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豪華過ぎる“ホームレス用タワマン”が誕生 建設費一戸約1億円 羨望や非難の声轟々 米ロサンゼルス

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米ロサンゼルスに誕生したホームレス用タワマン。画像:swinerton.com

 6月19日、ホームレス問題が深刻化している米ロサンゼルスに、19階建てのホームレス居住用高層施設が誕生して注目されている。高層施設とはいっても、外観もアメニティも豪華なタワーマンションそのものだ。

 「ウェインガート・タワー」と呼ばれるこのホームレス居住用高層施設は、ホームレスの人々が多数居住するロサンゼルスのダウンタウンの“スキッド・ロー”に立地、全278戸で、228戸のスタジオルーム(いわゆるワンルーム)、47戸の1ベッドルーム(寝室が1つある1LDK)、3戸のマネージャー専用ルームで構成されており、各戸には家具も付いている。

 アメニティも驚くほど充実している。ジム、美術室、音楽室、ライブラリー、コンピューター室、カフェ、テレビラウンジ、クラブルーム、ドッグ・ラン、ロサンゼルスを眺望できるバルコニーと至れり尽くせりだ。1戸あたりの建設費は約60万ドル(現在の円換算レートでは1億円に近い)で、税金が充てられた。

 リース料はホームレスの支払い能力に応じて異なる。

ロサンゼルスのダウンタウンに誕生した19階建てホームレス居住用タワマン。

部屋は家具付きで、居住するホームレスには自立の手助けをしてくれるケースマネージャーも付く。

ホームレスになった方がいい

 SNSでは、羨望の声があがっている。

「ワオ! こんな暮らしができるなら、みんなホームレスになった方がいいよ」

「ワオ! そこに住めるホームレスは、一生懸命働いている私たちよりラッキーだな」

「仕事に疲れているから、ホームレスになる必要があるか​​もな」

「人々が家賃を払って住んでいるアパートよりナイスじゃないか」

税金の無駄使い

 税金の無駄使いを非難する声や犯罪やドラッグの温床になるという懸念の声もあがっている。

「ホームレスは労働者たちよりもいいところに住むことになるのか。住まいは労働者たちが払う税金で賄われているのに」

「1戸あたり60万ドル? 本当か? 不法移民や犯罪者を収容し、1年以内に破壊されることになるだろ。費用はみな納税者の負担になる」

「お金の無駄使いだ」

「市民を怒らせるつもりか」

「バカげている! カントリーサイドに土地を買って、トレーラーハウスに住まわせればいいのに」

「ミドル・クラスの人たちを助けないのか」

 2016年、ロサンゼルスの有権者はホームレスの人々を住ませるための開発に12億ドルの債券を発行する提案を可決していた。市民はホームレスの人々を街からなくしたいと考えてはいるわけだが、多額の税金が費やされた豪華過ぎるホームレス居住施設には疑問を感じているようだ。

ロサンゼルスのダウンタウンが眺望できる部屋も。画像:dtlaweekly.com
ロサンゼルスのダウンタウンが眺望できる部屋も。画像:dtlaweekly.com

広大なジムからは、ダウンタウンを一望しながらワークアウトができる。画像:dtlaweekly.com
広大なジムからは、ダウンタウンを一望しながらワークアウトができる。画像:dtlaweekly.com

様々な楽器を使って演奏を楽しめる音楽室。画像:chironicleslive.com
様々な楽器を使って演奏を楽しめる音楽室。画像:chironicleslive.com

背景にホームレス増加と家賃の高騰

 ところで、この“ホームレス居住用タワマン”は1棟目に過ぎない。302戸からなる2棟目が18ヶ月後にはオープン予定で、104戸からなる3棟目の建設も計画されている。

 相次ぐホームレス居住用施設の建設の背景にあるのは、増えるホームレス人口だ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の調査によると、カリフォルニア州のホームレス人口は全米のホームレス人口の約3分の1を占めている。昨年、ロサンゼルス郡のホームレス人口は75,518人に増加、うちロサンゼルス市には46,260人のホームレスが居住していると推定されている。

 家賃も高騰しており、ホームレスになった理由として、ホームレスの人々は家賃の高さを指摘している。アパート専門サイトApartments.comによると、2024年6月現在、ロサンゼルスのアパートの平均家賃は全米平均より39%高い2114ドル(約34万円)。スタジオルームで月1663ドル、ワンベッドルーム(1寝室)で月2114ドル、2ベッドルーム(2寝室)で2906ドル、3ベッドルーム(3寝室)で4185ドルと非常に高い。ホームレスの人々がホームレスになる前の6か月間の世帯月収の中央値960ドル(約15万円)は、ロサンゼルスの平均家賃の半分以下だ。

 ホームレス人口が高齢化している問題もある。カリフォルニア州ではホームレスの47%が50歳以上で、ラテン系、黒人、ネイティブ・アメリカンがそれぞれ35%、26%、12%を占めており、高齢のホームレスに対処する必要性にも迫られている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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