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【鈴鹿8耐】今年も興味深いラインナップが揃った4大メーカー対決。8時間の戦いを制するのは?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ヨシムラスズキのGSX-R1000に乗ってテストする芳賀紀行

2016年7月31日(日)に決勝レースが開催される『コカ・コーラゼロ鈴鹿8時間耐久ロードレース』(第39回大会)に向けた公式合同テストが4日(月)から始まった。東海地方はすでに梅雨明けしたのではないか、とさえ思うほどの夏を感じる日差しもある中でのテスト走行。各チームはあらゆるコンディションでテストをこなした。2016年の「鈴鹿8耐」は国内の4大メーカーがさらなるハイレベルなバトルを繰り広げそうな様相だ。

鈴鹿8耐合同テスト
鈴鹿8耐合同テスト

ヤマハは連覇に向けて、世界レベルの3人で挑む

2015年、久しぶりにファクトリーチーム(ワークスチーム)を参戦させ、新型ヤマハYZF-R1で19年ぶりの優勝を飾った「ヤマハ」。連覇をかけて今年も強力なラインナップを揃えてきた。

エースはもちろん全日本ロードレースでも連勝街道まっしぐらの中須賀克行(なかすが・かつゆき)。そして、昨年の「鈴鹿8耐」でポールポジションを獲得するだけでなく初出場ながら優勝を成し遂げた、現役MotoGPライダーのポル・エスパルガロ(スペイン)。さらにもう一人はスーパーバイク世界選手権に参戦するアレックス・ローズ(イギリス)が加わる。中須賀とエスパルガロはライダーとして2連覇をかけて挑むことになるが、ローズは新加入。ただ、ローズは昨年「ヨシムラスズキ」から鈴鹿8耐に初出場して好走を見せたライダー。

ポル・エスパルガロ(2015年)【写真:MOBILITYLAND】
ポル・エスパルガロ(2015年)【写真:MOBILITYLAND】

実績、実力ともにトップクラスのラインナップを今年も揃えてきた「ヤマハ」は今季の全日本ロードレースでの中須賀の速さを見ても磐石の状態。王者として負けられない布陣を敷いてくるのは当然のことだが、昨年の優勝に貢献したMotoGPライダーのブラッドリー・スミスとポル・エスパルガロが来季から「KTM」に移籍することになり、誰が中須賀と組むことになるのか注目されていた。エスパルガロの参戦が決まり、昨年並みのチーム体制を整えることができた「ヤマハ」に死角は見当たらず、今季も圧倒的な力技を披露しそうだ。

ワークスチーム「#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM」は今回の合同テストを欠席。実は6月29日、30日の2日間、鈴鹿サーキットでプライベートテストを実施しており、3人のライダーがテストを行った。次に3人が揃うのはレース本番ということになる。王者は他チームとは一線を画し、静かに戦いの舞台を待つ。

#7 YART YAMAHAでテストする野左根。タイヤはピレリを履く。
#7 YART YAMAHAでテストする野左根。タイヤはピレリを履く。

また、「ヤマハ」陣営は全日本ロードレースに参戦中の若手ライダー、野左根航汰(のざね・こうた)と藤田拓哉(ふじた・たくや)の2人を世界耐久選手権のレギュラーチーム「#7 YART YAMAHA」に送り込む。今大会で印象的な走りを見せることで彼らには今後、ビッグチャンスが訪れる可能性がある。若きライダーたちの走りは大いに注目のポイントといえよう。2人のチームメイトとして鈴鹿8耐の経験が豊富なブロック・パークス(オーストラリア)が乗る。

芳賀がヨシムラに乗る!強力なスズキ勢

今年「ヤマハ」の最大の対抗馬と目されているのが「スズキ」。特に「#12ヨシムラスズキShell ADVANCE」は全日本ロードレースでもヤマハに次ぐ速さを見せている。「ヨシムラ」の今年のラインナップはエースの津田拓也(つだ・たくや)に加え、「スーパーバイク世界選手権」に参戦中のジョシュア・ブルックス(オーストラリア)、そして第3ライダーになんと芳賀紀行(はが・のりゆき)が加わることになった。これは誰もが驚く起用だった。

ヨシムラに芳賀紀行が乗る。
ヨシムラに芳賀紀行が乗る。

芳賀紀行は近年、加賀山就臣(かがやま・ゆきお)の「TEAM KAGAYAMA」のライダーとして鈴鹿8耐にスズキGSX-R1000を駆り参戦し、3年連続の表彰台獲得に貢献してきた。そういう意味では同じスズキの「ヨシムラ」に乗ることは自然な流れとも言えるが、芳賀は元々ヤマハの若手ライダーとして1996年の鈴鹿8耐で優勝し、世界選手権進出のチャンスを掴んでいった。その時代を知るファンにとってみれば、「ヨシムラ」に乗る芳賀紀行はなかなか想像しづらかった組み合わせだ。

しかし、芳賀紀行の「ヨシムラ」加入は実にワクワクする今年の「鈴鹿8耐」の目玉。勝つためのパッケージが充分に整った「ヨシムラ」で20年ぶりの8耐優勝を飾れるか注目が集まる。元々他チームとは一線を画す独特の緊張感が溢れる「ヨシムラ」のピットだが、芳賀の加入でさらに引き締まった印象だ。

また「TEAM KAGAYAMA」は加賀山に加え、鈴鹿8耐4度のウイナーである清成龍一(きよなり・りゅういち)、そして今季同チームから全日本ロードレースJ-GP2(600cc改造車クラス)を戦う浦本修充(うらもと・なおみち)が加わることになった。浦本は今季からスズキ勢に移籍し、スズキGSX-R1000では初めての8耐となるが、今最もノリに乗っている国内の若手ライダーであるだけにその期待値は大きい。テストでも好調な走り出しとなった「TEAM KAGAYAMA」は今年も優勝候補のチームの一つだ。

TEAM KAGAYAMAの清成龍一。
TEAM KAGAYAMAの清成龍一。

ホンダ勢は豪華ラインナップ!ヘイデンも参戦!

ヤマハに連続優勝を5年でストップさせられた「ホンダ」はリベンジの年だ。昨年の敗戦の屈辱を晴らすべく、マシンに大幅な改良を加えてきた「ホンダ」勢だが、ファクトリーマシンを貸与される「#634 MuSaShi RT HARC PRO」「#5 F.C.C. TSR Honda」は全日本JSB1000で苦戦しているのが現状。ただ、「鈴鹿8耐」では今年も海外から注目のライダーを招聘し、申し分ない戦力を揃えてきた。

まず昨年2位の「#5 F.C.C. TSR Honda」にはエース、渡辺一馬(わたなべ・かずま)に加えて、昨年の2位表彰台の功労者である「ロードレース世界選手権Moto2」(600cc)参戦中のドミニク・エガーター(スイス)、「スーパースポーツ世界選手権」(600cc)を戦うパトリック・ジェイコブセン(アメリカ)を起用する。このラインナップは藤井監督独自のライダーチョイスであり、「勝つために背格好が似ている600cc(が得意な)ライダーで固めた」とのこと。渡辺は昨年から1000ccクラスに昇格したが、2011年には全日本ST600クラスで王者を獲得しており、6年間600ccのバイクで戦ってきた。また、新加入のパトリック・ジェイコブセンは「スーパースポーツ世界選手権」で昨シーズン途中からホンダ勢に移籍し、同選手権での初優勝を果たした注目のライダーだ。

記者会見したTSR。左から藤井監督、渡辺、ジェイコブセン、エガーター。
記者会見したTSR。左から藤井監督、渡辺、ジェイコブセン、エガーター。

そして、今年最大のビッグネームは元MotoGPワールドチャンピオンのニッキー・ヘイデン(アメリカ)の参戦。2013年、14年の優勝チーム「#634 MuSaShi RT HARC PRO」のライダーとして加わり、日本のエース高橋巧(たかはし・たくみ)、そして同チームから4年連続の出場となるマイケル・ファンデルマーク(オランダ)とトリオを形成する。

昨年も元MotoGP王者のケーシー・ストーナーを招聘した同チーム。今季も同じくワールドチャンピオンが乗るということで、その走りは注目だ。ニッキー・ヘイデンはMotoGPにデビューした2003年に鈴鹿8耐に初出場。序盤の転倒で決勝レースは完走できておらず、実はそれ以来となる13年ぶりの参戦となる。とはいえ、今季から「スーパーバイク世界選手権」にスイッチし、雨のマレーシア戦で独走の優勝を飾ったことからもライダーとしてまだまだ速さと実力をキープした状態。元々はアメリカで市販車ベースの「スーパーバイク」を主戦場としていたヘイデン。2003年は序盤にオイルに乗って転倒し、完走はならなかったが、今年は元ワールドチャンピオンの底力を是非とも見たいところだ。

ワールドスーパーバイク参戦中のニッキー・ヘイデン。グッドウッドにて。
ワールドスーパーバイク参戦中のニッキー・ヘイデン。グッドウッドにて。

カワサキは勝利に充分な戦力を揃えた!

「カワサキ」のプライムチームとなるのは「#87 TEAM GREEN」。今年も大ベテランの柳川明(やながわ・あきら)、若手の渡辺一樹(わたなべ・かずき)の全日本JSB1000ライダーに加え、今年はホンダで2度の鈴鹿8耐ウイナーとなったレオン・ハスラム(イギリス)の起用が決まった。

TEAM GREENのマシンでテストするレオン・ハスラム
TEAM GREENのマシンでテストするレオン・ハスラム

レオン・ハスラムは今季、カワサキに移籍してBSB(英国スーパーバイク選手権)を戦っている。名ライダー、ロン・ハスラムを父に持つビッグネームの息子として生まれ、ロードレース世界選手権GP500に最年少ライダーとしてデビュー。その後スーパーバイクのライダーとなり、ドゥカティ、ホンダ、スズキ、BMW、アプリリアなど様々なメーカーのバイクを乗りこなしてきた豊富な経験を持つ。そんな彼にとっては初のカワサキ移籍。8耐の優勝が2回あるハスラムの起用は理にかなった選択と言えるだろう。

今季、デビューを果たした新型ZX-10Rは徐々に熟成が進み、戦闘力は充分。「TEAM GREEN」としては鈴鹿8耐復帰後3年目の活動となる今年、求められるのはやはり表彰台でのフィニッシュ。これまでも高いポテンシャルを示しながらレースでは様々なアンラッキーが襲い、好成績にはつながらなかった。今年は正念場。ハスラムの加入で戦力は明らかにアップしており、今年の「鈴鹿8耐」の本命と言える存在になってきた。

各メーカーのトップチームがしのぎを削る2016年の鈴鹿8耐。今後、7月13日(水)14日(木)のテスト走行ではニッキー・ヘイデンがホンダCBR1000RRに乗ることになっており、本当の勢力図が見えてくるのはこれから。レース本番に向けて戦いはより熾烈なものになっていく。灼熱の鈴鹿8耐を制するのはどのメーカーか?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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