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日本初の世界ウェルター級王者を目指す佐々木尽 井上尚弥のアンダー登場で強打炸裂か

杉浦大介スポーツライター
元世界王者レジス・プログレイス(左)と対面した佐々木尽 提供・八王子中屋ジム

 日本人史上初の世界ウェルター級王者へーーー。群雄割拠の階級に殴り込みをかけようという日本人スター候補が新たな一歩を踏み出す。23歳の倒し屋、佐々木尽(八王子中屋)がまもなく保持するOPBF東洋太平洋、WBOアジアパシフィックウェルター級王座の防衛戦に臨むのだ。

 パワー、スピード、バネをすべて備えた大器は19歳で日本スーパーライト級ユース王座に就任。昨年1月にWBOアジアパシフィック王座、今年5月にOPBF王座も奪い、今では世界主要4団体でランキング入りを果たしている。近未来の世界挑戦ももう視界に入っているはずだ。

 次戦は9月3日、井上尚弥対TJ・ドヘニーのアンダーカードで豪州のベテラン、カミル・バラと対戦する。この重要な一戦を前に、順調な調整を続ける佐々木にゆっくりと今の思いを語ってもらった。

9月3日 東京・有明アリーナ

OPBF東洋太平洋、WBOアジアパシフィックウェルター級タイトル戦

王者

佐々木尽(八王子中屋/23歳/17-1-1, 16KOs)

12回戦

カミル・バラ(豪州/35歳/15-1-1, 8KOs) 

 以下、佐々木尽の1人語り

 自慢の強打で”マッチョ”の挑戦者をKOできるか

 井上尚弥さんがメインの興行のアンダーカードに僕が登場するのは今回が初めてですが、本当に嬉しいですね。そういうでっかい舞台でやるっていうのが最高ですし、ファンを盛り上げたいです。今回は井上選手の防衛戦を先頭にぜんぶいいカードじゃないですか。その中でも興行が終わった後、“佐々木尽が一番だったな”ってファンの方に思わせるような試合をするのが目標です。

 対戦相手のバラを一言で形容すると“フィジカルモンスター”。身体が強く、パワーがあり、キャリアがある選手です。いろいろ試合は見ていますが、飛び込んでのアッパー、フックとか、いきなりくるパンチが危ないとは思います。スイッチしてその瞬間に打ってくるので、気を付けなければいけないですね。

 バラはこれまでKO負けはないですし、ジョージ・カンボソス Jr.戦(2017年5月に10回判定負け)の10回に取られたダウンも効いていたわけではありません。だから打たれ強いんでしょうし、そんな相手を高く評価し、気を引き締めて練習していますよ。もちろん絶対に勝てるという自信はありますが、相手にも怖さはありますし、どんな形で出てきてもいいように準備はしています。

 自分の理想は初回KOです。何もさせずにすぐKO。判定勝負はあり得ません。KOにはこだわりたいですし、それしか見てないですね。あと今回はパンチをもらわないこともすごく意識してスパーリングでもやってきたんで、打たれずにパンチを当てるというイメージで試合に臨みます。

昨年4月、実績豊富な小原佳太(三迫)戦での3回KO勝ちのインパクトは大きかった Photo By Top Rank/Naoki Fukuda
昨年4月、実績豊富な小原佳太(三迫)戦での3回KO勝ちのインパクトは大きかった Photo By Top Rank/Naoki Fukuda

 そんなシナリオ通りに戦うために、トレーナーからボディ攻めが有効になると言われています。相手は“マッチョ”なんですけど、そういう選手って意外にボディが弱いんですよね。ボディを打っておけば上のガードが開くし、後半までもつれたとしてもより戦い易くなります。

 もう一つ、鍵になるのは僕のスピードです。いつもはパワーで圧倒する感じなんですけど、今回はスピードで上回りたいです。最近はパンチのスピードに自信を持つようになっているので、そこも見て貰いたいと思っています。

SNSでの厳しい指摘も「ありがたい」

 僕は日本人初の世界ウェルター級王者を目指しています。実際はウェルター級にこだわりがあったわけではないんですが、自身の適正階級が“日本人が誰も世界王者になったことがないクラス”というのは美味しいなと(笑)。だからその方向で売り出していこうっていう感じになったんです。

 リングマガジンの階級ランキングでも9位に入ったということですが、「あ、入っているな」というくらい。階級最高の10人の中に入ったということなんでしょうけど、正直、僕は9位でも全然低いくらいだと思っています。世界王者が4人いますが、彼らにも普通に勝てると思っているし、その自信もあります。

 WBC王者マリオ・バリオス、WBO王者ブライアン・ノーマンには勝てる確率が高いなと感じていますし、WBA王者エイマンタス・スタニョーニスまで含めた3人は初回KOできるイメージがあります。IBF王者ジャロン・エニスはレベルが高いのはわかっているし、絶対に勝てるとは言い切れないですけど、勝てるかもしれないという感じ。早く世界戦を組んでくれとは言わないですけど、チャンスが来たらやりたいですね。

前戦後、八王子市長を表敬訪問した 提供・八王子中屋ジム
前戦後、八王子市長を表敬訪問した 提供・八王子中屋ジム

 もともとマイク・タイソンが好きだったというのもあって、ボクシングに入った頃はヘビー級でやりたいと思っていたんです。大きい階級で大きい選手を倒すのが格好いいという価値観ですね。だから日本人の歴史が少ないウェルター級は最高だし、こういう階級で戦える自分が幸せです。

 もちろんSNSでは「ウェルター級で世界なんて無理」とか言われたりしますが、それも嬉しいですよ。 プロ選手として一番良くないのは注目されないこと。自分のことを書く時間を作り、気にしてくれているっていうのはありがたいことです。だから批判的なことを書かれても、ムカつくとか思ったことはないです。

 以前、減量失敗したときに「ボクシングやめろ」とか「生きている価値ない」とか言われたのはやはり残念で、嫌な気持ちにはなりましたが、ウェルター級での世界挑戦に関しては何を言われてもありがたいです。

 そうやって言われていた方が、世界を取った時にすごいことに思えるじゃないですか。「どうせ取れる」くらいの感覚で見られたらやりがいがなくなるし、こっちも困るんで(笑)。だからファンの方には「どうせ無理だ」と言い続けて欲しいくらいです。

左拳のケガもすでに回復

 実は前回の試合の後、アメリカに行ってスパーリングをする計画があったんです。バージル・オルティスJr.のスパーリングパートナーになる可能性もあったみたいですが、左拳を痛め、渡米自体が中止になってしまいました。

 たぶん約10ヶ月ぶりの試合だった5月のジョー・ノイナイ戦の途中に拳を痛め、気づいたのは試合後。骨折とかではないんですけど、どこかの靭帯が炎症していたという神経系の痛みですね。練習再開した後、思い切り打った際にズキンと痛みがあったので、その後、2ヶ月くらいは練習もしつつ、病院通いで回復に務めていました。

 前回は左肩のケガでしばらく休養し、今回は左の拳の負傷。残念でしたけど、今ではもう大丈夫だと思えるところまで回復しましたし、それに左が使えない時間があったおかげで右パンチのバリエーションが増えたんですよ。これまでの自分は左フック一辺倒のところがありましたが、ここで右が加わり、幅が広がったという感じはします。

 ケガでブランクが長かった間に、ボクシングの知識もレベルアップしました。テレンス・クロフォード、エニスの試合をよく見たし、井上尚弥選手の映像も見ました。ディフェンスもこれまで以上に意識するようになり、スパーリング再開後は明らかに被弾数が減っています。ボディワーク、ガード、ポジショニングを考えながらやるようになったので、今度の試合ではディフェンスの向上も見てほしいです。

 とはいえ、自分の攻撃性はやっぱり崩したくないという気持ちもあります。派手な倒し方ができるというのが僕の一番の持ち味。そこは変わりません。攻撃の中にディフェンスがあるというイメージで、進化した佐々木尽をお見せしますよ。

 前戦のノイナイ戦は5回KO勝ちを飾ったとはいえ、満足いく内容ではありませんでした。力が入っていましたし、変な緊張感があって全然身体が動かなかったんです。「また試合ができるんだ」とこれまでで一番幸福だったんですけど、同時に過去最高に緊張したかもしれません。久々だったのと、世界ランクに入ったのでプレッシャーがあったのでしょう。

 ただ、今回は違います。試合が本当に楽しみで、「これがいつもの佐々木尽だな」と思える気持ちの持っていき方になっています。スパーリングでは堀池空希選手(横浜光)というすごく強い選手とも対峙し、おかげで満足のいく調整ができています。練習以外の時間では映画「キングダム」「鬼滅の刃」とかを見て、そういったところからも刺激をもらっています。

 バラ戦で世界に向けてアピールするためには、圧倒的な形で危なげなく勝つ必要があるのでしょう。打たせずに打って、派手に倒す。どこかで映像とかが拡散されるようなKO勝ちをしたいですね。

 うまくやろうと考えすぎると空回りしちゃうもので、楽しむという感覚でいきたいです。それができれば結果、内容はついてくるし、今までで一番いいパフォーマンスができるんじゃないかなと自分で自分に期待しています。

 あとは今回の試合はアメリカでも配信されるので、勝利後は英語でも挨拶ができればインパクトは大きいんでしょうね。ボクシングファンの方には、僕の英語力まで含めて楽しみにしておいて貰いたいです(笑)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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