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ブラックホールの常識が覆った!最新の特大ニュース3選

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「ブラックホールの常識が覆った最新ニュース3選」というテーマで動画をお送りしていきます。

ブラックホールは宇宙の中でも最もエネルギッシュで、奇妙な天体であると言えるでしょう。

そんなブラックホールにまつわる最近のニュースを3つまとめて紹介していきたいと思います。

●いて座A*の直接観測に成功

Credit: EHT Collaboration
Credit: EHT Collaboration

日本時間2022年5月12日の22時、人類史上初めて天の川銀河の中心部にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の直接観測に成功したと発表があり、非常に大きな話題を呼んでいました。

そもそもブラックホールとは、物質があまりに高密度に集まり、重力が強くなりすぎてその周囲から光すらも脱出できなくなった天体のことを指します。

つまりブラックホールからは光すらも出てこれないので、ブラックホールから放たれた光を捉えることはできません。

ですがブラックホールの周囲にあるガスなどの物質は、光速に極めて近い速度でブラックホールを公転し、超高温で光輝く円盤状の構造(降着円盤)を形成します。

Credit: Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian
Credit: Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian

降着円盤から放たれた光がブラックホールの重力で進路を歪められ地球に届くと、ブラックホール本体が存在する部分にぽっかりと黒い影(ブラックホールシャドウ)が浮かび上がります。

今回の画像ではこのブラックホールシャドウが直接示されたことで、これまであくまで理論上の存在だったブラックホールが実在することを証明しました。

Credit: EHT Collaboration
Credit: EHT Collaboration

新たに公開された画像のシャドウは、直径が約6000万kmありました。

これは一般相対性理論から推定されるブラックホールシャドウの大きさと一致しています。

この画像から計算されるいて座A*の質量は、太陽の400万倍です。

2019年4月には、今回発表を行ったのと同じEHTのチームによって、今回と同様のメカニズムで映り込んだ、地球から約5500万光年離れたM87という銀河の中心にあるブラックホールのシャドウの姿も公開されています。

Credit:EHT collaboration (acknowledgment: Lia Medeiros, xkcd)
Credit:EHT collaboration (acknowledgment: Lia Medeiros, xkcd)

M87のブラックホールの質量は、太陽の65億倍にもなります。

これはいて座A*の実に1500倍に相当します。

ブラックホールシャドウの半径は質量に比例するため、今回のいて座A*の画像はM87の1500分の1の大きさしかありません。

具体的には、M87の画像の内部にある冥王星軌道の約120分の1の大きさしかない水星軌道が、いて座A*の画像ではその構造の外周部に位置しています。

そんな中、実はそもそもこのブラックホールの写真自体が誤りで、実際は直接の観測は成功していないという指摘があります。

もし仮にこれが誤りだったとしても、真実に近づけたことは科学の発展と言えますし、今後もEHTはブラックホールの姿を求めて活動を続け、新たな情報をもたらし続けてくれるはずです。

●自由浮遊ブラックホール初観測

本体からは光を放たないブラックホールを観測するには、基本的にはその周囲の構造である降着円盤やジェットなどが放つ強力なX線などを捉える必要がありますが、それらはブラックホールの周囲に大量の物質がないと形成されません。

そのため周囲に物質があまり存在しない場所にあるブラックホールは、地球から観測することが極めて難しいんですね。

実際、「恒星ブラックホール」と呼ばれる、ブラックホールの中でも最も軽い部類のブラックホールは、通常の恒星などと連星を成し、連星の天体からガスを奪うことで強力なX線を放っているものしか発見されたことがありませんでした。

また近年では二つ以上のブラックホール同士が合体する瞬間に放たれる重力波を捉え、ブラックホールを発見することができるようにもなりましたが、この場合もやはり連星系のブラックホールに限られてしまいます。

そんな中今年、地球から天の川銀河中心部方向約5150光年彼方に、「単独で存在する恒星ブラックホール(以下新発見のBH)」が史上初めて発見されたと、別の2つの研究チームによって発表されました。

天の川銀河内には1億もの恒星ブラックホールが存在し、その大半は新発見のBHのように単独で存在していると考えられています。

そんな大量に存在するはずの仮説上の天体を、今回初めて発見することに成功しました。

当然新発見のBHは周囲に物質が存在せず、降着円盤も宇宙ジェットもないため、直接観測することはできません。

今回このBHを発見したのは、「重力マイクロレンズ効果」という現象のおかげでした。

Credit: ESA/Hubble & NASA
Credit: ESA/Hubble & NASA

重力レンズ効果とは、特に質量が大きい天体の周囲の空間が強大な重力によって歪められている影響で、その天体の背後にある天体から地球にやってきた光が歪んで見えたり、通常よりも明るく見えたりする現象です。

重力レンズ効果が起こると、本来地球に届かなかった光まで進路が歪められて地球に届くようになるので、本来よりも多くの光が届き、背後の光源の天体はより明るく見えます。

表示中の画像は非常に質量が大きい銀河の重力によって、その背後の銀河の姿が歪んで見えていますが、このような重力レンズ効果はさらに質量が軽い天体でも発生し、特に「重力マイクロレンズ効果」と呼んでいます。

Credit: ESO M. Kornmesser
Credit: ESO M. Kornmesser

この宇宙のどこかを漂う孤立した恒星ブラックホールと、その背後にある天体との位置関係が、地球から見て完全に一致したとき、地球から背後の天体の光が一時的に明るく見えます。

Credit:Kailash et al. (2022)
Credit:Kailash et al. (2022)

この重力マイクロレンズ効果による背後の天体の増光を観測でき、その増光期間や背後の天体の見た目の位置のズレなどの情報から、その前を横切った今回のBHの存在が明らかになった、というわけですね!

具体的には2011年に地球から2万光年彼方にある恒星が突然明るくなったことで、今回のBHの存在が示されました。

そこから今年に至るまで、数々の分析が行われたんですね。

今回のBHの質量の推定は2つの研究チームごとに異なり、太陽の5.8~8.4倍、あるいは太陽の1.6~4.4倍という結論が得られています。

もし太陽の2.5倍未満程度の質量であれば、背後の天体の増光を起こした天体の正体は恒星ブラックホールではなく、中性子星である可能性も残っています。その正体を確定させるためにも、さらなる追加観測が待たれます。

●100日後に衝突する超大質量BH連星を発見

credit: SXS
credit: SXS

連星系のふたつのブラックホールは、らせん状の軌道を描きながら互いに落ち込んでいきます。

両者が近づくにつれ、周りの空間のゆがみが増し、ついには合体して1つのブラックホールになります。

合体直後のブラックホールは激しく振動し、エネルギーを失いながら次第に落ち着いていきます。

Credit:R. Hurt - Caltech  JPL
Credit:R. Hurt - Caltech JPL

ブラックホールの衝突の過程では、強い重力波が発生します。

重力波とは、時空のゆがみが波として光速で伝播していくものです。

ブラックホール同士が衝突すると、元のブラックホール同士の質量が足し算された、より巨大な質量のブラックホールが生成されます。

ただし一部は重力波のエネルギーに変換されるため、単純な足し算よりも幾分軽くなっています。

これまでに何度かブラックホール同士の衝突による重力波が検出されてきましたが、どれも太陽の100倍以下の質量しか持たない、比較的軽いブラックホール同士の衝突現象ばかりでした。

超大質量ブラックホール同士の衝突が発生すればこれまでにないほど巨大な信号を検出でき、新たな発見もたくさんあることが期待されていますが、実際にそれが私たちが生きている間に起こる可能性は極めて低いです。

Credit:Jiang et al. (2022)
Credit:Jiang et al. (2022)

そんな中、2022年1月、カナダのペリメーター理論物理学研究所などの研究チームは、地球から約12億光年彼方にある銀河にて、衝突間近の超大質量ブラックホール連星系を発見したと発表しました。

研究チームは当初、2つのブラックホール連星系によるものと思われる信号を検出していました。

その後観測を続けていると、なんと信号の周期が徐々に短くなっていったそうです。

通常のブラックホール連星系であれば、近いと言っても十分に距離が離れているため、人間の寿命スケールではブラックホール同士の距離や信号の周期が変化することはありません。

つまり今回信号を放ったブラックホール連星系は、ブラックホール同士の距離が既に極めて近い所にまで接近していることが伺えます。

一つの解釈では、2つのブラックホールの質量は太陽の100万倍を超えており、「超大質量ブラックホール」に分類される可能性があるようです。

その場合、観測開始からたった3年で、ブラックホールの距離間隔は1光年から1光月にまで縮まっている計算になるそうです!

3年で距離が12分の1になるということは、衝突が間近であることがわかります。

このペースからして、衝突のタイミングは早ければたった100日後、遅くても3年以内に衝突するとみられています。

何万年後とかでも宇宙規模では「衝突間近」と表現されそうですが、今回の場合は人類規模で言っても間近と言えます。

既にこの研究の発表から100日以上経過しましたが、まだ続報は確認されていません。

観測から発表までには時間差があるので、もしかしたら研究者たちは既に巨大な重力波信号を捉えているのかもしれません。

もしも今回の発表の通り、人類史上初めての超大質量ブラックホール同士の衝突を検出することができたら、超大質量ブラックホールがどのように進化したのか、より深く理解されるでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=ZvvxaSHrGdo
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220512-eht.html
https://news.mit.edu/2022/first-supermassive-black-hole-sagitarrius-0512
https://www.nsf.gov/news/news_images.jsp?cntn_id=298276
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220610_4
https://www.inverse.com/science/black-hole-merger-2022
https://arxiv.org/pdf/2201.11633.pdf

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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