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「賞味期限切れ」60〜90日後でも安全なら提供 消費者庁、備蓄活用で食品ロス削減と困窮者支援へ

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
食料不足と人道的支援(写真:baking/イメージマート)

消費者庁が、災害用備蓄品のうち、賞味期限が過ぎても安全性が確認でき「食べられる」と判断した食品に「使用期限」を設定し、子ども食堂やフードバンク、社会福祉協議会へ配布するモデル事業を始める。2021年7月12日に判明し、共同通信が報じた(1)。本日7月14日に徳島市内で事業説明会を開催する。賞味期限が切れてから60日から90日間は使用できる仕組み。

目的は、食品ロス削減と、生活困窮者の支援。消費者庁のオフィスがある徳島県を中心に四国で実施し、効果を検証した上で、全国展開を検討するとのこと。

食品ロス削減に向けた新たな使用期限のイメージ(共同通信、2021/7/12より)
食品ロス削減に向けた新たな使用期限のイメージ(共同通信、2021/7/12より)

国が率先して「賞味期限切れ」を活用するのは非常に有意義

このように、国が率先して賞味期限が過ぎた備蓄食品を活用してもらえるのは非常にありがたいし、波及効果があると思う。

農林水産省は、2019年12月に、省庁として初めて備蓄食品の寄付を行なった。翌2020年12月には、賞味期限が2ヶ月過ぎた果物の缶詰の備蓄食品を、同じようにNPOに寄付した(2)。

このとき、福島県から車で農林水産省まで受け取りに来たNPO法人FUKUSHIMAいのちの水の代表理事、坪井永人さんは、次のように語っていた。

(このコロナ禍で)私が東京へ行くことを、メンバーが止めました。うちの会の後ろに、毎月2,000人から3,000人の子どもがいるんです。(中略)外部の人間は事務所に入れないように、今回のコロナに対処しています。ものすごく気を遣っています。(中略)

それでも私はあえて来たんです。それはなぜかというと、農水省が(国が)備蓄品を放出するということがすごく重要だからです。各企業はそれぞれ(食品の寄付を)やっていますけども、国がやることによって、それ(寄付)が本当にいいことなんだ、正しいことなんだと、日本の企業全体が思うようになる

賞味期限が2ヶ月過ぎた果物の缶詰や備蓄食品を受け取るNPOの坪井さん(右)と農林水産省の野田さん(左)(筆者撮影)
賞味期限が2ヶ月過ぎた果物の缶詰や備蓄食品を受け取るNPOの坪井さん(右)と農林水産省の野田さん(左)(筆者撮影)

民間企業は、国に準ずる、国に従う、という面がある。今回のように、賞味期限が過ぎても、安全だと確認されたものなら活用できるとわかれば、企業にとっても、廃棄せずに活用することに徐々につながっていくだろう。

欲をいえば・・・新たに貼るシールのごみとコストをどう考える?

消費者庁のモデル事業は、日本非常食推進機構(三重県四日市市)が受託し、大学教授や食品検査機関が参加するそうだ。賞味期限切れ食品の菌検査や官能評価を行い、基準を満たした食品に「あんしん検査済み」のステッカーを貼り、「生活応援食品」と位置付けるとのこと(1)。

このステッカーに対しては「ごみになる」という意見も出ている。

ごみに加えて筆者が懸念するのは、シールのコストだ。食品メーカーでも使うことがあるが、シールの費用は、もしこのモデル事業の効果が検証されて全国規模に拡大するとなれば、ばかにならない金額だ。シールのコストを負担するぐらいなら、そのお金で、食品を必要とする人へ提供する食品を購入したほうがよいのでは?

賞味期限が過ぎても「これだけ使える」ガイドラインを発表する英国方式も

日本のモデル事業は、対象の備蓄食品をピックアップして検査機関で検査をする方式だが、そもそも備蓄食品は年単位の賞味期間があり、長く保存できる食品がほとんどだ。したがって、英国のように、一つひとつ検査をするのではなく、「パスタだったら賞味期限過ぎてもこれだけの期間使えますよ」といった、食品ごとのガイドラインを発表するのも一つの方策だと考える。

2020年4月、英・WRAP(ラップ)は、賞味期限が切れた食品をすぐ捨てないよう、食品企業やフードバンクのような食品を配分(再利用)する組織、慈善団体など、食品関係者に促すガイドラインを発表した。

WRAPは、食品基準庁や環境・食料・農村地域省など、英国政府と共に制定したガイドラインの内容に改訂を加え、賞味期限が過ぎた後も再分配(redistribution)できる期間がこれだけありますよ、という内容をアドバイスしている。2017年に発表したガイドラインを、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大を受けて改訂した(3)。

同様の取り組みは、イタリアも行なっている。欧州諸国では、加工食品をできる限り無駄にしない事例がとても多い。

本日7月14日の日本時間22時よりGFN(グローバル・フードバンキング・ネットワーク)などのウェビナー

本日7月14日、食品ロス削減と、必要とする人に食料を届ける、食料安全保障のためのウェビナーが開催される(4)(英語とスペイン語)。前述のWRAPと、世界的なフードバンクのネットワーク組織であるGFN(グローバル・フードバンキング・ネットワーク)、米国ハーバード・ロースクール(のフード・ロー・アンド・ポリシー・クリニック)が主催する。SDGsの2番(飢餓の撲滅)とSDGsの12.3(一人当たりの食料廃棄量の半減)の達成に向けて、世界の進捗状況に関するパネルディスカッションで、国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)と並行して行われる。フードサプライチェーン全体で食品ロスを削減し、食料安全保障を向上させるための政策に焦点を当てる。関心のある方はぜひ参加してみるとよいと思う。

参考情報

1)食品ロス削減へ新使用期限を設定 消費者庁、子ども食堂に提供(共同通信、2021/7/12)

2)「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/12/21)

3)巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/4/27)

4)Fighting Food Waste to Improve Food Security: Solutions for People and the Planet (Global Foodbanking Network)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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