の回から3人で抑えるピッチングができました」


3打席目に安打、4打席目にサヨナラ犠飛を打った菊池夏帆の談話

「相手の藤田さんは、特にまっすぐが良いので、高めは振らず、甘い球を逃さず打とうと考えていました。ただ、今日はフライばかりだったので、次の試合ではもっと低く強い打球を打つようにしていきたいです」

クラーク記念国際・柴田栞奈投手(左)と菊池夏帆選手
クラーク記念国際・柴田栞奈投手(左)と菊池夏帆選手

藤田で負けたなら悔いなし

 7回裏、クラーク記念国際の1死二、三塁、迎える打者は3番・菊池の場面で、福井工大福井の中村薫監督はマウンドへ駆けつけた。菊池を歩かせて4番・海野で勝負するか、そのまま勝負するかを確認するためだ。藤田は、そのまま勝負することを選んだが、結果は犠飛となり、サヨナラ負けを喫した。「塁を詰めて後がない状況にするよりも、気持ちに余裕を持たせて勝負する方がいい」(藤田)という考えからだ。三振を取るつもりで投じた初球は、外角低めの直球。「厳しいところへ投げ込めた」が、外野まで運ばれてしまった。「狙われていたんだろうと思います」と肩を落とした。

サヨナラ走者を出した場面で福井工大福井・中村薫監督と野手陣がマウンドに集まった
サヨナラ走者を出した場面で福井工大福井・中村薫監督と野手陣がマウンドに集まった


 走者を許しながらも粘りの投球を続けてきた藤田に、中村監督は「藤田で負けたなら」と納得の様子を見せた。
 悔しさはある。5回に同点に追いつかれたのは、1番・内田の打球が二塁前でイレギュラーし外野へ抜けた間に走者が生還したからだ。「あれで相手に流れが行ってしまった」(中村監督)。今年のセンタートーナメント(東海北陸地区の地域大会)でも同じようなことが起こった。「野球の神様に見放されているんだよ。もっと鍛錬して、神様に微笑んでもらえるようにしよう」という話をしてきたが「まだまだということなんでしょうね」。新チームでの巻き返しに期待したい。

福井工大福井・中村薫監督の談話

「藤田は1年のユース大会からずっとエースで、チームをここまで引っ張ってきてくれた。あの子で勝負した結果ですから、何も言うことはありません。藤田を含めて3年生の中にはケガ人が多く苦しいなかでチームを作ってきた。よく頑張ってきたと伝えたい」

山本海咲主将の談話

「こちらに流れが来ていて勝てると思っていたのに、ああいう形で負けてしまい、本当に悔しいです。(相手先発の菊田さんについて)少し驚きました。あまり情報がなかったので、やるしかないと強い気持ちで挑みました。負けはしましたが、最後まで自分たちらしい野球ができたと思います。主力で出ていた1、2年生が多いチームだったので、後輩たちにはこの経験を活かして三冠を目指して欲しいです」

守備から戻る際にベンチの選手と笑顔でハイタッチを交わす、福井工大福井・山本海咲主将
守備から戻る際にベンチの選手と笑顔でハイタッチを交わす、福井工大福井・山本海咲主将

1年時からエースとしてチームを牽引、藤田奈那の談話

「まだ負けた実感がわかなくて。最終回で打たれなければ勝てたかなと思うので、悔しいです。(サヨナラ犠飛の場面は)菊池さんには外のまっすぐを打たれました。結構厳しいコースへ投げられたので、狙ってたんだろうと思います。
 1年生のときから出させてもらい、人よりも多くの経験をさせてもらえました。最後は、3年生の仲間と一緒に試合ができて嬉しかったです。これからも野球は続けます。少しだけゆっくりしたら、次に向けて準備していきたいと思います」

6回のピンチを切り抜け笑顔でマウンドから駆け下りてきた福井工大福井・藤田奈那投手
6回のピンチを切り抜け笑顔でマウンドから駆け下りてきた福井工大福井・藤田奈那投手

(撮影はすべて筆者)

フリーランスライター

関西を拠点に活動しています。主に、関西に縁のあるアスリートや関西で起きたスポーツシーンをお伝えしていきます。

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