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朝日杯2連覇を目指す藤井聡太八冠、本戦1回戦で強敵・斎藤慎太郎八段の攻めをしのいで勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月14日。愛知県名古屋市・名古屋国際会議場において第17回朝日杯将棋オープン戦本戦トーナメント1回戦の対局がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 結果は以下の通りです。

 藤井聡太八冠○-●斎藤慎太郎八段

 増田康宏七段○-●及川拓馬七段

 2連覇を目指す藤井八冠は14時からおこなわれる2回戦に進出。増田七段と対戦します。

藤井八冠、きわどくしのぐ

 ▲斎藤八段-△藤井八冠戦は斎藤先手で角換わりに。藤井八冠が攻めの銀を足早に押し進める早繰り銀(はやくりぎん)を選んだのに対して、斎藤八段はバランス重視の腰掛け銀(こしかけぎん)に構えました。

 藤井八冠が先に動いたのに対して、斎藤八段は手に乗って反撃。いち早く藤井玉に迫る形を作ります。

藤井「途中から先手の攻めを呼び込むような形になって。かなり攻め込まれて。非常にきわどい展開になったかなと思っていました」

斎藤「藤井さんの方に攻めを呼び込まれたような感じで。攻めさせられてしまったのかなというところだったですね。けっこうでも後手玉も薄いので、なんとかいけるのではというふうに読んでいたんですが」

 斎藤八段が厳しく攻めこんでいくのに対して、藤井八冠はきわどく受け続けます。

藤井「(53手目)▲3三金に△5二玉と上がったんですけど、そこで先手からの攻め筋がかなり多い状況になっていたので、ちょっと、その局面をどう判断すればいいか、対局中はなかなかわかっていなかったです」

 藤井玉は早くもピンチを迎えたように見えました。しかし力強く中段まで逃げ越してみると、怖くともなかなかつかまらない形になったようです。

斎藤「(58手目)△4四玉と上部に上がられたところで、思わしくないのだなというので。そこでまずくなったなと思ったので。そうなるとちょっと序盤から自信がなかったのかもしれないなという。あとになって気づいたような展開でした」

 藤井八冠は反撃に転じると、セオリー通り斎藤玉を包むように寄せ、左右上から迫る形で追い込みました。

 92手目、藤井八冠が上部を押さえる銀を打ったのを見て、11時43分、斎藤八段は投了しました。

 両者の対戦成績はこれで藤井7勝、斎藤3勝となりました。

 藤井八冠の今年度成績はこれで35勝6敗(勝率0.854)です。

 藤井八冠の今年度勝率は再び、中原誠16世名人(1967年度当時五段)の史上最高勝率に迫る勢いです。

増田七段、快勝でリベンジマッチ実現

 ▲及川七段-△増田七段戦も角換わりに。序盤の駆け引きで、増田七段が右玉に組んだのに対して、及川七段は穴熊にもぐりました。

 互いに手が出しづらい局面が続いたあと、及川七段は堅陣を頼みに動いていきます。対して増田七段は及川陣にスキができたのを見て反撃。及川七段の攻めをていねいに受け止めて、切れ筋へと導いていきます。

 最後は及川七段の攻め駒である龍をつかまえて、盤石の態勢。11時50分、116手で終局となりました。

増田「角換わりの将棋になって。相手玉がすごい堅い展開になったので、けっこう不安はあったんですけど。うまく受けに回って勝ち切ることができたかなと思います」

及川「終盤に詰む、詰まないの局面に持ってこれなかったのは、残念だったな、というふうに思っております」

 昨年の朝日杯2回戦、藤井-増田戦は藤井大逆転での劇的な幕切れで、のちに名局賞特別賞を受賞しています。

 今年も2回戦でそのカードが再現されました。

 解説の中川大輔八段が2局目の抱負を増田七段に求めます。

中川「バーンとなんかすごいやつを。昨日のレセプションみたいにバーンとしたやつをお願いしますね。バーンとした景気のいいやつ、お願いします」(会場笑)

増田「そうですね。次は藤井さんと昨年に引き続き対戦となったんですけど。昨年はかなり惜しいところまでいったかなと思うんで。今年はぜひ勝ちたいなと思っています」(会場拍手)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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