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あなたが保護した犬は、「モノ」か「命」か? 「置き去り犬めぐちゃん」事件からの考察

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

愛犬や愛猫が「モノ」であると思って飼っている人は、ほとんどいないと思います。彼らは「命」で、取り換えがきかなく「病気になったとき」「老いたとき」も愛おしい存在です。飼い主は懸命に彼らを世話して一緒に暮らしています。

しかし、動物愛護法では犬や猫は「モノ」であるという壁があるのです。今回、ご紹介するのは、SNS上で話題になった「置き去り犬めぐちゃん」の事件です。

 2013年6月。東京・吉祥寺の公園で、一頭のゴールデンレトリバーが口輪をはめられ、柵につながれていた。犬を保護した主婦・Aさんは、警察や保健所などに届出をした上で飼い主を探したが見つからず、その子を「めぐ」ちゃんと名付けて家族に迎える。

 が、めぐちゃんの「拾得物」としての期限を迎える10日前、飼い主の女性が現れ、めぐちゃんの返還を要求。めぐちゃんが2度も公園に遺棄されていたことや、それまで3ヵ月近く飼い主がめぐちゃんを放置していたことなどから、Aさんはめぐちゃんの返還を拒否し、裁判で争うことになった。

 結果は、保護主であるAさんの敗訴。

出典:置き去り犬めぐちゃん「強制執行」~「動物はモノ」という悲しい現実

Aさんは、保護して6年間、世話をしていましたが、飼い主が所有権を巡って裁判を起こして、飼い主の請求通りに16歳になるめぐちゃんは、突然の「強制執行」で、保護主の元から連れていかれました。動物好きの人には、耳を疑う判決です。ここから何を学べばいいのでしょうか。

公園で猫が衰弱して倒れていた

以下は、動物病院で、よくある光景です。公園を通り過ぎようとしたら、猫が倒れていたので、来院されました。寒い時期、猫ウイルス性鼻気管炎などの感染症になりやすいので、目ヤニがたまって衰弱している子猫が発見者によって、運び込まれます。獣医師は、発見者から、料金をいただき、治療をします。発見者は、水を飲ませたり、温めたりしてこの猫が愛おしくなり、飼おうと思ったとき、「ノラ猫」か「飼い主がいる猫」かで、大きく違ってきます。

ノラ猫の場合

子猫が公園で倒れていたら、それはほぼノラ猫で、飼い主である所有者は、いません。ノラ猫の場合は、所有者がいないので、保護した人が飼い主になれます。公園でノラ猫を保護して家に連れて帰って飼っても争うことにはならないのです。

飼い主がいる逃げた猫

一方、たまたま家から逃げ出した子猫であれば、それは飼い主である所有者が現れれば、飼い主に返さないといけません。こんな寒い日に、子猫が家出するほど飼い方が悪い人であっても、「返却してくれ」といわれると、そうしないといけないのが、現状の法律です。

柴犬がひとりで道を歩いていた

「ねぇ、先生、この子、なに犬ですか?」と尋ねられ「誰が見ても柴犬ですけれど。柴犬の中でもいい子ですね」「この子、ひとりで歩いていたので」ということでした。詳しい話によりますと、車が通る道で、一頭で歩いていたので、危ないので保護したということでした。警察に届けたら、飼い主が現れ「返して欲しい」といわれたそうです(置き去り犬めぐちゃんの場合と同じですね)。飼い主は、柴犬のブリーダーだったそうです。それで、この保護主は、飼い主にお金を払って、自分のものにしました。

この保護主は「私の家の近所にブリーダーさんがあったみたいですが、散歩させているのを見たことがないので、あんな環境に戻すことはできません」といわれました。

犬の方も待遇が悪いと、隙を見て逃げ出すことあり、長い間、小動物臨床をしているとこのような経験は何度かあります。

動物愛護法

大学時代に、獣医師法について数時間は、習いましたので、ざっくりと説明します(詳細は弁護士さんに譲ります)。犬や猫を保護したら、以下のことをしてください。

1、都道府県等の自治体の窓口(動物愛護センターなど)に届ける。

2、警察に動物を保護して欲しいときは、届けてもいい(平成19年に遺失物法が施行されて警察に提出する義務がなくなりました)。

3、所有者がわからない場合には、保護した人が遺失物法の規定により新たな飼い主つまり所有者になることができる。

報奨金

犬や猫は、「命」ですが、現在の法律では「モノ」になっています。それで、財布を拾ったときと同様に、持ち主から拾ったものの5%~20%の価値の報奨金をもらうことができる権利があります。つまり犬や猫の5%~20%価値をもらうことなのです。一般的に考えて、血統書のものの方が高くなりますね。医療費などは、ここに含まれていないので、その辺りは、飼い主と話し合いをしてください。

まとめ

いまの動物愛護法では、犬や猫は、命があるけれど、「モノ」なので、財布などと同じように所有者があり、保護主が気にいらない飼い方をしていてもやはり所有者が返して欲しいといえば、ほぼ返さないといけないのです。現実に、6年も共に暮らしていためぐちゃんは、連れていかれましたから。

動物それ自身の福祉を保護するような規定が、明確にされていないからです。たとえば、暑い日に、繋がれぱなしで犬が飼われていて、かわいそうだからと飼い主に断りになしに、勝手に連れ去るとやはり犯罪になります。

動物の文化、動物の福祉が、もっと成熟すれば、この法律も変わるのですが、これが現状です。動物愛に溢れた飼い主は、たくさんいます。法治国家なので、その辺りのことを考えないと裁判があっても、勝利することが、難しいです。犬や猫が「モノ」ではなく「命」として扱われることを切に望みます。このことについて、考えるようになると、少しずつ世の中は動いていくかもしれません。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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