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「私と社員の半数が9.11関連の癌に罹患」補償の法制化に奮闘した弁護士の告白 米同時多発テロ22年

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 9.11アメリカ同時多発テロから22年。

 YouTubeには、9.11の日の体験やその後の人生を語る人々のストーリー“9.11 Stories”が投稿されているが、その中で、世界貿易センタービル(以下、WTC)からわずか1ブロック半離れたビルの18階に弁護士事務所を構えている弁護士マイケル・バラシュ氏が自身の体験を告白している。

 バラシュ氏は、9.11直後、救援活動に当たった消防士をはじめとしたファースト・レスポンダーたち(災害や事故で負傷した人々に最初に対応する救助隊・救急隊・消防隊・警察などの緊急対応要員)が、“ワールド・トレード・センター咳”と名づけられた咳をしていることに逸早く気づき、それが悪化して疾病になることを懸念、彼らが補償を得られるための法案可決に向けて尽力してきたことで知られる。

 当初、被害者補償基金は9.11の被害者とその遺族を対象に分配されていたが、後に、呼吸器関連の病気に罹患しているファースト・レスポンダーやサバイバーにも補償が提供されるようになったり、有毒物質で様々な疾病に罹患したファースト・レスポンダーやサバイバーを補償する「ジェームズ・ザドロガ9.11健康補償法」が成立したりした背景には、同氏の奮闘があった。

自身も前立腺癌に罹患しているというマイケル・バラシュ弁護士。

社員の半数が癌に罹患

 そのバラシュ氏が、動画の中で、9.11当日粉塵を浴び、その翌月には事務所に戻って仕事を始め、自身や社員の半数が癌に罹患していることを明かしている。

「私は、9.11の日、世界貿易センタービルの粉塵を浴びた1人でした。翌月、私は事務所の社員14人らと事務所に戻りました。(連邦政府やEPA=米環境保護庁が)空気は吸っても安全だと言っていたからです。それでも、私たちの事務所はWTCの北にあるため、風が北に吹いている時は安全ではないと何となく感じていました。

 臭いも漂っていました。WTCはまだ燃え続けていたので、私たちにはそれが死臭であることが明らかでした。それは腐敗した遺体や燃える遺体の臭いでした。WTC内にあったコンピューターなどのプラスティック類もジェット燃料で溶けていました。

 私の事務所では2人の社員が47歳で癌で亡くなりました。1人は進行性乳癌で、もう1人は進行性腎臓癌でした。普通の癌ではなく、手強い癌だったのです。また、5人の社員はリンパ腫に罹患し、私は前立腺癌に罹患しています。14人中7人の社員が有毒な粉塵に関連した癌に罹患したのです。その他の社員は呼吸器疾患を抱えています。

 当時、WTCの粉塵の曝露ゾーンにいた30万人以上の従業員や5万人の教員や生徒たちが有毒な粉塵を吸ってました。彼らは将来癌になるかもしれません。実際、すでに癌に罹患した人も数多くいます。ゴールドマン・サックス社で働いていた128人の人々も癌に罹患し、私が彼らの代理人を務めているのです」

新たに子宮癌も9.11関連癌として認定

 9.11関連の癌や疾病に罹患しているファースト・レスポンダーやサバイバーは多数いる。彼らはCDC(米疾病対策センター)の「世界貿易センター・ヘルス・プログラム」に登録し、無料で治療を受けている。2023年6月30日時点で、このプログラムを通して治療を受けている人々は約12万5,000人。そのうち、33,772人(癌で亡くなった人も含む)が9.11関連の癌と認定されている。実に、4人に1人に近い人々が9.11関連の癌に冒されていることになる。非黒色腫皮膚癌、前立腺癌、乳癌など様々な癌が9.11関連の癌として認定されているが、今年は新たに子宮癌も9.11関連の癌として認定され、現在、認定されている癌は69に上っている。

 癌以外にも、慢性副鼻腔炎、逆流性食道炎、喘息、PTSD、睡眠時無呼吸症などの疾病が、9.11関連の疾病として認定されており、このプログラムに登録しているファースト・レスポンダーやサバイバーたちの治療費は、2010年に制定されたジェームズ・ザドロガ9.11健康補償法により2090年まで保証されている。つまり「生涯補償」されているのだ。

曝露ゾーンにいた人々にも補償を

 しかし、このプログラムに登録している人々の大半はファースト・レスポンダーで、ノン・ファースト・レスポンダーはわずかな%しかいない。そして、彼らの中からも、バラシュ氏自身や同氏の事務所の社員たちのように癌に罹患する人々が出ているのである。

 そのためバラシュ氏は、9.11当日に粉塵を浴びた人々や、当日粉塵を浴びずともEPAが空気は安全だと発表した後、WTCの粉塵の曝露ゾーンに戻って働いたり、居住したり、学んだりした人々に地道に呼びかけを行ってきた。

「当時、粉塵の曝露ゾーンにいた人々は、今は健康であっても、これから先、疾病に罹患するかもしれません。今のうちに、当時、曝露ゾーンに自分がいたことを証明してくれる証人を見つけましょう。当時あった事務所が閉鎖されたりして時間が経過するほど、証人を見つけるのが難しくなるからです」

 バラシュ氏は、補償を得られる可能性があるにもかかわらず自分は該当しないと考えている人たちが多数いることを憂慮してきた。確かに、現在、癌などの疾病に罹患している彼らの中には、その原因は粉塵に含まれていた有毒物質ではないと考えている人もいるかもしれない。しかし、彼らが、当時、粉塵の曝露ゾーンにいたことが証明できれば、疾病の原因は有毒物質である可能性があり、それが認められれば、ファースト・レスポンダー同様、無料の医療や生涯補償が得られる可能性があるという。

9.11通知法、成立へ

 バラシュ氏の呼びかけは、法律として結実しようとしている。

 6月、ニューヨーク州議会と州上院で全会一致で可決されていた「9.11通知法(9/11 Notice Act)」法案が、キャシー・ホークル州知事により、9月11日に署名されて成立する見込みだと報じられている。

 「9.11通知法」では、2001年9月から2002年5月末日の間、ローワー・マンハッタンとブルックリン北部の曝露ゾーンにある、従業員50人以上の企業が9.11当時の従業員に9.11被害者補償基金と世界貿易センター・ヘルス・プログラムに登録できる可能性があることを通知することを義務づけている。

 9.11は22年経った今も終わっていない。

 新たな法律は、曝露ゾーンで様々な疾病に苦しむ人々にとって、大きな助けになるだろう。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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