さあ「禁煙」してみよう
前回の記事では、タバコをやめた喫煙者を4つの類型に分けて考えてみた。筆者もかつて20数年間、タバコを吸っていたが、ここ10年は禁煙が続いている。4つのタイプ分けで筆者は「なんとなくいつの間にか」やめられた幸運な部類に入るだろう。
禁煙者で多いのは、家族への思いや自分の健康問題など、何かきっかけがあってタバコをやめようと思って禁煙してもなかなか実行できず、再喫煙を繰り返しながら徐々にやめていく、という「慎重型」だろう。最初は自分で禁煙しようと思ったがダメ、次に禁煙本を読んでもダメ、最後に禁煙外来で治療してなんとかタバコをやめることができた、というような人たちだ。
※:記事の最後に禁煙支援機関のweb_リンク・リストがある。
禁煙はいつ始めても効果がある
もしあなたが喫煙者なら、一生このままタバコを吸い続けるつもりだろうか。何があっても死ぬまで吸い続ける、という人もいるだろう。
あるいは、病気になるまでやめるつもりはない、という人も多そうだ。確かに、タバコによって健康を害した喫煙者が禁煙する割合は高い(※1)。
いつかはやめようと考えているが、だがそれは今ではない、という人はどうだろう。
禁煙はいつ始めても喫煙者の健康に良い効果がある。いつやめても遅くはないが、喫煙歴が短いうちに早めにやめたほうがいいのは言うまでもない(※2)。英国での疫学調査では、35歳で禁煙すれば平均余命が約10年、40歳からで約9年、50歳からで約6年、60歳から禁煙しても約3年は寿命が伸びることがわかっている。
自分の健康や寿命について根拠のない自信を持つ喫煙者は多い。だが、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器系疾患、心血管疾患などの循環器系疾患といった喫煙に関連した病気にかかってしまってからでは遅いということはよく理解できると思う。
では、禁煙したいと思ったら、どうすればいいのだろうか。喫煙はタバコをやめられないニコチン中毒という病気だ。何度か躊躇しつつ禁煙外来を探そうと考えても、なかなか実行に移せない喫煙者も多い。
呼吸器内科医として禁煙外来で治療をしている村松弘康医師は、とにかく一歩踏み出すことが大事だと言う。
──禁煙治療、禁煙サポートを受けたいと思ったらどうすればいいのか。
村松「今では社会のいたるところに禁煙を支援する組織や施設があります。インターネットに接続できる環境にあれば、禁煙で検索してみてください。禁煙外来や禁煙サポート薬局など、たくさんの情報が出てくるはずです。地域の自治体に電話をかけてみてもいいでしょう。県の保健所、市町村といったすべての自治体には必ず健康相談の窓口があり、禁煙サポートをしている組織があるんです。まず、そうした情報発信元へ連絡し、自分なりの禁煙相談をしてみたらどうでしょうか」
──禁煙外来での治療はどうか。
村松「こうした禁煙サポート機関に相談すれば、お近くで禁煙外来治療ができる病院や診療所を教えてくれます。また、日本禁煙学会のHPにも禁煙治療で保険が使える医療機関のリストが掲載されていますし、禁煙補助薬を作っている製薬メーカーのHPにも同様のものがあります。ご自分のかかりつけ医などに聞けば近所の病院を教えてくれるでしょう。また、地元の薬局でも禁煙治療や禁煙外来について教えてくれるはずです」
禁煙外来の医師は、禁煙治療の経験がありさえすればよく、診療科は問われない。この「禁煙治療経験の有無」は自己申告制だが、日本禁煙学会の認定医資格などを取得する医師も多い。
施設内全禁煙などの施設設備の点などから禁煙治療ができない病院もあり、域内に一つの禁煙外来もない自治体もあるが、ほとんどの地域がカバーされているはずだ。また、厚生労働省は地域の薬局の機能を『健康サポート薬局』という一種の『かかりつけ薬局』にしようとしており、健康サポート薬局は禁煙支援もできることになっている。
禁煙外来での治療とは
──禁煙外来での治療は費用がかかるのではないか。
村松「禁煙外来での治療に保険(公的医療保険)が適用されているんです。一定の条件を満たした患者さんは、3割負担で保険診療が可能になります。処方される薬にもよるんですが、8〜12週間で13,000円〜20,000円くらいになります」
この値段が高いか安いかで言えば、診察代・処方箋料・薬代の合計は、3割負担なら1日約230円、ほぼタバコ半箱分だ。430円のタバコを1日1箱喫煙する人なら、8〜12週間分のタバコ代より保険診療で禁煙治療を受けた場合の自己負担額のほうが安くなる計算になる。自分がいかに多くの金額をタバコに費やしてきたか、実感することにもつながるだろう。
──治療には時間はかかるか。
村松「治療期間は、初診時から約2週間後、約4週間後、約8週間後、約12週間後というように、3ヶ月間にだいたい5回の通院になります。初診時にはいろいろ相談を承ったり、ご説明したりといったお話したりする時間がかかりますが、2週目以降は、体調チェックなどの診察、一酸化炭素量の測定、アドバイスや禁煙補助薬などの説明になります」
また、前回の治療の初回診察日から1年経過しなければ、保険は適用されない。途中でタバコを吸ってしまい、また禁煙外来で治療を受けたいと思っても、1年間は自由診療になってしまう。要注意だ。
手厚い禁煙サポート
一番下に掲載したリストは筆者がざっと検索してみた禁煙サポート機関だが、これだけではもちろんごく一部になる。行政や医師会、薬剤師会など、実に多くの人たちが喫煙者を少しでも減らそうと努力しているのだ。
医師法の第一条にはこうある「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」。タバコが健康に与える悪影響は、科学的にも実証されている事実だから、喫煙者に対して医師は禁煙を勧めるなど、適切なアドバイスをしなければならない。だが、それだけでこれほど多くの医師が喫煙の弊害に対して警鐘を鳴らすだろうか。
禁煙運動を製薬メーカーの陰謀だと言ったり、受動喫煙にはエビデンスがないなどとうそぶく人も未だに多い。だが、喫煙の害は日本だけではなく世界的に認められている事実だし、これほど多くの行政や医師、薬剤師らが禁煙支援に関与しているのをみても、タバコと喫煙が社会全体の問題になっていることがわかるだろう。タバコをやめるのは、いつでも遅くはない。
村松弘康(むらまつひろやす)
中央内科クリニック院長、武蔵野大学客員教授、東京慈恵会医科大学非常勤講師、医学博士。東京都医師会タバコ対策委員長。東京慈恵会医科大学卒業、同呼吸器内科入局、国立国際医療研究センター、同愛記念病院アレルギー科などに勤務。幼少期に病気をした体験から医師を志す。呼吸器内科医として、タバコにより人生を奪われた多くの患者さんやご家族の悲しみと接してきた経験から、現在は臨床医としてだけでなく、タバコの害の啓発や禁煙指導に力を入れている。著書に『ニコチン置換療法(NRT)を使った指導法:禁煙学:改訂3版』(2014年、南山堂)などがある。専門分野:喘息・アレルギー・COPD・禁煙指導・睡眠時無呼吸症候群。
※1:Dorothee Twardella, et al., "The diagnosis of a smoking-related disease is a prominent trigger for smoking cessation in a retrospective cohort study." Journal of Clinical Epidemiology, Vol.59, No.1, 2006
※2:Richard Doll, et al., "Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors." the BMJ, 328, 1519, 2004
※2017年6月29日現在、リンク切れしている場合もあり。