愛知限定ローカルチェーン「ラーメン福」はなぜ愛される?
名古屋を中心に10店舗の“隠れ名古屋ラーメン”
名古屋のご当地ラーメンといえば、スガキヤラーメン、台湾ラーメンが挙げられますが、“隠れ名古屋ラーメン”ともいうべき存在が「ラーメン福」です。
「ラーメン福」は名古屋を中心に愛知県内のみで10店舗を展開するローカルチェーン。ほとんどの店が中心部から離れた郊外にあるため知る人ぞ知る存在で、“名古屋めし”に挙げられることもありません。しかし、どの店も連日カウンターがびっしり埋まるほどの人気で、熱心な常連をがっちりつかんでいる愛されチェーンなのです。
“安い、美味い、早い、山盛り”の四拍子
「ラーメン福」とは一体どんな店なのか? ご紹介していきましょう。
メニューはいたってシンプルです。ラーメンの味は一種類。量とトッピングによって「大盛」「特製(チャーシューメン)」「特製大盛」のバリエーションがあるのみです。サイドメニューは「ギョーザ」「チャーシュー盛付」「ライス」。チャーシュー盛付はラーメンの具を別盛りにしたものなので、基本的にラーメンとギョーザとライスだけで構成されています。
何よりの特徴はコスパのよさです。ラーメンは650円の良心価格。しかもこれがどーん!とボリューム満点。麺の量はノーマルサイズで150gと生麺の状態ではごく標準的なのですが、低加水麺のためゆがくとグッと重くなります。なおかつスープは丼になみなみ、さらにその上にもやしの山がそびえているので、体感としては一般的なラーメンの3割増しといったところでしょうか。
そして、最大の特徴ともいうべきが山盛りのもやしです。ノーマルでもその量およそ200g。スーパーで売っているもやし一袋分に相当します。さらには「野菜多め」と注文すると一気に1・5倍に。しかもこの増量が何と無料なのです。
こんなおトクさがウケているのは間違いのないところですが、多くの常連をつかんでいる最大の要因はその味です。背脂醤油スープはこってりしているようで後味は不思議とさっぱり。近年はパンチ重視のラーメンが多い中、インパクトがあるわけじゃないのに舌の記憶に残り、不思議とまた食べたくなる、昔ながらで懐かしい“絶妙に普通のラーメン”なのです。
京都発祥のラーメンFCから独立
「ラーメン福」はどうやって名古屋、愛知の人たちの心をつかんだのか? 運営する(株)アライ代表取締役の大倉悦子さんに尋ねました。
――「ラーメン福」の歴史を教えてください
「ラーメン福」大倉悦子さん(以下「福」)「昭和53(1978)年に私の父が『ラーメン藤』のFC(フランチャイズチェーン)店として十一屋店(名古屋市港区)を開店したのが始まりです」
――もともと「ラーメン福」ではなく「ラーメン藤」のFC店だったのですね
福「そうなんです。『ラーメン藤』は京都に本店があり、十一屋店は名古屋初のFC店でした。その後、より自分たちの理想とする味をつくりたいと考え、平成6(1994)年に独立して『ラーメン福』に改称しました」
――「ラーメン藤」とは違う味をつくろう、と考えたのですか?
福「そういうわけではありません。当時は岐阜の製麺工場から麺を仕入れていたのですが、できるだけ店舗の近くで麺をつくって品質を安定させたいという思いがありました。そこで名古屋市内に製麺工場を設立し、それをきっかけに『ラーメン福』として独立することになったんです。基本の味は『ラーメン藤』のままのつもりだったのですが、何年か前に京都のお店に食べに行ったら、藤さんとは違う味になっていて驚きました」
――出自である「ラーメン藤」の味とはどのように変わっていたのでしょうか?
福「自家製麺はより小麦感のあるもの、スープはコクがあるけどすっきりした味わいを目指してきたので、独立して20年近くの間に、麺、スープの両面で違いが出ていたと感じます。もやしの量も当社の方がいつの間にか増えていました(笑)」
「野菜多め」が代名詞も初めての人は是非ノーマルで!
――「野菜多め」は今や「ラーメン福」の代名詞です
福「もともと“もっと入れて”というお客さんの要望に、“喜んでもらえるなら”とサービスで応えていたんです。それが広まって、いつの間にかどの店でも対応するようになりました」
――普通ならトッピングメニューとして追加料金を取ってもおかしくありません
福「あくまでサービスなのでお金をいただくのは抵抗があって…。量もノーマルの1・5倍が目安なんですが、その時のもやしの長さでも変わりますし、見た目で大体こんな感じ、というくらいでちゃんと基準を定めているわけではないんです」
――おいしい食べ方のコツは?
福「麺ともやしを一緒に食べていただくこと。そのために、レンゲでもやしを押さえ、箸で麺を持ち上げて、もやしと麺をひっくり返すと食べやすくなります。この方法は、誰が言い始めたかは分かりませんが“天地返し”と呼ばれています(笑)」
――中太麺ともやしがちょうど同じくらいの太さで一体感を感じられます
福「そうなんです! 『野菜多め』の場合はもやしの水分でスープが薄まってしまうので、卓上の『ラーメンタレ』を加えて調整してください。ただし、初めての方は『野菜多め』ではなく、本来のバランスで味わえるノーマルをご注文いただくことをおすすめします」
飽きずに何度でも食べたくなる味。県外出店の野望は無し
――「ラーメン福」のラーメンはなぜこんなに名古屋の人に愛されているのでしょうか?
福「飽きの来ない味がご支持いただいている理由だと考えています。もやしがたくさんなこともあって意外とあっさり食べられる。お客様の9割が常連さんで、毎日のように来てくださる方もいらっしゃいます。本当に地元の方に支えていただいています」
――お客さんの傾向は?
福「郊外の国道沿いが主な立地なので、男性が圧倒的に多い。でも、近年は女性のお客さんも増えてきました。年配のご夫婦もいらっしゃいますし、週末はお子さま連れのご家族も目立ちます」
――懐かしさや安心感がある昔ながらのラーメンのおいしさは、名古屋だからウケているのではなく、本当に万人ウケするものだと感じます。名古屋以外にも出店しようという計画は?
福「スープは毎日お店でイチから仕込んでいて、ギョーザも店で包んでいます。食材は生ものですから常に微調整が必要です。誰でもすぐにできるわけではなく、調理はすべて社員が行い、勤続10年以上のベテランも多い。経験と思いがないと味を守れないので、のれん分けは応援しますが、FC展開はしていません。だから、県外にまでお店を広げようとか、何店舗出店しようとかという計画はないんです」
サービス重視のおもてなし精神に“名古屋らしさ”が
社長の大倉さんが「従業員が主役です!」という通り、現場スタッフのスキルの高さも『ラーメン福』の“チェーン力”のひとつです。動きがきびきびしていて、券売機のない店では注文や計算を暗記、暗算で対応しているのに感心させられます。「野菜多め」などのサービスも、スタッフの柔軟性があるからこそ成り立っているのです。
「『野菜多め』だけでなく、『麺少なめ』『(ギョーザ)よく焼き』『脂少なめ』など、可能な限りお客さんのご要望にはお答えしています」とは土古(どんこ)店店長の仲本和正さん。「マニュアル化されていないため、つくる人によって微妙に味が違うこともあり、異動で店を移るとわざわざそっちの店まで来てくれるお客さんもいます」といいます。チェーン店でありながらほぼ個人店同様の運営をしているのも、常連が信頼と愛着を感じる理由のひとつといえそうです。
味には名古屋めし的な地域限定の要素はないものの、野菜増量無料のおまけサービスや、よりおトクな回数券(11枚綴りで6500円)は、モーニングやコーヒーチケットが当たり前という名古屋の喫茶店のおもてなしサービスに通じるものを感じます。小規模の店舗で地域の常連を大切にする姿勢もまた同様です。そう考えると、「ラーメン福」はやっぱり名古屋らしい大衆向け飲食店だといえるでしょう。
2023年で創業45周年を迎えた名古屋のローカルチェーン「ラーメン福」。名古屋めしとはまた違う名古屋の味は、誰しもが親しみを感じるはず。地元以外での出店予定もないようなので、是非とも名古屋・愛知で味わってみてください! (店舗情報は公式HP参照のこと)
(写真撮影/すべて筆者)