菊池流帆が決勝点 「平成最後の薩長ダービー」、長州に軍配/レノファ山口
J2レノファ山口FCは4月14日、維新みらいふスタジアム(山口市)で鹿児島ユナイテッドFCと対戦し、1-0で勝利した。菊池流帆がJリーグ初ゴールを決め、下位直接対決を制した。降格圏を脱し、順位は19位に浮上している。
明治安田生命J2リーグ第9節◇山口1-0鹿児島【得点者】山口=菊池流帆(後半45分)【入場者数】5699人【会場】維新みらいふスタジアム
5年ぶりのダービー 前半は鹿児島のペース
レノファと鹿児島が公式戦で対戦するのは、2014年のJFL時代以来5年ぶり。幕末の歴史を紐解けば、対立を乗り越えて薩長「同盟」を結んだ両地ではあるが、この日ばかりは「平成最後の薩長ダービー」と銘打って試合をPRしてきた。ただ、試合開始前の時点でレノファが21位、鹿児島が22位といずれも降格圏に沈む。いわゆる「裏天王山」として迎えるダービーとなった。
立ち上がりからゲームの主導権を握ったのは鹿児島だった。八反田康平と加入したばかりのニウドの中盤を中心にボールを保持すると、左からは牛之濱拓、右からは五領淳樹が高い位置でボールを回収。両サイドバックも攻撃に加わり、持ち前のパスコンビネーションでレノファ陣に攻め込んでいく。ゴールには至らなかったが、鹿児島は立て続けにチャンスを作ってレノファゴールを脅かした。
鹿児島のボランチが比較的自由にボールに触れている中、レノファは対照的に三幸秀稔へのパスコースも、三幸からのパスも限定され、思うようにゲームを運べなかった。サイドでの仕掛けも封じられ、左サイドでは高井和馬がボールを受け、オーバーラップする川井歩がクロスを上げる場面はあったものの、単発の攻撃が続いた。先発したFW山下敬大への供給も少なく、前半を通じてのシュートはわずかに3本。防戦一方の中、守備でギリギリのところで体を張れていたことが唯一の収穫と言えるような前半だった。
カギを握ったのはハーフタイムと後半15分頃に起きた現象だった。
流れを呼び込んだ二つの修正点
15分のインターバルは、霜田正浩監督も「ハーフタイムの雰囲気は最悪だった」と振り返るものだったが、「後半は本当に気持ちを入れ替えないと勝てない」と強く背中を押して選手たちを送り出した。また、ベンチ入りしていた佐藤健太郎の準備を急ぎ、後半5分から投入。自由を与えていた相手ボランチの制限を佐藤に託した。
この策が奏功。鹿児島に流れていたゲームのモメンタムを五分ほどにまで戻し、同12分に高井が田中パウロ淳一との連係からシュートに持ち込む。前半の球離れの悪さを払しょくし、ようやくレノファらしいリズムのある攻撃が見られるようになった。
ところが、その直後のチャンスで山下が相手選手に乗りかかられて負傷。ピッチ上に倒れ込み担架で運び出されてしまう。後半が始まって15分。佐藤の投入で流れを引き戻しつつあったが、思わぬアクシデントに見舞われてしまう。
霜田監督はこのタイミングで工藤壮人をピッチの中へ。工藤は今季すでに2得点を挙げ、いずれもGKへのプレッシャーからボールを奪いゴールネットを揺らしていた。今節も工藤は前線からプレスに行き、佐藤とともに相手の出足を鈍らせていく。
ゲームの流れを引き寄せるという点では、山下への処置が行われている間のコミュニケーションもプラスに作用した。山下にとっては無念の時間帯ではあったが、2分ほどの中断を使って前貴之と佐々木匠が言葉を交わし、さらに三幸も加わって意思疎通を図った。
「ゲームの進め方の部分と、あとはタカさん(前)が自由に動くことでボールが回るようになっていたので、それをうまく生かせるようにバランスを取ろうという話をした」(佐々木)。右ウイングの田中パウロが前半と同じように縦への推進力を出す一方、右サイドバックの前は田中パウロよりも内側から前線に入り、場合によっては左サイドまで流れてパスワークに参加。カウンターを受けるリスクはあったが、前線でボールを受ける選手が増え、レノファがゲームを掌握するようになる。
ただ、同35分の高井のシュートがクロスバーを叩くなど、流れは引き込めても、「運」までは呼び込めていないレノファ。「シュートがポストに当たってなかなか入らない、せっかくきれいに崩してもシュートが入らない」(霜田監督)と地団駄を踏みたくなるような展開の中、労が報われるゴールが予想外の形から生まれた。
迷わぬダッシュ 菊池が値千金の一撃
後半45分、相手のCKをGK山田元気がキャッチし、ロングフィードからカウンター攻撃を展開する。左のタッチライン際から佐々木がドリブルで突破すると、工藤の動き出しを見て、低いクロス。トラップが伸びてシュートは打ち切れなかったが、勢いを持ってボックスに入った分だけGKアン・ジュンスも止めきれず、その跳ね返りをセンターバックの菊池流帆が右足で鋭く振り抜いた。
常識的に考えればシャドーやウイングが反応しそうな場所からのシュートで、レノファならば前が放つこともあり得そうだが、意外にも空中戦にめっぽう強いセンターバックがここまで駆け上がって、タイミングを合わせた。
Jリーグ初ゴールとなった菊池は「(山田が)蹴って前に行った瞬間にはダッシュしていた。毎試合1点は取りたい」と無意識に体が反応したと振り返り、霜田監督は「なぜ彼があそこにいたのかは分からないが、いつも練習後に一人で黙々と走ったり、トレーニングしたりしている。日々の努力があそこに走って、ボールがこぼれてくる」ことに繋がったとたたえた。
最終盤は再び相手の攻撃を受けるが、山田がファインセーブを連発したほか、佐々木が枠内に飛んだシュートを体を張って止めるなど全員で守り抜いた。レノファは第3節以来、6試合ぶりの白星。ホーム戦では今シーズン初勝利で、スタジアムは沸き返った。
霜田監督は「こういう劇的なゴールで1-0で勝てたことは、本当にサポーターのおかげ。この勝利、この得点は僕らが勝ち取ったものではなく、今まで変わらずに応援してくれたサポーターが取らせてくれたゴール」と述べ、声援に感謝。キャプテンの三幸は「僕たちは、どんなにつらい状態でも応援に来てくれているサポーターがいるからこそ成り立っている職業。そういう意味では僕たちの義務は少し果たせたのかなと思う」と話し、「この波には絶対に乗らないといけない」と力を込めた。
Jでの薩長ダービー 第1戦は「長州」の勝利
ハーフタイムで修正し佐藤の投入などで相手の起点を抑え、後半のピッチでは選手同士のコミュニケーションの中からさらなる修正を加えた。決して90分にわたってレノファらしく戦えていたわけではないが、コーチングスタッフによるゲームメークと、練習から促す自ら判断するサッカーの両面を見せることができた。
攻撃面では、これまでは右サイドからのサイドチェンジと左サイドでの構築に頼っていた部分は大きかったものの、田中パウロと前の役割が試合のたびに整理されつつあり、右サイド単体で相手陣内に深く入っていく場面が見られるようになった。昨シーズンの後半戦を思えば、戦術の全てを人にくっつけるわけにはいかないが、アタッキングサードでの自由を得るためには、引き続いて前や三幸、佐々木などのストロングを生かせるようにしていきたい。また、難しい内容となった前半を無失点で耐え抜いた点も収穫と言える部分で、川井は「ゼロで抑えることができたし、これから守備面でも良くなっていくと思う」と前を向く。
1勝をするのはこんなにも大変なものなのかと再認識させられた試合だった。しかし、この死闘は好ゲームをしながら勝利に飢えていたチームにとって、大きな意味を持つ勝利になりそうだ。「今日もまたダメかと思うような雰囲気やタイミングもあったが、僕自身、選手もそうだと思うが、本当に最後まで諦めなかった。このまま勝ち点3を取るんだという気持ちがプレーに乗り移ってくれた」(霜田監督)。勝利への最後の一ピースは、戦術でも、戦略でもなく、凱歌を渇望する燃えるような気迫だったのかもしれない。
平成最後の薩長ダービーを制したのは長州・レノファ山口FCだった。薩摩・鹿児島ユナイテッドFCは決定力を欠き、今節も無得点で5連敗。明暗を分けるダービーとなった。薩長ダービーの次戦は令和元年(2019年)10月20日開催で、白波スタジアム(鹿児島市)に会場を移す。今回は下位直接対決となったが、次はより高い目標に向けて競い合いたい。
レノファは次戦は敵地でモンテディオ山形と対戦。次のホーム戦は4月28日午後4時から、維新みらいふスタジアムでツエーゲン金沢と戦う。