ムンク美術館がまたも全裸写真を大量展示。でも今回は警察に通報されず、なぜ?
「わいせつ」な写真ばかりのムンク美術館の展示
アメリカの写真家ロバート・メイプルソープ(1946〜89)の141作品とノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの95作品でなる、物議を醸す2人の巨匠の共同展示がオスロで開催中。今回の展示は、さらにエロい。
性器の写真が至る所に飾られており、子どもには見せられないものばかりだ。日本では「わいせつ」とみなされ、恐らく展示は無理だろう。もしくは、愛知県美術館以上に、ほとんどの作品を布で隠さないといけない。
昨年開催された「メルゴール+ムンク」展でも、ファンや報道陣を仰天させ、美術館の展示は国内で大きな議論を呼んだ。幼児・小児に性的興味を持たせるようなヴィジュアルを使用し、「ぺドフィリア」という言葉がくっついてまわる、ノルウェー出身のビャルネ・メルゴール氏とムンクの作品を並べたのだ。警察に通報する人もいた。
芸術が超えてはいけない境界線はあるのか。警察に通報されたノルウェーのムンク美術館の挑戦
ノルウェー人のムンク愛は深い。「我らが偉大なる巨匠」の名前に傷を付けないか、気にする人もいるのだ。
今回の「メイプルソープ+ムンク」展では、さらに「わいせつだ」と思われそうな白黒写真が大量に展示されていた。類似点があるムンクの絵をその隣に飾る。絵画やデザインではない分、視界に入ってくる写真映像は非常に生々しい。「痛そう」と思わせるものも多かった。
女性や男性の性器が露骨に写されており、保護者は子どもに見せられないような写真ばかりだ。メイプルソープは、同性愛者としても知られており、黒人男性の性器を写した作品が特に多い。
子どもの社会科見学にどう対応している?
ムンク美術館は地元の学校の社会科見学のスポットとしても人気がある。展示が変わるごとに、小学生なども訪れるが、スタッフは今回どのように対応しているのだろうか?
「一部のコーナーで子どもの立ち入りを制限しています。保護者がプライベートで子どもと来た時は、どこも出入りは自由です」と美術館広報のイッテ・シルブレッド氏は答える。
オープニングに訪れたノルウェーの皇太子は、「子どもたちには全部の作品を見せることはできないね」と国営放送局に回答。
今回はなぜか苦情も、批判的な報道も少ない
前回よりもさらに「わいせつ」と感じる展示だが、広報シルブレッド氏によると、苦情もなく、警察にも通報されていないという。
「恐らく展示の仕方が理由のひとつでしょう。メルゴールの時は、室内全体を布素材などで豪華に装飾していました。今回は、エレガントな並べ方をしています」。伝統的な美術館らしい、「おとなしい」展示装飾が、美術評論家やメディアからの批判を抑えたと同氏は語る。物議を醸した前回のカタログでは、ムンクの作品の上に、メルゴールの作品から切り取った男性の性器が重ねられていたが、今回のカタログではそのような編集はされていなかった。
しかし、写真自体はやはり刺激的だ。メルゴールの一件で、市民は免疫がついたのだろうか?
平日の館内は人で溢れ、年配の貴婦人が男性の裸体写真を見ながら、ホホホと笑いながら鑑賞していた。週末はチケット売り場に行列ができることもあるそうだ。
テーマに合わないから、『叫び』は飾らず収蔵庫に! 保守的で安全路線の美術館のイメージを崩し続ける館長たち
「苦情がくるとしたら、外国人旅行者からです。期待する定番の絵が少ないですからね」とシルブレッド氏。今回の展示には、日本人観光客に人気のある『叫び』もない。『叫び』はどこかの国に展示で貸し出しているのかと聞くと、「地下の所蔵庫にある」という。「テーマに合わなかったので、展示しませんでした」とサラリと回答された。観光客が最も期待する大御所の絵を、あえて飾らない大胆さ。
ノルウェーでは「芸術とわいせつ性」の議論に決着がつくのが早いようだ。歴史ある県立美術館の過激な挑戦は、これからも続く。
展示は5月29日まで
Text: Asaki Abumi