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G7サミットで議論される「気候変動対策と途上国への支援」。カギを握る「清浄な水へのアクセス」

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
ジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

3つのキーワード、①気候変動の対応力、②水アクセスレベル、③気候資金の分配

 5月7日の日本経済新聞「気候変動対策で途上国支援 G7サミットで議論へ」によると、英国のジョンソン首相は、6月に英国のコーンウォールで開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、気候変動対策を主要議題に据える考えを示した。気候対応を進めるための途上国への金融支援の拡大などを話し合う。

 この議論の背景にある課題について考えてみたい。

 2020年、開発途上国の水と衛生を支援する国際NGOウォーターエイドが、「気候変動対策の少なすぎる予算が明らかに」というレポートを発表している。

Short-changed on climate change
Short-changed on climate change

 レポートは「今後、気候変動の影響が激しくなり、渇水や洪水が繰り返し発生すると予想される」としたうえで、

①世界の貧しい国のほとんどは、気候変動への対応力が弱い

②気候変動への対策には、安全な水が必要であるが、現状の水アクセスレベルは低い

③気候変動への対応力が弱い国への、気候資金の分配が低い

 とまとめている。3つのキーワード、①気候変動の対応力②水アクセスレベル③気候資金の分配について、具体的に見ていこう。

 ①気候変動への対応力は、ノートルダム・グローバル適応力指数(Notre Dame Global Adaptation Index)で表される。

 この指数は、気候変動が「食料と水の利用可能性」「国家の健全さ」「インフラ」「生態系サービス」に、どんな影響を与えるかを調査し、国が経済・政治・社会の面で気候変動に対応できるかを評価する。

 たとえば、インドのノートルダム・グローバル適応力指数は、「気候変動に最も脆弱で気候変動への対応が最も進んでいない国、上位38%」にランクされている。

 インドの②水アクセスレベルを考えると、農村部の6340万人が清浄な水を利用できないし、コミュニティの大部分(90%)は野外排泄を行っているので、雨季になると村は人間の排泄物で汚染される。気候変動によって気温が上昇すれば、この状況はさらに悪くなる。

 次に、ノートルダム・グローバル適応力指数のランキングで第7位となっているスーダンの②水アクセスレベルはどうか。

 国土の大半は北のサハラ砂漠から続く砂漠地域。北部ほど雨量が少なくエジプト国境付近では25ミリ以下。人口のおよそ40%が家の近くで清潔な水を手に入れられない環境で生活している。水道の恩恵を受けられていない小さな村落では、直接川から水をくんで利用しているところも多い。

 しかし川には、人や家畜の排泄物を含む様々なものが流れこんでいる。人々は、感染症の危険は理解しているが、他に選択肢がないために、不衛生な水を飲まざるを得ない。スーダンでも気候変動は大きく近年は降水量が少ない。

 さらにスーダンへの③気候資金の分配は、年間1人当たり1.33ドル(約144円)だった。

気候資金総額が不十分であり、対応力の弱い国への配分が少ない

 気候資金とは、1)温室効果ガスの排出を抑制する緩和策2)気候変動による影響に備えるための適応策を実施するための資金だ。種類はさまざまで、多国間気候資金、2か国間クレジット制度、プライベート基金などがある。

 気候変動の対応のカギを握るのが、安全な水へのアクセスである。信頼性の高い給水サービスが機能していることは、気候変動に対する重要な防御となる。

水へのアクセス状況(著者作成)
水へのアクセス状況(著者作成)

 しかしながら、政府の気候変動対策担当者が、「気候変動対応」と「安全な水アクセス」との関係性を理解していないと、適切な資金配分がなされない。

 レポートによると、自宅あるいは近所で水を手に入れられる人の数が最も少ない10カ国では、水・衛生を整備するために得ている資金は、平均で、年間1人当たり0.83ドル(約90円)だった。

 こうした状況を変えなければ、気候変動の影響をすぐにでも受け、命の危険にさらされる人が数多くいる。

 水と気候変動には大きな関係がある。

 水の多い場所では気温が上がると、空気中の水蒸気の量が増え、湿度が高くなる。湿度が高くなると強い雨が頻繁に降り、洪水が増える。洪水は糞尿など汚染物質とともに居住地域の水源を襲う。そのため居住地域や水源が不衛生になり、水に困るようになる。

 水の少ない場所では気温が上がることによって、土に含まれている水分が蒸発しやすくなるため、さらに乾燥が進み、水不足や干ばつが起こりやすくなる。その結果、水の奪い合いがはじまる。地域同士の争いや国境を越えた緊張につながる可能性もある。

 G7での議論も、「気候変動の対応」と「清浄な水へのアクセス」の関係性を踏まえたうえで行うべきだ。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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