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プロ野球、ポストシーズンへ。毎年あり方が議論されるこの制度を考えるのに、他国事情を調べてみた(2)

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ウィンターリーグの国際シリーズ、カリビアンシリーズ(写真:ロイター/アフロ)

究極のステップラダー方式、韓国

 韓国は、1982年に6球団でプロ野球(KBO)がスタートしたが、その当初は前後期制を採用し、各々の優勝チームがシリーズを争った。しかし、この制度には、前回で述べたような前後期それぞれの優勝チーム以外に年間勝率1位チームが出現する可能性があるという重大な矛盾を孕んでいる。そこで、1985年に年間勝率1位チームには無条件でシリーズ出場権を与える制度に改正された。新制度では、前後期優勝チームが年間勝率1,2位を占める場合には、両者による韓国シリーズが行われるが、前後期優勝チームのいずれもが年間勝率1位にならない場合は、両者がシリーズ出場権をかけてプレーオフを争い、または、前後期優勝チームのいずれかが年間勝率1位で、もう片方が3位になった場合は、年間勝率2位チームとプレーオフを行うという方式に改められた。せっかく知恵を絞って編み出したこの改正案だったが、サムソンライオンズが前後期とも制覇してしまい、シリーズなしという、最後の盛り上がりかける結果に終わってしまった。やはり、興行的にはこのような結果は非常に痛い。

 そこで、KBOは、ポストシーズン重視へ舵をとる。上記改革案は1年で廃案となり、翌1986年からは前後期の1,2位チームがたすき掛け方式でシリーズ進出をかけてプレーオフを行うことにした。この方式では、たとえ前後期とも制覇するチームがあっても、前後期の2位チームどうしによるプレーオフが行われ、また前期と後期の優勝チームは違うが、2位チームが同一となった場合は、優勝チームのうち年間勝率の低い方が2位チームとプレーオフを行う。シリーズ前のプレーオフがなくなるのは、同一チームが前後期の1位2位を占める場合だけで、リーグ当局としては、この方式により、シリーズ不開催というリスクを避け、「ドル箱」であるポストシーズンゲームをより多く開催できることとなった。以後、韓国では、長いレギュラーズンは、秋の大舞台であるポストシーズンでより優位な地位を占めるための予選という扱いになってゆく。

 そして1989年に球団数が8に増えると、前後期制が廃止され、Aクラスに入った上位4チームが順位に応じたポストシーズンを行うステップラダー方式になり現在に至っている。つまり、はじめに3,4位チームによる準プレーオフが行われ、その勝者が2位チームとシリーズ進出をかけたプレーオフを争うのだ。

 しかし、この制度も10年で改められた。KBOは、1999年から2リーグ制を採用し、この間だけは各リーグの1,2位チームがたすき掛け方式のプレーオフを行い(但しどちらか片方のリーグの3位チームの勝率がもう片方のリーグの2位チームの勝率を上回った場合、準プレーオフを実施)、シリーズへの進出権を争ったが、この方式は、2シーズンしか続かず、2001年には1リーグ制に戻った。

10球団制になった現在においても、ステップラダー方式のポストシーズンを採用しているところを見ると、韓国のファンはこのポストシーズン重視のシステムを支持していると言えるだろう。現在は、4位チームに1勝のアドバンテージを与えた上での5位チームとの2戦制の「ワイルドカード決定戦」に始まり、5戦3勝制の準プレーオフ、プレーオフを経て7戦4勝制の韓国シリーズで年間チャンピオンを決定している。この方式だと、レギュラーシーズン1位チームは最大20日近く待たされることになるが、日本のように待たされることにより試合勘が鈍るというようなネガティブな捉え方はあまりされないようだ。むしろ、1位通過はチャンピオンへの「特急券」、2位は「急行券」、3位なら「準急券」、4位、5位は「普通乗車券」という捉えがなされている。

 

前後期、そして「第3のシーズン」としてのポストシーズン、メキシコ

メキシカンリーグのプレーオフの様子
メキシカンリーグのプレーオフの様子

 Aクラスチームがポストシーズンに進出できるという点では、メキシカンリーグも同様だ。現在16球団2地区制を採用しているこのリーグでは、現在に至るまで前後期制を採用している。かつては前後期の順位に応じたポイントを与え、その合計ポイントによって(優勝チームには大きなポイントが与えられるので、半期の優勝チームがポストシーズンに出場できないことはありえない)、各地区上位4チームがポストシーズンに進むという方式を基本的としていた。1位チームが勝ち上がりやすくするための配慮として、まず同地区の1位対4位と2位対3位チームにより1次ラウンドが行われ、その後、地区優勝シリーズを経て、年度優勝を争う「セリエ・デル・レイ」(王者決定シリーズ)が行われるという方式だ。ポストシーズン進出権は年によっては、12球チームまで拡大されている。また、アドバンテージなしのポストシーズンは基本的に7戦4勝制で行われるため、全てを消化するのにひと月近くかかり、メキシコのファンは、これを前期、後期に続く「第3のシーズン」としてとらえていた。

 しかし、昨シーズン、メキシカンリーグはそのフォーマットに大ナタを振るい、なんと前後期を完全に分けてしまった。つまり、前期シーズンの後、続いて年度前期チャンピオンを決めるポストシーズンを実施、オールスター戦を挟んで後期シーズンに突入するというのだ。そのせいで、かつては、8月中にはメキシコの選手はシーズンを終え、10月から始まるウィンターリーグまでしばしの休暇をとり、また8月初めにはシーズンを終えてしまう下位チームの選手は、アメリカの独立リーグなどに移籍することが多かったが、昨年は、シリーズまで残ったチームの選手は10月になってもポストシーズンをプレーするはめになった。さすがにこれは、選手からの評判が悪く、結局今シーズン、もとに戻された。

ポストシーズンが本番、ウィンターリーグ

ドミニカウィンターリーグのプレーオフの盛り上がり
ドミニカウィンターリーグのプレーオフの盛り上がり

 ラテンアメリカと言えば、そのシーズンはむしろ北半球でいう冬が本番なのであるが、シーズンが短いウィンターリーグでも、やはりポストシーズン重視の傾向が強い。

 メキシコで行われる「パシフィックリーグ」は、夏のリーグと同じく2地区前後期制で行われ、ポストシーズンも基本、メキシカンリーグに準ずる。

 6球団制で行われているドミニカン・リーグの場合、年内にレギュラーシーズンを終えると、年明けからは上位4チームによる「ラウンドロビン」と呼ばれる総当たりのプレーオフが実施される。このプレーオフの試合数は20試合近くあり、もはや「2次リーグ」と言っていいほどだ。このリーグ戦には、レギュラーシーズンの成績は持ち越されることなく、その上位2チームが7戦4勝制の決勝シリーズに進出する。

 8球団制のベネズエラでは、かつては前後期2地区制を採用し、基本的には各々の優勝チームによりポストシーズンが行われていたが、現在は1シーズン制を採用し、レギュラーシーズン6位までがポストシーズンに進出できる。ポストシーズンゲームは全て7戦制で、勝ち星によるアドバンテージはなく、上位チームが先にホームゲームが開催することにより、これをアドバンテージとしている。また、より上位のチームが勝ち抜きやすいよう、より下位のチームと対戦するようになっている。つまりは、シーズン首位のチームは6位チームと対戦し、3位のチームはシーズンの成績が拮抗している4位のチームと対戦するのだ。

 この第1ラウンドの勝者は3。4つ目の椅子は敗者のうち、レギュラーシーズン上位2チームによる一発勝負のワイルドカードゲームによって争われる。この後の第2ラウンドは、第1ラウンドの勝者のうちシーズン最上位チームとワルルドカード、その残りチームという対戦で行われ、その勝者により年度チャンピオンをかけた決勝シリーズが行われる。

 かつては決勝シリーズが9戦5勝制のこともあったプエルトリカン・リーグだが、ここ10年は衰退の一途を辿り、2017-18年シーズンなどは、年明け1月に5球団がチーム当たり18試合のリーグ戦を行うだけとなってしまった。それでもポストシーズンは実施し、昨シーズンは同率の2、3位チームによる1試合のプレーオフの後、5戦3勝制の決勝シリーズを1位チーム、カグアス・クリオージョスが3連勝で制し、続く国際ポストシーズンであるカリビアンシリーズも、メキシコ、ドミニカ、ベネズエラ、そして招待参加のキューバを抑えてタイトルを取っている。

 これら「4大リーグ」の他、ラテンアメリカには、コロンビア、ニカラグア、パナマなどにウィンターリーグが存在している。これらのリーグのほとんどは4球団制で、ニカラグア、パナマでは上位2チームによるプレーオフが、コロンビアでは、ドミニカ同様、レギュラーシーズン上位3チームによるラウンドロビンの後、その上位2チームにより決勝シリーズが行われている。

 ウィンターリーグの場合、レギュラーシーズンは「山場」であるポストシーズンの予選という性格がより強い。それは、まず、そもそもレギュラーシーズンが短いこと、それにとくにラテンアメリカ諸リーグの場合、補強選手制度により、ステージが変わるごとに脱落したチームから主力選手を補強でき、また、メジャーリーガーの参加が主としてポストシーズンからであることによるものだろう。最終のカリビアンシリーズ、ラテンアメリカンシリーズという国際シリーズともなると、その陣容はレギュラーシーズンとは似ても似つかぬ、「リーグ選抜」、あるいは「ナショナルチーム」となっていることが多く、日本人の感覚からすれば違和感ありありなのだが、ポストシーズンいうものが、そのシーズン最高の試合を魅せる場ととらえるならば、ある意味「それもアリ」ということになるのかもしれない。

(本文中の写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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