パパ、スーパー戦隊は仕事なの?「スーパー戦隊とマーケティング」
非営利組織のマーケティングは社会課題解決の仕組みづくり
スーパー戦隊を仕事にしていくにあたり、その「公益性」と「資金調達」について検討をしてきました。今回は、“課題を解決しよう、社会を変えて行こう”と立ち上がった非営利組織を支援する株式会社PubliCo(パブリコ)の長浜洋二氏(以下、長浜さん)、山元圭太氏(以下、山元さん)に、「スーパー戦隊とマーケティング」についてお話を伺います。
工藤:いつも大変お世話になっております。本日はよろしくお願いします。本日はスーパー戦隊におけるマーケティングについて助言をいただきに来ました。そもそも、営利組織のマーケティングと非営利組織のマーケティングに違いはあるのでしょうか。
長浜さん:営利組織では「売れる仕組みづくり」といわれるマーケティングですが、非営利組織にあてはめると、「社会課題解決の仕組みづくり」とでもいえるでしょう。端的にいうと、社会課題の実態を分析・把握し、ひとや地域など特定のターゲットを設定し、それらのニーズに応える商品やサービスを開発・提供し、社会課題を解決していく活動のことです。
営利組織との違いでいうと、「第二の顧客」が存在している点が大きいですね。営利企業は対価を得る前提で、商品やサービスの購入者や利用者からお金をいただきます。子どもが対象の商品やサービスでは親が資金拠出者になることもありますが、相手がはっきりしています。
工藤:いわゆる、受益者負担の原則ですね。
長浜さん:そうです。しかし、商品やサービスを購入できない社会的弱者を支える分野や環境分野のように、そもそもの対象が薄く広くみんなに関係するけれども、相手が明確でない場合、自分たちの活動を支えてくれる第二の顧客を広く獲得していくことになります。
スーパー戦隊は、お金を持っているひとも、そうでないひとも、対象を選ばずに守っていく社会性、公益性を強く帯びています。そのなかでいかに仲間を増やしていくのかを考えていかなければなりません。
工藤:スーパー戦隊の隊員たちが「自分たちも積極的にマーケティングをしていこう」と考えたとき、まずは何から始めるのがよいでしょうか。
長浜さん:突如現れた地球を滅亡させようとする存在が、それこそ毎週のように襲ってくるわけです。心身を休める暇すらないでしょう。大変厳しい精神状況であってもなお、彼らには現状整理と分析のための時間を確保してほしいです。誰が敵で、誰が味方なのか。実態をきちんと把握する。そのなかでステークスホルダーの顔が輪郭を帯びてきます。
そこをさらに掘り下げていき、さまざまなレイヤーのひとたちが、自分たちの活動に関わっている、関わってくれる可能性があるということがわかってきます。多くの非営利組織を見てきましたが、それができないままに活動をしている非営利組織が非常に多いです。
工藤:迫りくる敵に対しとてやみくもに戦い続けるのではなく、ほんの少しだけ考える時間を作るように促すわけですね。
長浜さん:そうです。本当に彼らは敵なのか。敵だとしたら何人くらいいるのか。幹部とザコキャラの数まで把握したい。また、どんな武器を持っているのか。攻撃パターンはいくつあるのか。甘いものが好きなのか嫌いなのか。泳ぐことが得意かそうではないのか。大切にしている思い出や忘却したい出来事はどんなことなのか。コミュニケーションが取れるのか取れないのか。戦ってからでないと得られないものもあるでしょうが、とにかく相手の情報を得ることです。
工藤:そうはいっても相手は未知の生命体かもしれません。分析する手がかりを見つけることすら一苦労ではありませんか。
山元さん:最初から全容が明らかになっていることなどありません。だからこそ、目の前の課題を解決する-敵を倒す-とともに、俯瞰的視野を持って問題の本質を捉えていかなければなりません。
長浜さん:スーパー戦隊に限らず、社会がいまだ気がついていない問題は山ほどあるでしょう。しかし、問題の所在と本質を多くのひとに知らせていくのも非営利組織の重要な活動です。
例えば、犯罪白書や政府の統計データを調べてみたり、過去の科学的に解明されていない事件や事故を調べ直してみたりと、やれることはいくらでもあるはずです。これまで地球を救ってきたヒーローを図解した書籍も大きな示唆となるでしょう。
山元さん:まずは自分たちを取り巻く外部環境を把握してみてはいかがでしょうか。その手法のひとつとしてPEST(ペスト)分析を隊員のみなさまにやっていただきましょう。PEST分析は四つの観点、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)で外部環境を分析していくものです。
工藤:そうはいっても、いきなり政治や経済など大きな枠組みで考えるのは難しくないでしょうか。
山元さん:自分たちに関係ある身近なことから始めてください。Pで言えば、現政権においてスーパー戦隊の活動を応援してくれそうかどうか。前回、佐藤氏が有事の際スーパー戦隊の活動を制限しない法律の必要性について言及されていましたが、政権与党内に理解を示す政治家がいるかどうか。むしろ反発が多いのかを考えてみる。
工藤:なるほど。そうなると各政党が掲げる公約をしっかり読み込み、敵を倒し、平和な世界をともに作ってくれる政党や政治家をしっかり選んでいかないといけません。それはSとも密接に絡んできます。選挙は大事ですね。
長浜さん:大事ですね。他にも、労働者の所得が下がれば寄付をしていただきづらくなります。スーパー戦隊にとって雇用・労働政策も他人事ではありません。円高や円安がスーパー戦隊の活動を左右することだってあるかもしれません。
巨大ロボで戦うのであればTは外せません。ロボの性能が飛躍的に向上する新しい技術が、まさにいま生まれようとしているかもしれません。いまよりもずっと低いコストでロボ製造ができれば、余剰分でひとつ機能を追加できる可能性もあります。先代ロボを踏襲した技術でロボを発注していてはいけないんです。
山元さん:技術革新により敵との戦闘被害を最小限に抑えたり、一撃で倒せたりするかもしれません。また、敵の巨大化を未然に防止する薬品の開発だってあり得ます。まだ敵の幹部が出て来ないうちに落ち着いて外部分析をしましょう。
工藤:一撃で倒すという山元さんの言葉に、魔界塔士サ・ガで、最後のボスをチェーンソ攻撃一回で倒せたことを思い出しました。スーパー戦隊とまったく関係ありませんが。
長浜さん:ドラゴンボールに相手の強さを数値化して戦闘力を把握するスカウターってありますよね。技術向上により一目で敵の強さが把握できれば、隊員が戦わなければいけないのか、他の誰かでいいのか、すべての仲間とあらゆる手段を使って戦うべきなのかがわかります。
工藤:無関係なゲームの話題に漫画ネタをかぶせてのご説明ありがとうございます。
山元さん:これまでは目の前に現れる敵を倒すことで精一杯だったかもしれませんが、敵の出現に全力で立ち向かうだけが正しい戦い方とは限りません。よりよいスーパー戦隊活動を推進するため、戦略を定義(再定義)することにも取り組みたい。私は隊員に3C分析も進めたいです。
工藤:「自社(Company)」「市場/顧客(Customer)」「競合(Competitor)」を整理、分析をしていこうということですね。
長浜さん:ちょっといいですか。工藤さん、3C分析は自社からやってはいけません。
工藤:なぜ自社からではいけないのですか。最終的には三つともやるわけですから同じではないでしょうか。
長浜さん:自社から入ってしまうと、他の二つのCについて、自分たちにとって都合のよいものや、やらない言い訳となるようなデータやエビデンスを探してしまうのです。
山元さん:まずは外部環境としての市場と競合を考えていきましょう。スーパー戦隊の活動市場には多様な敵が現れます。そのなかで市民や国民を守っていくわけです。そのときの競合は誰でしょうか。私たちが安全に、安心して暮らせる日常を守っているのはスーパー戦隊だけではなく、例えば警察や自衛隊も考えられます。彼らの強みはどこにあるのか。組織的な課題の所在も把握したいです。
工藤:戦いに敗れることは日本の一部の地域だけに留まらず、世界に甚大なる被害をもたらす可能性があります。
山元さん:競合とは必ずしもライバルのことを指すわけではありません。ある目的を達成するにあたっては競合同士が手を取り合って協働するのがベストの選択かもしれないわけです。
誰にも届かない、「みんなに届けたい」想い
長浜さん:外部環境の整理、分析が終わったら自組織の分析に取り組み、ミッション達成を目指してどう戦略を持って活動すればいいのかを常に考えていくようにしましょう。
工藤:マーケティングは一回で終わらない恒常的な活動です。毎回全員で集まるのは非効率またはコスト高になりませんか。
山元さん:マーケティング担当の隊員をひとり決めて、他の四人をうまく巻き込んでいくのはどうでしょうか。
長浜さん:主担当をしっかり据えること。そしてみんなが議論やアクションにかかわり、担当者を孤立させないことが大切です。
工藤:前回の「スーパー戦隊と資金調達」において情報発信担当者を置く必要性が議論されました。さらにマーケティング担当でひとり抜けると、実際の戦闘を3人の隊員で担わなければならなくなります。戦力40%減のスーパー戦隊は不安過ぎます。
長浜さん:ここは兼務にしましょう。戦いもするし、分析もやる。
山元さん:情報発信担当の隊員が兼務でいいでしょう。
工藤:承知しました。さて、スーパー戦隊がマーケティングに取り組むにあたって、まずはPEST分析や3C分析で現状の把握、外部環境と内部環境の整理分析から始めていく提案をいただきました。そのなかでやはり第二の顧客である多様な協力者、応援団を集めていかない限り、限られたメンバーで戦い続けなければならなくなります。
山元さん:非営利組織が失敗しやすい取り組みとして、応援してもらいたい内容や目的を明確にせずに、むやみやたらと沢山の人に情報を投げかけてしまうということがあります。寄付者、会員、プロボノなどを募るにあたり、やみくもにやっても成果は出ないのです。
典型的な例として、「寄付を集めたいからウェブサイトをリニューアルしました」というのがあります。そこでいくつか質問をしていくと、デザインはウェブ会社にお任せで、誰もアクセス解析をしていない。実際にウェブサイトを通じて寄付者になったかどうかの確認もない。
長浜さん:○○入門講座開催のチラシを作りました。とりあえず最寄りの市民活動センターの情報ラックに置いてもらいました。参加者がどこで情報を知って、どこに関心を持って参加したのかは把握しようとしない。これもよくある例です。
工藤:とにかく多くの人の目に留まるよう情報を発信しています、というやつですね。
長浜さん:自分たちはよい企画を立案して懸命に情報発信をしている。志あるひとは気がついてくれるはずだという思い込みです。
工藤:手厳しいですね。しかし、何かしらの努力をしているわけですから、少しでも成果に近づけるようにするためにマーケティングは大切ですというのが今回の趣旨ですね。
山元さん:そうです。「みんなに届けたい」は、誰にも届いていない。そこでよく提案するのが「特定の誰かに届けましょう」というものです。そのためには『ペルソナ』を作ることが有効です。
工藤:隊員がペルソナという単語を知らなかったらどう説明しますか。
長浜さん:「あたかも実在するかのような人物像」と説明します。
山元さん:ペルソナを立てるとき、自分たちがどのようなひとを欲しているのか徹底的に、具体的に描いていき、ペルソナにとってもらいたい行動を決めます。寄付やボランティア登録などが一例です。
そして実際にペルソナに行動してもらうため、どういうツールを使い、どのような言葉を紡ぎ、どのタイミングで何回投げかけるべきかを決めていくんです。私たちの方でスーパー戦隊六人目採用のためののペルソナ像を作ってみました。
工藤:この筒井大介さん、傍から見たらすこぶる順調な人生ですね。スーパー戦隊六人目の応募は周囲が全力で止めそうです。しかし、志望背景とスーパー戦隊との接点を読むと、応募は唐突な選択ではなく必然とすら思えます。隊員採用以外で、スーパー戦隊がペルソナを設定するとしたらどんなケースがありますか。
山元さん:例えば、寄付者を募るとしましょう。やみくもに寄付をお願いするのではなく、寄付をしてくれそうなひとを思い描きます。過去スーパー戦隊に子どもを救ってもらったお母さん。敵が頻出する町で商売をしている商店街のおじさん。過去の敵戦闘員でいまは一般人として生活されているひと。
工藤:スーパー戦隊の活動に多かれ少なかれ関係していそうなひとたちですね。
山元さん:寄付者になり得るペルソナ像を描いたら、その像に近いひとたち複数人にヒアリングをしてください。その結果を踏まえてペルソナシートを完成させていきます。このお母さんは普段何を考えているのか。食べ物の好き嫌いはあるか。何に関心を持ち、どういう書籍を読んでいるのか。情報の取得ツールはスマホかテレビか。そうやってペルソナを具体化していきます。するとアプローチ方法が見えてきます。
過去に敵戦闘員であったひとは、いまはビジネスで成功しており、大手を振っては言えないけれど匿名であればスーパー戦隊に資金提供して償いたいかもしれません。
長浜さん:ここで先ほどの3C分析を使いながら、今日現在、スーパー戦隊の活動を支えてくれている寄付者はどのようなひとか見てみましょう。現寄付者とこれから寄付者になってほしいひと(ペルソナ)に親和性が見つかるかもしれません。そのようなプロセスで施策を打っていきます。
山元さん:今回は新規にペルソナを設定されるわけですよね。組織内の経験値がゼロであれば、既に出回っている統計データなどの活用に加え、スーパー戦隊の諸先輩方が救ってきた市民や国民の声を拾い集めてみましょう。先輩戦隊に連絡をして、ヒアリングに協力してくれる市民を紹介していただくのがいいのではないでしょうか。
工藤:ここまでやると実際に寄付は集まるものですか。
長浜さん:もう少し準備作業が必要ですね。ペルソナを設定したら、次は作業レベルに落とし込みます。支援をすることの価値を明確にし、支援に対するリターンの設計、PDCAサイクルの準備もしておきます。
それ以外にも潜在顧客に対する広報手段を考え、タッチポイントを作る必要もあります。街中での戦闘中は、周辺に逃げ隠れているひとと接点が生まれやすい。彼らは潜在顧客になります。この接点を活かさない手はありません。
工藤:そうはいっても、ゆっくり活動を説明したり、寄付の依頼をする暇はありませんよね。敵の攻撃を交わしながら市民を守らなければなりません。「大丈夫ですか。こちらに逃げてください。よければLINEしませんか?」「もう安心です。私たちが守ります。ぜひ寄付もご検討ください」という展開は想像しづらいです。
確かに助けてもらったけれど、「あの場面で寄付依頼はないよね」と戦隊ブランドの毀損リスクが高まります。
山元さん:戦闘中に連絡先を交換したりチラシを手渡したりすることは難しいかもしれません。いままさに敵に囲まれている市民がみたら憤慨するでしょう。ただタッチポイントは必ずしもチラシや名刺だけではありません。
スーパー戦隊に関わるひとたちが共通のユニフォームやTシャツを着ていると印象に残りやすいです。ユニフォームにフリーダイアルや公式ウェブサイトのURLを記載しておきましょう。一般社団法人○○ジャー(設立準備中)と組織名は大きくプリントしてください。その他、車やバイク、ロボットなどの空きスペースにも情報掲載が可能です。
決め台詞は、マンスリーサポーターとしてともに戦おう!
山元さん:繰り返しになりますが、第二の顧客の獲得で失敗しがちなのは、広くたくさんのひとに応援してもらおうとすることです。これはステークスホルダーピラミッドです。ピラミッドの下層から上層になるほど、その組織に対する貢献度が高くなります。青が潜在層、オレンジが支援者層、赤がロイヤリティ層です。この三角形を描き、現在の寄付者や応援者がそれぞれどこにいるのかを当てはめていきます。
工藤:たくさんのひとに応援してもらうと思うと、情報発信はピラミッド全体に向けてのものになりがちですね。
山元さん:多くの非営利組織は潜在層を“なんとなく”広く集めようとします。この層はまだ寄付もボランティアもしていないレイヤーのひとたちです。まずは何らかの形で活動に貢献してくれているオレンジ層に狙いを絞って協力を募っていきましょう。大切なのは協力してほしいことを具体化させておくことです。
工藤:青(潜在層)にアプローチをして、そのなかから支援者が生まれてくるというプロセスではないんですね。
山元さん:まずは具体的な協力要請に応えてくれるオレンジ層が先です。誰もが寄付やボランティアから入れるわけではありませんので、戦略的に潜在層を獲得していきます。
潜在層は具体的に支援したい何かを持っているわけではないため、彼らが貢献したいことと、組織が得たい支援をデザインして、青からオレンジの層にあがってもらうのです。
工藤:スーパー戦隊の活動で設立当初からの理解者は少ない印象があります。
山元さん:師匠とか、隊員の家族や親族などがロイヤリティ層ですね。一般社団法人を設立するときに理事や監事をお願いしましょう。最初に敵が現れたときに助けた市民などは、偶然であってもオレンジの層になりやすいはずです。しっかりと事情を説明して支援者になっていただきましょう。
工藤:非常に怪しい組織に映ったとしても、目の前に現れた未知の生命体から救ってくれたとなれば、その信頼度は計り知れないですね。
山元さん:そこで大切なのは偶発的に支援者になってくれることを願うのではなく、意識的に支援者になってくれるようにアクションを起こすことです。
信頼と熱量を持った支援者は一般市民とのつなぎ役を担ってくれたり、スーパー戦隊を知らないひとにとって自組織がどのように観察されているのかといった一般目線の助言をくれたりします。
工藤:手弁当での活動に理解者を増やしていく。それが回ってくると「もっとこういう機能を担ってくれるひとがいたら」と具体的なニーズが見えてきそうですね。
山元さん:そういうときにペルソナが役に立ってきます。
工藤:青からオレンジ、オレンジから赤へとステークスホルダーピラミッドを意識して仲間を募ることが理解できました。
非営利組織が抱いているもうひとつの課題があると思います。それが継続性ではないでしょうか。寄付やボランティア参加は大変ありがたいですが、できることならともに課題を解決していく仲間として長く活動をしていきたい。
山元さん:スーパー戦隊の活動で大きなチャンスとなるのはヒーローショーです。非営利組織にとって、対面で問題の訴求とソリューションの提示を同時にできる機会は最大限活かさなければなりません。
工藤:ゴールデンウィークや夏休みは事前にチケットを予約していないと入れない。入場ができたとしても、いい場所で観られないほどの人気ですね。
山元さん:潜在層が自ら足を運び、お金を払って来てくれるというのは非常に稀有な組織です。大切なのはその場所でクロージングまで持っていくことです。クロージングとは寄付してもらう、会員になってもらう、ボランティア登録をしてもらう、といったことです。
工藤:来場者に言葉で呼びかけたり、団体資料を渡すだけではだめということでしょうか。
山元さん:その通りです。その場で寄付、次のボランティア・デイ参加登録ができるようにしてください。もっとも意識したいのが毎月引き落としのマンスリーサポーターになっていただくことです。
模擬戦闘の決め台詞、テレビCMの最後には「マンスリーサポーターとしてともに戦おう!」と声をかけましょう。「僕と握手!」では機会損失です。
工藤:確かに、東京ドームシティ―のヒーローショーに子どもたちと行ったとき、隊員との握手やハイタッチで感激するわが子を見ました。あのとき「パパ、僕もマンスリーサポーターとして一緒に戦う!」と言われたら・・・
山元さん:そうでしょう!マンスリーサポーターなど会員制度を考えるにあたっては4つのRを考えなければなりません。「リクルート:新規登録者の獲得」「リテンション:会員継続」「リアクティベーション:再活性」「リバイバル:復活」です。
工藤:リクルートとリテンションは思い浮かべやすいですね。
山元さん:大半の非営利組織はリクルートのみ。よくてリテンションまでしか考えていません。しかし、会員継続してくれたとしても、入会当初に生まれた高いモチベーションは徐々に下がるものです。そのひとたちを再活性する施策も大変重要なんです。
工藤:具体的な事例をいただけますか。
山元さん:新規会員登録から退会までの期間が平均半年であることがわかったとしましょう。その場合には、登録4,5カ月目の会員向けに特別ヒーローショーを開催したり、ロボ試乗会、戦闘現場見学などを実施するのです。常に会員になろうと決めたときの気持ちを抱き続けてもらいましょう。そしてもっともっと一緒に戦いたいんだという仲間意識を涵養します。
工藤:なるほど。戦闘現場見学はさすがに危険過ぎますが、元会員向けのイベントなど、リアクティベーションとリバイバルはしっかりと意識しておきたいですね。
長浜さん:「地球平和の維持」という、受益者と応援者のニーズを見極め、それを実現するための最善の方法を考え続ける。それがマーケティングです。マーケティングに終わりはありません。そして、われらがスーパー戦隊シリーズにも終わりはありません(笑)
<結論>
マーケティングは営利組織が利益を最大化するためにするもの、という誤解が非営利業界にはあります。また、一生懸命やればうまくひくはず。心を込めて訴えれば言葉は届くはず。確かに一生懸命やることや心を込めることの重要性は否定しませんが、うまくいかなかったとき、その理由を社会の不理解や市民の志の低さ、誰もわかってくれないというところに落ち着くようであれば「問題の社会化」「社会課題の解決」への道のりは遠いと言わざるを得ないでしょう。
「ペルソナ」については、具体的な事例をいただきました。ある程度、ふわっとした「ペルソナ」を持っている非営利組織は多いのではないでしょうか。だいたいこんな感じの人が応援してくれる。逆に、こういうタイプ、世代、経歴のひとは応援してくれないというものです。しかし、関係者での議論や外部ヒアリングを通じて事例のように絵図や文字に落とし込むところまで行っている非営利組織はほとんどないものと思います。そこまでされているところがあるとすれば非常に先進的か、パブリコにコンサルテーションを受けた非営利組織ではないでしょうか。営利組織では当たり前になされていることを私たち非営利組織にかかわる人間も学び、実践に落とし込んでいく必要性を感じました。
最後、長浜氏より「マーケティングに終わりはない」という言葉をいただきました。この部分だけ一言申し上げさせていただければ、マーケティングそのものに終わりはなくとも、非営利組織は社会課題の解決を標ぼうしている以上、最終的なゴールのひとつが「解散」になります。社会課題が本当になくなったのであれば、その組織が存在する理由が一義的にはなくなるからです。もしそこに至ることができたとしたら、非営利組織におけるマーケティングにも終焉があり、そこを目指して日々活動をしていくのが非営利組織なのだろうと思います。
[過去記事]
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長浜 洋二(写真左)
株式会社PubliCo 代表取締役CEO
一般財団かわさき市民しきん評議員
公益社団法人シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー
NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。
山元 圭太 (写真右)
株式会社PubliCo 代表取締役COO
NPO法人日本ファンドレイジング協会理事
認定ファンドレイザー
NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)理事
島根県雲南市地方創生総合戦略推進アドバイザー
1982年滋賀県生まれ。同志社大学商学部卒。卒業後、経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして、5年間勤務の後、2009年4月にNPO法人かものはしプロジェクトに入社。日本部門の事業全般(ファンドレイジング・広報・経営管理)の統括を担当していた。2011年よりNPOを中心に非営利組織に対する運営支援を行っている。