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NBAファイナル取材中のBose(スチャダラパー)が語るレブロン、カリーの魅力

杉浦大介スポーツライター

レブロンに興味を持った理由は?

ーーBoseさんはNBAファイナルの取材は今回が初めてでも、もう長年このリーグをファンとして見られて来ていますが、現役の中で好きな選手は?

Bose:やっぱりレブロン・ジェームスは好きですね。

ーー彼に興味を持ったきっかけは?

Bose:レブロンの学生時代が綴られた「モア・ザン・ア・ゲーム」ってドキュメンタリー映画が凄い大好きでね。ああいうフィルムをこれからも見たいし、あんなストーリーが見たいね。昔はNBAが出しているオフィシャルの選手紹介フィルムがあって、僕はそれも大好きだったんですよ。あれでけっこうNBAが好きになったかな。パトリック・ユーイング、アキーム・オラジュワンの物語とか、細かいエピソードを彼らの友人が話していたりとか。スポーツとしてだけではなく、周りの文化のようなものが入ってくると、断然好きになれる。だからレブロンもそれで余計に好きになったんですよ。

ーー日本ではマイケル・ジョーダンのあとはアレン・アイバーソン、コービー・ブライアントといったあたりが大人気になり、レブロンは人気面では少々落ちる印象もありますよね。プレースタイル的に共感が得られないのでしょうか。

Bose:なんだろうね、わかりやすさで言うと、アイバーソン、コービーはわかりやすかったのかな。でも長く見ているファンから言うと、レブロンはやはり圧倒的な存在感がある。こんな人が現れた!といった感じだった。彼にはもっと優勝回数を増やして、伝説になるような・・・・・・いや実際にはもう凄いんだけど、記録としても凄くなってもらいたいですね。

ーー今年のファイナルで不利の下馬評を覆し、故郷チームのキャブズを初優勝に導いてしまったら、本当に現役にして伝説になってしまいますね。

Bose:凄い伝説になるよね。すでにMVP何回も取っているし、オールスターずっと出てて、優勝回数も2回。十分と言って良いのかもしれない。ただ、あと2回くらい優勝したら・・・・・・みんなついマイケル・ジョーダンと比較してしまうけど、そういった単純な比較論を超えて、レブロンには一人の人として魅力がある気がする。温かさというか、地元を大事にするところとか。キャブズに戻ってきたのを見て、やっぱりレブロンって良い奴なんだなって。去年の復帰発表時の手記なんかも見て、感動しちゃって、泣けましたよ。

ーー復帰時のメッセージは映画「モア・ザン・ア・ゲーム」のテーマに通ずるものがありましたね。個人的にもレブロンはルーツを大事にするイメージがあります。

Bose:発言とか、行動とかも、凄いダイレクト。やっぱり僕はラップ好きからNBAに入っていったんで、ラッパーと似たように、哲学的な主張があったりとかすると惹きつけられる。例えば黒人の人が殺された事件の時、「I can’t breath(注)」のシャツをレブロンがすぐ着ていたりとかね。ああいうのは日本ではなかなかメディアに紹介されないんだけど、僕はそういうのをいち早く見て、「さすが!」と思ってしまう。 

(注:2014年7月、黒人男性がニューヨークの警察官に絞め殺された事件で警察官が不起訴になったのを受け、12月のゲーム時にレブロンを始めとするキャブズ選手たちが「I can’t breath(息ができない)」と書かれたシャツを着てゲーム前のウォームアップを行った。「I can’t breath」は亡くなった男性が最後に残した言葉だった)

コートサイドで熱心にキャブズの練習を見るBose(背番号6)
コートサイドで熱心にキャブズの練習を見るBose(背番号6)

カリーの時代が来るのか

ーーレブロンは現在を代表する黒人アスリートとして、自覚を持って行動している印象もあります。モハメド・アリの逝去直後にも感情のこもったスピーチをしていました。

Bose:僕は黒人文化としてのラップが好きだったりするから、ルーツをちゃんとわかっているNBA選手は多いなと感じるし、そこは魅力になります。逆にそういうのが何もないと、この人は何もない人なのかなとつい思ってしまう。

ーーレブロンに対する想いは伝わってきます。そして、現在のNBAで最もホットな選手というと、今回のファイナルで対戦しているウォリアーズのステフィン・カリーだと思います。これまで数え切れない選手を見てきたBoseさんから見て、カリーとはどんな存在?また新しいスター像を築いている感じもしますが。

Bose:マイケル・ジョーダンをイメージしてみんなコービーを見ていて、そしてコービーを大きくしたらレブロン・ジェームスになる。そういったみんなの想像上の系譜を、カリーは完全に裏切った。こういうタイプの選手がスターになり、No.1になるというのは、去年はみんな信じられなかったと思うんですよ。でもやはり無理でしょう、といった目で見ていたのに、それを覆して優勝してしまった。レブロンが時代を変えたように、また時代を変えていますね。

ーー過去数年のカリーの躍進は誰も予想できなかったという意味で衝撃的でした。

Bose:すべてがカリーの出現によるものかはわからないけど、NBAはだんだんスリーポイントシュートが主体のリーグになっていっている。そんな風に流れを変えてしまったという意味で、カリーは凄いなあと思います。子供たちから見たら、今はたぶんカリーになりたいってみんな思うだろうし。またコービーみたいな選手が出てくるのかと思っていたら、違う選手が現れた。それは凄いことだなと思います。

ーー確かにこれからは時代の方がカリーを追いかけそうですよね。

Bose:そう、これからはあれが主流、真ん中になるというか。本当のスターというのはみんなの想像を完全に超えてくるんだな、と彼を見ていて思いますね。

NBAがより楽しくなる見方

ーー最後になりますが、レブロン、カリーといった凄い選手たちがしのぎを削るファイナルを現地で観ているBoseさんから、日本のファンに、ゲームを見る上でのメッセージがあれば。NBAをこういった風に見ればもっと楽しめる、といった言葉があればお願いします。

Bose:さっきも言ったように、バックグラウンドとか、その人が持っている哲学、思想、あるいは生い立ちだとか、そういったものを込みで見る方が僕は好きなんですよ。お母さんに育てられて頑張った子なんだとか、そういうドラマがある方が。自分が歳をとったせいもあるんだろうけどね。下手したらNBA選手は子供に見えてるみたいなところもあって(笑)。だからスパイク・リーが作った「ラストゲーム」とか、有名な「フープドリームス」というドキュメンタリーとか、ああいうのに代表されるドラマも込みでNBAを好きになってほしいなと思います。

ーーただプレーを見るのももちろん楽しいけど、バックグラウンドを知ればもっと楽しくなるよということですね。

Bose:そうそう、深く知っていくと、全然違うものに見えてくる。日本では何でもそうなんだけど、ファッションだったらファッションとしか紹介されない。作った人や、どういう状況で作られたものかがわかった方が、より印象深くなる。それがないと長続きがしないですよ。バスケットボールでも、このチームはスモールマーケットに本拠地を置いているから地元でこれだけ盛り上がっているんだとか。そういうのがわかった瞬間にもっと面白くなる。

ーー確かに今年のファイナル関連でも、優勝経験のないクリーブランドにあえて戻ったレブロンのドラマの意味もどれだけ伝わっているのかなと少し思いますね。

Bose:だから僕いつも冗談みたいに例えるんですよ。クリーブランドにおけるレブロンは、今がピークのテニスの錦織圭選手が、(故郷の)島根に戻って、そこでしかプレーしないとか言っているような状態なんだよと(笑)。日本ではクリーブランドがどこか、どんな街かって想像つかないですもんね。マイアミであれだけ成功して、そのまま現役を終えても良いのに、わざわざ田舎に戻るっていうのは凄いことなんだよってみんなに説明しているんですよ。

ーーそうやって説明すると、皆さんどう反応されますか?(笑)

Bose:“え、そうなんだ、なるほど!”って(笑)。ちょっと分かりやすいって。そういった背景を知ると、NBAを見るのもさらに面白くなりますもんね。

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■6/6(金)午前8:45~現地会場より生中継/WOWOWライブ

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現地ゲスト:Bose(スチャダラパー)、解説:佐々木クリス

東京ゲスト:持田香織(Every Little Thing) ほか

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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