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“スケート界の宝”20歳になった高木美帆が初の金メダルを獲得した意義

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
世界距離別選手権チームパシュートで金メダルに輝いた高木美帆

日本女子初の金メダル

2月12日から15日までオランダ・ヘーレンフェーンで行われていたスピードスケート世界距離別選手権の女子チームパシュート(団体追い抜き)で、日本女子初の金メダルに輝いた高木美帆(日体大)が17日、成田空港に帰国。五輪に次ぐ格付けの大会での金メダルは格別で、「君が代が流れるというのはこういう気持ちなんだと初めて感じた。何とも言えない感動があった」と喜びを語った。

チームパシュートは3人ずつがチームとなって1周400Mのリンクを同時に6周滑り、最後にゴールした選手のタイムで競う。五輪ではトーナメント方式になっているが、距離別選手権では8カ国が2チームずつ4組に分かれて滑り、タイムを競う方式だった。日本は第3組でポーランドと同走し、3分1秒53の好タイムをマーク。すると、これが最終第4組で滑った地元オランダチームへのプレッシャーとなり、オランダは入りの1周をハイスピードで回ったために終盤に失速。日本の優勝が決まった。

「3年後の平昌五輪で頂点を取れるように」

高木美帆
高木美帆

北海道・札内中3年だった2010年、日本チーム最年少としてバンクーバー五輪に出場し、脚光を浴びた。中学までは部活でサッカーもやっており、ポジションはFW。男子に混じってレギュラーとして活躍し、女子の北海道選抜に選ばれて女子ナショナルトレセンにも参加した経験がある。

帯広南商業高校に進んでからはスケート一本に専念。世界ジュニア選手権で優勝するなど活躍した。ところが日体大1年で迎えた昨年のソチ五輪には出場できず、悔しさに暮れた。

不振を引きずっていた今シーズン前半もW杯メンバーに選ばれずに苦しみ抜いたが、悩みながらもコツコツとトレーニングを重ねて調子を取り戻し、後半戦に代表メンバー復帰。今回は五輪に次ぐビッグイベントである世界距離別選手権で姉の高木菜那(日本電産サンキョー)、菊池彩花(富士急行)と組み、最強オランダチームを100分の2秒上回る僅差で金メダルを獲得した。

美帆は6周中3周で先頭を務めて快走。菜那と菊池は次の大会に備えて引き続き欧州で調整しているため、金メダルメンバー3人の中でただ1人の帰国となり、「自分だけ話していいのかな。良いラップを刻んでくれた菊池さんと、スピードを上げる良い流れで引き継いでくれた姉のお陰」と感謝した。

橋本聖子会長「スケート連盟の宝」

成田空港で取材を受ける高木美帆
成田空港で取材を受ける高木美帆

15歳で五輪舞台を踏んだ“中学生ヒロイン”は昨年5月に20歳になった。「勝ったのはうれしいけど、オランダがベストならまだ自分たちの力では及ばない」と冷静に振り返りながら、「でも、何が起こるかわからない楽しさはあるし、勝てるということは分かった。3年後の平昌で頂点を取れるようにやっていきたい」と2大会ぶりの五輪に向けて力強く前を見据える。

これには日本スケート連盟の湯田淳スピード強化部長も「バンクーバー五輪に中学生で出たとき、橋本聖子会長が『彼女はスケート連盟の宝。この宝をより光らせ、世界に送ってあげないといけない』と話していたことを今も覚えている。この子をつぶしてはいけないとずっと思っていた」としみじみ。「ソチ五輪に出られなかったときも、自分で悩み抜いたことで精神的に強くなったのだと思う。日体大での去年の1年間は精神的な強さを培ったというところで大きかったのだろう」と復活を称える。

女子五百メートルで銅メダルを獲得した小平奈緒(相沢病院)の活躍も含め、ソチ五輪でメダルゼロに終わった日本スピードスケート界にとって久々の明るい話題だ。

金メダル獲得の背景には、日本スケート連盟挙げての強化策がある。女子チームパシュートはバンクーバー五輪で小平、田畑真紀、穂積雅子が銀メダルを獲得した得意種目。連盟はメダル獲得が有望なこの種目をソチ五輪シーズンの前年である2012年から組織的に強化することを決定し、チームパシュート合宿を導入した。美帆も菜那も菊池も当時から合宿に参加していた。

美帆が出なかったソチ五輪では4位だったが、連盟はスピードスケート陣がメダルゼロと惨敗した反省から昨年7月から各所属を離れてナショナルチームとして練習するシステムを導入。選手たちの息はぴったりだった。

「菊池さんとは一緒に練習しているし、姉とは姉妹ということで(息が合うという)よくわからない自信がある。それを生かせる場だと思っていたので、力を発揮できて良かった、結果として残せて良かった」

そう話す美帆だが、バンクーバー五輪の雪辱にはまだ至っていないと感じている。日本が銀メダルに輝いたバンクーバー五輪では美帆もチームパシュートメンバーの一員だったが、1回戦から決勝までの3レースで一度も出番がなかったため、メダリストにはなれなかった。「(雪辱の)その思いはオリンピックで晴らすもの。そのための1つ目のステップにはなったかと思う」と、平昌五輪に向かう決意を一層強めた。

まずは3月の世界選手権で自己ベストを

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今シーズンの戦いはまだ残っている。3月7、8日に高速リンクのカナダ・カルガリーで開催される世界オールラウンド選手権だ。

「個人としての目標は世界選手権。自己ベストを出して、記録をしっかり更新していきたい。3年後の平昌を見据えてまだまだ課題も山積みだと思うので、目先のことだけではなくその先を見据えていろいろなことに取り組んでいきたい」

平昌五輪では、距離別選手権で4位と健闘したマススタートが新たに正式種目として追加採用される見通しだ。マススタートは滑走者全員(今回は22人)が一斉にスタートして16周滑り、4、8、12周の時点で順位に応じたポイントが与えられ、3位までは着順で決まるが、ポイントを取れば着順が遅くても上位に食い込める。

「マススタートもメダルに近い種目。まだ浸透していないけど、知っていくと面白い競技だと思う」

レース経験は豊富だがまだ20歳。さらに伸びていく要素も多いうえに、湯田強化部長は「順調に来ていたら脆さがでるが、彼女は精神的に強くなっている」と太鼓判を押す。美帆自身、「今回は自信になった」と言っている。壁を乗り越えてつかんだ金メダル。それは強いメンタルを手にした20歳のアスリートをさらに前進させていくはずだ。

【ソチ五輪スピードスケート】代表20人でメダル23個。オランダはなぜこんなに強いのか

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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