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韓国政府の「元徴用工解決策」に対する韓国メディアの反応は? 5紙の社説から検証!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日本企業に賠償を求める元徴用工と支援団体(JPニュースから)

 韓国政府は今日にも元徴用工問題に関する韓国側の解決策を提示する。

 懸案の元徴用工への補償金は韓国政府傘下の財団が日本企業の賠償を肩代わりする「第3者弁済」形式が採用されることになるが、韓国のメディアは尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権のこの解決策をどう受け止めているのか、正式発表を前に経済紙を含め大手5紙の今朝の社説(結論部分)からみてみる。

 まずは韓国の保守を代表する以下の2紙の社説を取り上げる。

 ▲東亜日報「強制徴用解決策を韓国が先に提示・・・日本は今後100年をみて、答よ」

 「ボールは今や日本の手に渡った。日本政府は韓国が提案した解決策を引き継ぎ、可能な限り前向きな措置で対応すべきである。真心を込めて被害者に謝罪の意思を表明し、日本企業の賠償・基金活動への参加もその規模と範囲を拡大すべきだ。強制徴用以外にも佐渡鉱山、軍慰安婦、独島(竹島)など解決すべき過去史や懸案が山積しているのが現実だ。突破口となるこのチャンスを逃せば、両国すべての若い世代に新たな未来を開くことができない。日本には次の100年を見据えた姿勢で答えを出してもらいたい」

 ▲朝鮮日報「徴用解決、慰安婦再版にしたくなければ、日本の供応措置が伴うべき」

 「韓国は金がなくて日本企業の参与を要求しているわけではない。日本はそのことをよく知っているはずだ。日本政府は過去の協定だけを主張するだけでなく、韓国政府の決断に応えるべきだ。それによって今回の合意が継続されるかどうかが決まる。徴用合意が過去の慰安婦合意の前轍を踏むか、それとも未来志向的な日韓関係の新たな出発点となるのかは、今や日本の後続措置にかかっている」

 どちらも日本に注文を付けている。即ち、韓国側の提案を受け入れ、それ相応の善処を講じてもらいたいというのが共通した主張となっている。

 次の2紙はどちらかと言えば、政府に批判的な論調が目立つ媒体である。

 ▲京郷新聞「賠償でなく『共同基金』・・謝罪の代わりに『談話継承』は解決策ではない」

 「韓日関係は重要である。そのために強制動員問題を早期に解決する必要はある。しかし、尹錫悦政権はあまりにも性急で未熟だ。韓米同盟、韓米日協力の強化だけを叫んだためこちらの内心をすべてさらけ出してしまい、交渉の主導権を日本に渡してしまった。結果として、加害者である日本は動じることなく、韓国が合意を懇願するざまになった。強制動員の解決において重要なのは合意そのものではなく、その内容だ。日本との関係改善は必要だが、過去史に対する反省が前提でなければならない。そして、被害者の同意が不可欠だ。現在伝えられている(政府の)解決策は問題解決とはならず、対日外交の深刻な失策であり、重大な間違いであり、国民の抵抗を引き起こすだろう。政府は(解決策を)発表すべきではなく、改めて方向性を議論すべきである」

 ▲韓国日報「戦犯企業の抜けた徴用解決策・・・日本は相互措置を取るべき」

 「(元徴用工ら)当事者らが(韓国政府の)解決策を拒否すれば、被告企業の没収資産の処分強行や第3者返済の有効性に関する法廷での論争が不可避となる。政府が(日本に)低姿勢だったとの批判が沸騰すれば、2015年の韓日慰安婦合意の失敗再現を憂慮せざるを得ないだろう。(前略)北朝鮮の核武装の高度化、朝鮮半島を取り囲む新冷戦構図の深化など安全保障の環境を考えれば、日本との関係回復と韓米日の協力強化はいつにも増して切実である。近い隣国と過去に足を引っ張られるわけにはいかない。だからと言って、日本との関係をいっぺんで整理する性急さには無理がある。加害企業が被害者賠償に参与し、謝罪するよう忍耐強く説得することが正攻法である。我が政府の努力だけでなく、日本政府の前向きの姿勢が必須だ」

 尹錫悦政権の解決策を評価していないことがわかる。この他に「ソウル新聞」と経済紙「韓国経済」が社説で取り上げているが、いずれも政府案への支持を表明している。

 ▲ソウル新聞「強制動員解決策 残念だが日韓の未来に向けての踏み台に」

 「何よりも未来に向かおうとしている政府の強制動員解決策を他の政争の道具にしようとする一部の動きを警戒しなければならない。日本を『連帯と協力のパートナー』に規定した尹錫悦大統領が3月1日の記念演説を巡っては葛藤が巻き起こったばかりだ。反日を国政の原動力として運営してきた過去の政権が何を得たのかを冷静に振り返えなければならない。相手がある国際関係では一方的な勝利や一方的な敗北はない。強制労働の解決策も平和、安定、繁栄という反作用があることを認識しなければならない。今こそ強制徴用被害者とその家族を慰労し、説得するための努力を本格的になすべきである」

 ▲韓国経済「韓日過去史を大局的に終わらせ、『自由・未来』に共に向かうべき」

 「岸田首相が金大中・小渕パートナー宣言を引き継ぎ、痛切な反省と謝罪の意を表明することを決定したことは評価できる。中国発の安保・経済リスクの増大と北朝鮮の核の脅威などを考えると、韓日協力の必要性はこれまで以上に切迫している。両国は民主主義と市場経済という普遍的価値に基づき世界の平和秩序に同行すべきパートナーでもある。和解の波が続く中で輸出規制の撤廃や日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)の正常化といったフォローアップ措置も速度を上げるべきだ」

 韓国のメディアも現状では賛否両論に分かれているが、今後、世論の動向によってその論調が変わることは十分あり得る。それが韓国だ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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