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「パングランプリ東京2023」過去最多出品、東京都知事賞は「クロワッサン・レザン」

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
クロワッサン・レザン(筆者撮影)

今年で15回目になる「パングランプリ東京」が2023年8月2日、東京ビッグサイト「JAPAN BAKERY & SWEETS SHOW」会場で開催された。今年は過去最多の53作品が出品された。

「パングランプリ東京」は東京都パン商工協同組合が主催する、町のベーカリーのための製パンコンテストで、メーカーが主催するものと違って素材や製法に縛りはなく、すでに販売しているパン、あるいは販売を予定しているパンが出品されるのが特徴。最近では東京都以外のベーカリーからの出品も見られるようになった。

共催は東京パン連盟工業協同組合、東京都学校給食パン協同組合、リテールベーカリー協同組合、東京青雲会、後援は全日本パン協同組合連合会、パン食普及協議会、そして東京都。

今年は「ワインに合うパン部門」「ドライフルーツを使ったパン部門」「メロンパン部門」の3部門で審査が行われた。審査は応募者名を伏せて、専門学校講師、及びメディア関係者、愛好家により行われ、「グランプリ」「準グランプリ」「優秀賞」そして東京都の応募者の中から最も優秀だった作品に「東京都知事賞」が贈られた。

東京都知事賞をとった「クロワッサン・レザン」(筆者撮影)
東京都知事賞をとった「クロワッサン・レザン」(筆者撮影)

今年の東京都知事賞はドライフルーツ部門より、東京マリオットホテルの荒木将也さんの「クロワッサン・レザン」が受賞した。

昨今のトレンドであるクロワッサン生地の造形美が特徴で、ラムレーズンとオレンジの皮の入った甘めのパンにクロワッサン生地を巻いて焼き上げている。中には紅茶キャラメルクリームが入っていて、食べやすい小さめサイズとなっている。荒木さんはこのコンテストは二度目の挑戦だ。毎年のように挑戦する人もいる。

東京都知事賞を受賞した荒木将也さん(筆者撮影)
東京都知事賞を受賞した荒木将也さん(筆者撮影)

ドライフルーツを使ったパン部門のグランプリは、あけぼのパン株式会社の岸博之さんの「しまなみ海道シトラス&ココ」。

瀬戸内海の夏をテーマに作ったブリオッシュケーキ。芸予諸島で生産される柚子、伊予柑、瀬戸内レモンの皮や果汁をたっぷり使用し、中種法で長時間かけて作られた生地に発酵グラスフェッドバターを用いたココナッツクリームを巻き込み、型に入れて、ココナッツケーキをトッピングして焼き上げている。岸さんは過去にも何度か受賞している。

「しまなみ海道シトラス&ココ」(筆者撮影)
「しまなみ海道シトラス&ココ」(筆者撮影)

ワインに合うパン部門のグランプリは、ブーランジェリー住吉丸の丸岡貴子さんによる「チーズ味噌パン」。 

江戸味噌と3種のチーズをフランスパンの生地に巻き込んで、細長く成形していて食べやすく、焼いた味噌とチーズが香ばしい。国産赤ワインに合わせることを想定してつくられている。

「チーズ味噌パン」(筆者撮影)
「チーズ味噌パン」(筆者撮影)

メロンパン部門のグランプリも同じブーランジェリー住吉丸の丸岡弘一さんによる「きな粉メロンパン」。

外側のサクサクと軽いクッキー生地はココナッツ入りで、ゴマをトッピング。内側は黒蜜シロップに浸したカステラ入りの生地で、ほうじ茶も香る。

ブーランジェリー住吉丸は山口県萩市に所在するが、パングランプリ東京で腕試ししてみたかったという。

「きな粉メロンパン」(筆者撮影)
「きな粉メロンパン」(筆者撮影)

審査員長を務めた日本パン技術研究所の原田昌博さんは次のように講評した。

「ワインに合うパンというのは、捉え方が難しかったと思います。ワインに合うかどうかは個人の感性によるところもあるし、ワインといってもさまざまです。つくった人が何をどう考えて設計しているかは審査員としては悩むところでした。

一方でパン食普及の観点から考えますと、このテーマは非常に重要です。高齢化と人口減少は食品製造にダイレクトに影響しており、食事における炭水化物の摂取源のシェア争奪戦は今も続いています。夕食にパンを食べてもらうのにもワインに合うパンは有効です。

ドライフルーツはパンに不足した食物繊維、ミネラル分を高め、嗜好性も高めてくれますが、原価との戦いです。商売として成立するための原価率、利益率が商品を設計していく上でのつめになったのではないかと思います。

メロンパンは安定して売れている定番アイテム。それだけにどのような工夫をするのか、興味がありました。評価点は分かれましたが、受賞された作品は他の商品より何かしら抜きんでていて、完成度が高かったことが理由になっています。

原材料、人件費、光熱費の高騰の三重苦が続いていますが、一過性のブームに頼らず、これからは今までとは違った攻めの知恵を具現化することが重要になってきます。それは一つの技術だと思います」。

筆者は15年、審査員を続けさせてもらっているが、いつも感じるのは、つくり手が日々の糧として位置づけたいと思っていても、嗜好品にならざるをえないパンの在り方だ。そして町の個人店が手間や時間をかけて一つひとつ大切につくっても、一般消費者のイメージする価格帯の基準が、スーパーやコンビニエンスストアにあるため、価格だけで比較されがちな現状だ。

消費者は基本的には商品の見た目で購入するか判断するしかないが、そのときコンテストのレシピに書かれているような情報を知っていたら、ただ「高い」という感覚だけではなく、適正な価格であることが理解でき、そこへ自分の一票を投じる気持ちになるかもしれない。素材へのこだわり、手間のかけ方、そのパンを食べることで身体や心、原材料の生産者、広くは地球にどんないいことがあるかなど、そうした情報を店頭で、またSNSなどを通じて伝えていくことが、これからはますます重要になってくると思う。

ブレッドジャーナリスト

東京出身。2001年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

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