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フードシェアしてもフードロス(食品ロス)は減らないどころかむしろ増えている

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

「シェア」が盛んだ。シェアオフィス、シェアハウス、シェアカーをはじめ、家具や洋服などもシェアする動きが活発化している。

食品の分野でも「シェア」は増えてきた。ソーシャルビジネスとして、商品として売れないものを安価にして販売する仕組みや、飲食店の余りを安価にして繋ぐ仕組みも出てきている。ビジネスでない分野でも、フードバンクやフードドライブなど、商品として流通できないものや家庭で余っているものを引き取り、必要なところへ届ける仕組みがメディアに取り上げられることがここ数年増えている。

最初に断っておきたいのは、そのようなシェアの仕組みやそれに取り組む組織や人を批判するのがこの記事の目的ではないということだ。廃棄しないでシェアして資源活用する取り組みは、経済的にも評価できるし、環境に負荷をかけない面からも優れており、世界的に広まっている。

この記事の目的は、直近6年間の、日本の食品ロスの統計値の経時変化を伝えること。食品ロスをシェアして活用するのはもちろんのこと、まずは食品ロスを出さない取り組み(Reduce:リデュース:廃棄物の発生抑制)こそ最優先であると強調することの2つである。

ではまず、2011年から現在まで、順を追って、食品ロスの年間の値と、その内訳を見てみよう。

1、2011年:500〜900万(家庭:200〜400万、事業:300〜500万)(単位:トン、以下同様)

筆者は誕生日に発生した東日本大震災を機に食品メーカーの広報室長を辞め、独立し、2011年9月から食品ロスを減らすための啓発活動を続けている。最初の3年間は、日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパンの広報として、フードバンクに関しても講演してきた。全国や海外での講演回数は400回以上にのぼる。

では、まず、2011年の値を使った神奈川県横浜市磯子区からの依頼で講演した時の日本の食品ロスの値と、そのうち家庭から出るものと事業系から出るものの内訳を見てみよう。「家庭」とは我々が暮らす一般家庭を指す。「事業系」は、スーパー・コンビニ・食品メーカー・飲食店・ホテルなど、飲食や食品に関わる事業系から出るもの全てを指す。

2012年7月時点での日本の食品ロス500〜900万トンとその内訳(農林水産省発表の値に基づき筆者パワポ作成)
2012年7月時点での日本の食品ロス500〜900万トンとその内訳(農林水産省発表の値に基づき筆者パワポ作成)

日本の年間の食品ロスは、500〜900万トン。そのうち、家庭から出るのが200〜400万トン、事業系から出るのが300〜500万トン。

今でこそピンポイントの値が毎年4月に発表されているが、この頃は、まだ幅表示だった。しかも500から900万トンだと、400万トンも幅があり、食品事業者からも「幅があり過ぎ」という声が聞かれていた。

2、2012年11月:500〜800万(家庭:200〜400万、事業:300〜400万)

次に2012年11月10日、奈良県天理市に呼んで頂いた時のパワーポイントを見てみよう。

2012年11月10日、奈良県天理市に呼ばれた際に使用したパワーポイント(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)
2012年11月10日、奈良県天理市に呼ばれた際に使用したパワーポイント(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)

幅表示のうち、最高値だった900万トンが800万トンに減っている。内訳として、家庭からのロスは変わらず、事業系が「300〜500万トン」だったのが「300〜400万トン」と、最高値が500万から400万に減っている。

当時、農林水産省の食品ロスの担当だった室長に「なぜ900万トンから800万トンに減ったのか」と理由を尋ねた。筆者は当時セカンドハーベスト・ジャパンの広報室長で、メディア取材などで対外的に回答する必要があったためだ。回答は「計算をやり直したところ、そうなった」とのことだった。

それ以降、2013年4月5日の日本食糧新聞社主催FABEX(ファベックス)、2013年12月12日の島根県庁、2014年6月20日の群馬県、などの講演では、同じ値を使ってきた。

3、2015年4月:642万(家庭:312万、事業:331万)

2015年、農林水産省より、幅表示の値に代わってピンポイントの値が発表された。

2015年に農林水産省が発表した食品ロスの値。2015年8月29日、神奈川県横浜市で開催された、日本ホスピス・在宅ケア研究会 第23回大会で筆者が作成して発表したパワーポイント
2015年に農林水産省が発表した食品ロスの値。2015年8月29日、神奈川県横浜市で開催された、日本ホスピス・在宅ケア研究会 第23回大会で筆者が作成して発表したパワーポイント

これまでの幅表示に代わり、ピンポイントの値である642万トンが発表された。平成24年度(2012年度)の値である。

そのうち、家庭からは312万トン、事業者からは331万トン。(合計すると642万トンにはならないが、それぞれ農林水産省発表の値である)

4、2016年4月:632万(家庭:302万、事業:330万)

2016年4月、平成25年度(2013年度)の値が農林水産省より発表された。

2016年5月25日、文京区の講座で使ったパワーポイント。クイズ形式のため、値のところは穴あきにしてある(筆者作成、写真素材:ぱくたそ)
2016年5月25日、文京区の講座で使ったパワーポイント。クイズ形式のため、値のところは穴あきにしてある(筆者作成、写真素材:ぱくたそ)

年間632万トン。うち家庭からが302万トン、事業系が330万トン。それぞれ、前の年より減っている。

5、2017年4月:621万(家庭:282万、事業:339万)

2017年4月、農林水産省は平成26年度(2014年度)の値を発表した。年間で621万トン。うち家庭が282万トン、事業系が339万トン。事業系以外は前年より減っている。

2017年4月19日、さいたま市商工会議所で発表したパワポ(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)
2017年4月19日、さいたま市商工会議所で発表したパワポ(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)

6、2018年4月:646万(家庭:289万、事業:357万)

そして2018年4月、農林水産省は平成27年度(2015年度)の値を発表した。

2018年5月26日、京都府立大学で講義した際のパワーポイント(農林水産省発表の値を元に筆者作成)
2018年5月26日、京都府立大学で講義した際のパワーポイント(農林水産省発表の値を元に筆者作成)

年間646万トン。うち家庭が289万トン、事業系が357万トン。

直近6年間を見てみると・・・

では、改めて、直近の6年間を見てみる。

食品ロスの経時変化(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)
食品ロスの経時変化(農林水産省発表の値に基づき筆者作成)

最新の値は、ピンポイントの値が発表されてから最も増えている。

2011年3月11日の東日本大震災以降、フードバンク団体の数は3倍近くまで増加

2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、「シェア」の動きは活発化している。食品ロスを活用し、必要なところへ届けるフードバンクの数は、2011年当時は30団体ほどだった。筆者が2011年12月8日、神奈川県横浜市の学校保健会では「30団体」と説明している。

2011年12月8日、横浜市学校保健会で講演した時のパワーポイント(筆者作成)
2011年12月8日、横浜市学校保健会で講演した時のパワーポイント(筆者作成)

現在、国内のフードバンク団体は、把握している限りで80団体を超えている。特に、食品ロスの最新値である2015年には、4月に「生活困窮者自立支援法」が施行され、生活困窮の側面から、多くのフードバンク団体が全国で活動を促進している。だが、全国のフードバンクの取扱高は6,000トン(農林水産省による)。事業系ロス(357万トン)のうち、0.1%だ。だから意味がないというのではなく、

全ての事業系ロスを「シェア」して減らすには限界がある

ということだ。

家庭から余剰食品を集めるフードドライブも然りである。フードバンクもフードドライブも良い取り組みなので、筆者は全国の講演で毎回紹介している。しかし、過剰に礼賛されることには違和感がある。

2016年以降、「食品ロス」のメディア頻出回数は増えた

とはいえ、農林水産省発表の値は2015年度が最新の値で、2016年度以降の結果はまだ出ていない。結論を断定するのはまだ早い。

2016年は、「食品ロス」という語句のメディア頻出回数は増えた。データベースサービスのG-サーチによれば、国内外の主要メディア150誌紙に掲載された「食品ロス」という語句のメディア回数は、2016年に突出している。一つの要因は、廃棄カツが捨てられず、転売されていたという事件があったことである。

過去30年間の「食品ロス」のメディア頻出回数。米谷学氏作成のグラフに筆者が2018年の値を足したもの
過去30年間の「食品ロス」のメディア頻出回数。米谷学氏作成のグラフに筆者が2018年の値を足したもの

来年2019年4月以降、発表される2016年度の食品ロスの値にも注目したい。

ロスをシェアするのと並行して最優先は「ロスそれ自体を減らすこと」

2016年度以降の値で、事業系の食品ロスが減る可能性もあるだろう。だが、寄付による税制優遇や、万が一の事故に際しての免責制度がある米国などと違い、日本では、販売できない食品は、リスクを回避して、第三者に託すことなく廃棄されることも多い。もし万が一、何事かあれば、と、食品メーカーはPL法(製造物責任法)を考えるからだ。事業者のリスクが自己責任とされる以上、事業系ロスの100%がシェアにより再利用されることは、ほぼ困難と推察される。

食品ロスをシェアすることは、資源活用の上で重要だ。だが、改正食品リサイクル法の基本方針では、「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」が最優先であるとされている。シェアはその次の優先順位である「Reuse(リユース:再利用)」だ。最優先のリデュースがなおざりにされていないか。

製造者は「作り過ぎない」、販売者は「売り過ぎない」、消費者は「買い過ぎない」。適度に作り、適度に売り、適度な数を買うということが最も大事なこと。

「シェア」の報道がされ、人々の注目が集まるたびに「いいねいいね」の嵐が起きる。「余ればあげればいい」「余れば安売りすればいい」と、思考停止で過剰に賞賛されているのではないかとの懸念があり、あえて警鐘を鳴らす次第である。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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