なぜ電車は駅間で立ち往生するのか? その仕組みをわかりやすく解説します。
JR京都線で電車が動かなくなりました。
10数本の電車がお客様を乗せたまま立ち往生となり、数時間、中には10時間近くもお客様が列車の中で缶詰になりました。
気温の低下と降雪によるポイントの凍結が原因のようですが、ポイントというのは線路の行先を切り換えるものです。そこに雪が挟まって切換ができなくなったことが今回の原因ですね。
えちごトキめき鉄道は直江津を起点に新潟県の豪雪地帯を走ります。
そういう地域ではポイント上の雪を溶かすため、可動部を電気で温めたり、あるいは温水を散水したりして、降雪時は24時間ポイントを保護しています。
写真は糸魚川駅構内のポイントですが、上の写真は電気による温熱でポイントの可動部を融雪しているもの。下の写真は散水によって可動部を融雪しているもので、その地域や作動頻度に応じていろいろな融雪装置が使われています。
今回のJR京都線では、豪雪地帯には当たりませんのでおそらくこのような融雪装置がなかったのだと思いますが、せめてメインの区間だけでも電気による融雪装置があれば、今回のようなことにはならなかったと考えられます。
事実、立ち往生したのはJRだけで、並行する私鉄各線はそのようなことがなかったのですから、設備投資に問題があったのではないかと推測されますが、そういう線路であれば、なおさらもっと早くから対応することが求められていたはずで、それがされなかったのは残念でなりません。
なぜ電車が駅間で立ち往生するか
ポイントが切り替わらなくなると、例えば通過電車の退避ができなくなったり、折り返し運転ができなくなったり、いろいろな障害が発生します。
電車は定められた運行ができなくなりますから、停車します。
前の電車が停車すれば、当然後続の電車も停車します。
このようにして電車が数珠つなぎになります。
運よく駅に停まった状態で動けなくなれば良いですが、駅を発車して次の駅へ向かう途中で停車してしまえば、前の電車が進まない限り、電車は前に進めなくなります。今回はこのような状況で立ち往生が発生したのですが、大雪で先に進めなくなることもありますし、踏切障害や人身事故など、様々な要因で電車が駅間に停車することがあります。
ではなぜ、数時間も電車の中に閉じ込められるような事態が発生するのでしょうか。
電車はバックできない
その理由は、複線区間では電車はバックできないからです。
以前に新潟県で発生した閉じ込め事故では、駅を発車した電車が大雪で前に進めなくなりました。発車した駅からは数百メートルの距離で、今走ってきた線路には電車が雪を掻いてきましたので雪がありません。
前方は大雪でこれ以上進めない。
だったらバックして手前の駅に戻ればよいと思われるでしょうが、複線区間では電車は簡単にはバックできない仕組みになっています。運転士が指令に連絡して指示を仰いでいるうちに、今走って来た線路にもどんどん雪が積もってしまい、最終的にはバックすることもできなくなったのですが、複線区間では簡単には電車はバックできないからです。
単線よりも複線?
皆様方のイメージでは田舎の電車は単線で、都会の電車は複線ですから、単線よりも複線の方が格上に思われるかもしれません。確かに都会では列車本数が多いため単線では駅間ですれ違いができませんから、複線は都会向けでありますが、複線というのは上り線、下り線というように電車が走る方向が決められています。
つまり、複線というのは一方通行の線路が対向して並んでいる配置ですが、単線というのは1つの線路を上下線で使用する仕組みになっています。
例えば踏切ですが、電車が接近すると鳴り出します。それは踏切の手前にセンサーがあって、電車がそのセンサーを通過すると鳴り出す仕組みになっていますが、単線の場合は踏切の両側にセンサーがついていますが、複線の場合は上り線、下り線共にそれぞれ手前にあるだけです。
ということは、下り線の線路を反対側から、上り側からもし電車が来たとしても踏切は作動しません。
つまり、一方通行で電車は反対側から来ることが想定されていないので、バックすることはできないのです。
信号も同じです。
上り線に対しては上り電車用の信号機しかありません。バックしようとしてもバック運転用の信号機がついていないのですから、バックできないのです。
複線区間で何らかの原因で片方の線路が支障した場合、簡単に考えたら残ったもう片方の線路で折り返し運転をすればよいと思われるでしょうが、複線区間は一方通行ですから、そういうことができない仕組みなんです。
台湾国鉄に見る合理性
お隣の国、台湾でも幹線は複線になっています。
でも、実際にはほとんどの区間では複線に見えますが日本と同じ複線ではありません。
単線が2本並行して走っている「双単線」と呼ばれる線路です。
だから、台湾では上下線という区別は無くて、どちらの線路もどちらの列車が走れるのです。
台湾の双単線です。
一見複線に見えますが、両方の線路に信号が付いているのが見えると思います。
すれ違いはもちろん、場合によっては並走して追い越しもできるんです。
通常は日本と同じように左側通行ですから、対向列車は右側を通過します。
でも、このように反対側を向いて走ることもできますから、左側を対向列車が通過していくこともあります。
これは中国人の合理的思想がもたらすものか、それとも鉄道が軍事施設というとらえ方をしてきたお国柄なのかわかりませんが、建設や維持に相当な費用が掛かっていることは確かですね。
もし、日本の複線にもこのような双単線というシステムがあれば、片側の線路が支障したとしても、もう片方を使って折り返し運転などができると思いますが、残念ながら日本ではできないのです。
台湾を旅行中に筆者自身が経験したことですが、乗っていた特急列車が駅間で動かなくなりました。
前方で線路が支障したのでしょう。
特急列車はしばらくその場に停車していましたが、突然バックし始めました。
そして、前の駅まで戻って線路を切り換えて反対側の線路を走り始めました。
途中の踏切で自動車が線路をふさいでいていましたが、反対側の線路を通って次の駅まで行き、そこから再びポイントを渡って本来の線路に戻りました。
単線が並行して並ぶ双単線では、複線とは違ってそういうこともできるんですね。
ただ、残念なことに、日本では線路がこういう作りになってはいませんので、複線区間というのはあくまでも一方通行の線路が上下並んでいるだけですから、途中で何かあった場合でもバックすることができず、立ち往生してしまうのです。
田舎の単線区間でしたら上下どちらの方向にも走れますから、途中で何かあった場合は運転指令所が反対方向に電気的に信号の向きを変えるだけで、バックして手前の駅に戻ることは可能ですから、今回のように駅間で立ち往生するということは避けられます。
もちろん複線区間でもバックすることは物理的には可能ですが、平常時に列車を安全正確に運転するための各種運転規定や実施基準、あるいは法規がありますので、それを無視して列車をバックさせたりすればその職員は仕事を失うことになります。
今回の立往生の顛末を見ていると、車内に閉じ込められたお客様をレスキューするために、自分の首をかけてまで対応する職員が鉄道会社には居なかったということでしょう。当然のことですが、鉄道会社の職員は規則や規定を順守することが基本中の基本だからです。
鉄道の規則というのは平常時に列車を安全に動かすためにできているもので、異常気象時や緊急事態にどこまで対応できるかが、今の時代には大きく問われているということが、昨今の事故例を見ていると浮き彫りになってきていると筆者は考えています。
※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。
※本記事は一般の皆様にわかりやすくお知らせするために、各種規定や実施基準、法令に基づいた解説ではありません。文言も専門用語は使用しておりませんのでのでご承知おきください。