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バルサの補強に漂う「迷走感」。ヴェッラッティとベジェリン獲得は実現なるか。

森田泰史スポーツライター
バルサが狙うヴェッラッティはCLで質の高いプレーを見せた(写真:ロイター/アフロ)

コパ・デル・レイのタイトルを獲得したバルセロナだが、2016-17シーズンはリーガエスパニョーラ優勝と前人未到のチャンピオンズリーグ連覇を達成した宿敵レアル・マドリーに後塵を拝した。

2月に退任を表明していたルイス・エンリケ監督が去り、代わりにアスレティック・ビルバオを率いていたエルネスト・バルベルデ監督を指揮官に据えた。打倒マドリーを目標に掲げて邁進すべきだが、どうにも補強に関する考えが一貫していないような印象を受ける。

■昨夏の補強を振り返ると...

そもそも、バルサの補強はお世辞にも上手いとは言い難い。2015年1月には、シーズン中の成績不振が暗に補強の失敗のためだと認め、現在マルセイユに籍を置くアンドニ・スビサレッタ前SD(スポーツディレクター)が辞任に追い込まれた。のちにロベルト・フェルナンデスSDが要職に就いたものの、昨年夏の補強を振り返っても、ロベルトSDが目に見える変化を起こしたかどうかは疑問だ。

バルサが昨夏獲得した選手は6選手。GKヤスパー・シレッセン(移籍金1300万ユーロ)、DFルーカス・ディーニェ(1650万ユーロ)、DFサミュエル・ユムティティ(2500万ユーロ)、MFデニス・スアレス(325万ユーロの買い戻しオプション)、アンドレ・ゴメス(3500万ユーロ)、FWパコ・アルカセル(3000万ユーロ)である。

移籍金の総額は、1億2275万ユーロ(現在のレートで約150億円)だ。移籍金はすべて固定額で推定のものだが、選手によっては成果報酬額が契約に盛り込まれており、昨夏の補強資金がこの額を上回ったのは間違いない。

しかし合格点を与えられるのはDFジェラール・ピケのCBの相棒となったユムティティくらいで、厳しい言い方をすればあとの選手は及第点にすら至らなかった。これでは、ロベルトSDの手腕に疑義を差し挟みたくもなる。

■補強ポジションの狙い目は3つ

そうして迎える今夏、バルサの補強はどうなるか。主要ポジションは右サイドバック、中盤、ウィングである。

この数日、スペイン紙『ムンド・デポルティボ』や『スポルト』では、毎日のようにアーセナルDFエクトル・ベジェリンとパリ・サンジェルマンMFマルコ・ヴェッラッティの名前が踊っている。

ベジェリンへの関心については、来季からMFセルジ・ロベルトを本職の中盤に戻したいというバルサの思惑が背景にある。右SB補強にカンテラーノの帰還を実現できれば、ファンの理解も得やすく一石二鳥というわけだ。ただ、ベジェリンはアーセナル残留の争点をアーセン・ヴェンゲル監督の契約延長に置いていた。ヴェンゲル監督は先日、2019年までの契約延長でアーセナルと合意しており、この事実がベジェリンの移籍を難しくしているようだ。

ヴェッラッティを狙うのは、アンカー(中盤の底)とインテリオール(中盤の前目)の2ポジションでプレーできる選手を探し求めているからである。現アル・サッドMFシャビ・エルナンデスがその実力を認めたヴェッラッティを確保できれば、MFセルジ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタらに休養を与えながら長いシーズンを戦い抜くことができる。

ではバルサが簡単にヴェッラッティを獲得できるかと言えば、そうではない。ヴェッラッティに関しては契約解除金が契約条項に含まれていない模様で、それが取引を困難なものにしている。移籍金は推定で8000万ユーロ(約98億円)前後になるといわれているが、中盤の一選手にこの額を払うことには大きなリスクが伴う。

ゴール数で結果を明示できるストライカーと異なり、MFは評価が難しい。ルイス・スアレス獲得に支払われた額が8200万ユーロ(約100億円)だということを顧みれば、移籍成立後のヴェッラッティに対する視線が厳しくなるのは火を見るよりも明らかだ。

■攻撃陣強化に立ちはだかる"MSN"の壁

一方、ウィングに関してはミランFWジェラール・デウロフェウ(保有権を有するのはエヴァートン)、ボルシア・ドルトムントFWウスマン・デンベレへの関心が取りざたされている。バルサはカンテラーノのデウロフェウに、6月30日まで行使可能な買い戻しオプションを有している。その期限までに1200万ユーロ(約14億円)を支払えば、デウロフェウを買い戻せるのである。

デンベレは昨夏レンヌからドルトムントに移籍したばかり。以前バルサとの接触があったのは事実のようで、本人もそれは認めていた。しかしながらドルトムントは移籍1年目で公式戦49試合に出場し、10得点21アシストを記録したフランス代表FWを容易には手放さないだろう。

また、バルサの前線には"MSN"が君臨する。リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールからポジションを奪うのは、実質不可能に近い。3シーズン続けて公式戦100得点以上を記録している3トップに割って入れる選手など、そうそういるものではない。彼らの圧倒的な存在感が、攻撃陣強化の問題となっている。

今はまだ6月の中旬である。移籍市場が本格的に動きを見せるのは、7月、8月になってからだ。それにしても、バルサの補強に「迷走感」が否めない。それは情報の具体性に事欠いていることに起因するのだろう。

マドリーから覇権を奪い返すために本当に必要な選手は、一体誰なのか。そのために、何をすべきなのか。そこを突き詰めなければ、ただ時間だけが過ぎていくことになる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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