集中豪雨の原因は湿舌(しつぜつ)か?
集中豪雨などで気象災害が起こると、その原因は何か?と、犯人探しが始まります。我々、天気キャスターの役割は、できるだけ合理的に、分かりやすく説明することですから、「梅雨前線に向かって湿った空気が・・・」とか、「台風の間接的な影響で・・・」とか、いろんな定性的な言い方をすることになります。
しかし、たいていの場合は、原因と結果が簡単に結びつくほど、自然現象は甘くありません。というより、まったく見当違いの解説がなされることも多々あるように思います。
たとえば、「今回の大雨の原因は湿舌(しつぜつ)です・・・」というような、解説を聞くことがあります。湿舌というのは、英語の”Moist tongue”の訳で、大気の下層に、舌のような形で湿潤な空気が入り込んでいる様子を述べた気象用語です。
ところが実は、湿舌というのは大雨の原因というより、大雨と同時現象か、もしくは対流活動の結果として起こるもので、ニワトリが先かタマゴが先かのように、どちらが先とかは、言えない性質のものなのです。したがって、「湿舌が原因・・」と言うのは、「タマゴが先・・」と断定しているのに等しいのです。
という理屈は分かっていても、人々から「なぜ??」と聞かれると、我々、天気キャスターは、もっともらしい”原因”を考え出して、お伝えしているのが現状なのです。(中にはホントに理解していない解説者もいるかもしれませんが・笑)
ところで、元気象庁長官の二宮洸三氏は、その著書「集中豪雨の話」の中で、小児的な「どうして?なぜ?」や、「原因ー結果」論は無意味だと述べています。
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(以下、文責森田による概略)
たとえば、「A氏がB氏の家に行って玄関ベルを押したら、居間にいたB氏が玄関ドアを開けた」 というような状況があったとします。ではB氏がドアを開けた原因はなんでしょう?
一般には「A氏がベルを鳴らしたから」との答えで一見落着のようですが、深く考えていくと、そう簡単ではないことがわかります。
一連の状況を分解してみると、
・ボタンを押す→電流が流れる→ベルが振動する→音波が伝わる→B氏が音を知覚する・・・・
というふうになります。最初の出来事の発端が、ベルを押したからというのは間違いありませんが、だからといって、では電流が流れなかったらどうなのか?音を伝える空気がなかったらどうか?
B氏がヘッドホーンをしてたらどうなのか?と、次々と疑問が湧いてきます。
つまり、原因があって結果というのは、様々な条件や前提があって成り立つことで、単純に「ボタンを押したから」というだけでは、答えになっていません。
二宮氏は、大切なのは自然現象のプロセスを正しく認識し、安直な「原因ー結果論」はできるだけ避けることだと述べています。
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そもそも論でいくと、私自身もつい言ってしまいがちな「なぜ?」という発想自体が、安易な解決を求める考えなのかもしれません。
二宮氏が言われるように「なぜ?」ではなく、「どのようになっているのか」と、自然界のしくみを調べることが、たぶん最も重要なことなのでしょう。
ただ、それでも、天気キャスターとしては、多くの方の「なぜ?」という疑問に答えないわけにはいきません。正確な表現をして、何を言っているのか分からないような解説よりは、少々不正確でも、分かりや すく噛み砕いた方が、私は良い解説だと思っています。このあたりの考えは、また次回にでも書かせていただきます。