「恵方巻きやバレンタインの売れ残りに税金8000億円近く投入」食品企業社員すら気づいていない真実とは
2019年2月上旬、株式会社日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長を訪問した。製造工場で途中まで作られたけれども出荷されなかった食品や、スーパー・百貨店で売れ残った食品などが、ここに運ばれてくる。とはいえ、ほとんどは自治体で焼却処分されているので、ここに運ぶのは、ほんの一部、意識の高い事業者だけだ。
テレビやインターネットで多くの人が目にしている恵方巻き廃棄の写真の多くは、日本フードエコロジーセンターで撮影されたもの、もしくは提供されたものではないかと思う。毎年、節分前後には、多くのメディアが高橋さんのところに殺到するからだ。
だが、殺到するものの、報じるマスメディアは、売れ残り食品の処理に我々の税金が1兆円近く投入されている現実まで、充分に伝えきれていない部分が多いと感じる。
コンビニ・スーパー・百貨店・飲食店の食品ごみは事業系一般廃棄物 事業者も払うが市区町村の税金も投入される
高橋巧一社長(以下、高橋):実際には1日35トンぐらいの食品廃棄物が、毎日入ってくるという形なんです。かなりフルになりそうだったんで、自治体の方と交渉して、(処理できる量の規定を)10トン増やしたという形なんです。
ーその自治体の規定があるんですね。
高橋:そうです。
ー 一般(廃棄物)と産業廃棄物の割合はどうなんでしょうか?
高橋:現状に即した形で、どちらかというと、大体こんな割合かなということで受け入れているのが、うちの場合は食品工場由来のものが多いので・・・。
一般というのは、これも普通は皆さんご存じではないんですけれども、食品メーカーのものだけが産業廃棄物で、それ以外のものは全部、一般廃棄物なんです。
ですから、スーパーとか、百貨店とか、ホテルとか、レストランとか、こういったものは全部、一般廃棄物に分類されるんです。
筆者注:事業者も廃棄コストを払うが、我々が納める市区町村の税金も使われて処理されている、という意味
量は、(製造)工場のほうが1カ所で1日に1トンとか、2トンとかどかんと出てくるので個数は少ないんですけれども、量は圧倒的に工場が多いと。
ただ、事業系の一般廃棄物の場合は、1つのスーパーとか、1つのお店からは30キロとか、50キロぐらいしか出ないんですけれども、個数がいっぱい10店舗とか、20店舗とかありますんで、数は多いけれども、量は少ないという形なんです。
廃棄物処理法の中では、事業系の一般廃棄物と産業廃棄物は一緒に処理してはいけないんです。法律で規定があって、これは全く別物だと。要するに、大手コンビニで売っている大手食品メーカーの菓子パンと、大手食品メーカーの工場で作っている菓子パンは、全く同じものでも、同じところに入れてはいけないんです。
ー不思議ですね。
年間のごみ処理費2兆円のうちの40%は食べ物ごみと推測され税金を使って処理されている
高橋:われわれの税金もいつまでたっても・・・
ー減らない、と。
高橋:減らないと。廃棄物の問題も、豚肉の流通の問題とか、いろんな農業の問題とかは結局、みんないろいろ既得権を壊して流通改革をしてとか、法律を変えてとか、そういったことをやっていかないと、実際にはこの問題はなかなか突破できない。
私も取り組み始めて20年たちますけれども、20年前からやってきて、やっと現状になってきたと。その当時からすると、ものすごい大きな進化をしているし。食品ロスというのが井出さんのおかげもあって非常にムーブメント的にもなっていますけれども、われわれからすると、ただこれをブームで終わらせないために現場レベルの仕組みを変えたり、技術を変えたり、法律を変えたりとかいうのをやっていかないと難しいのかなということで、動いているというのが現状なんです。
消費者が食べ物ごみの廃棄費用を払っているのを消費者も食品企業社員も気づいていない
ー全部つながっている・・・。元メーカーからすると、小売(コンビニ・スーパー・百貨店)の、いろんなルールがあるじゃないですか。彼らを変えないと、と見ていた社員もいるけれども、(会社の)外に出てみると、彼ら(小売)は「お客に迷惑を掛かるから欠品しません」と言うじゃないですか。
高橋:そうですね。
ーということは、消費者も変えなきゃいけないということで、消費者がコストを負担して、お金を余分に払っているんだというところを言わないといけないかなと思って。
高橋:そのとおりです。だから、消費者教育もすごく重要だと、これは私も井出さんも認識しているところだと思うんですけれども、どこか1カ所がやっても駄目なんですよね。
ーそうですね。
高橋:メーカー、流通、消費者、行政を含めて、全部、「いっせいのせ!」で、ベクトル合わせをしていかないと、なかなか変わらないんです。そこがやっぱり難しいところかなと思いますけれども、そこをやっていくしかないのかなと思っています。
ー消費者が、自分たちがコストを余分に払っているという意識がなくて、2つ払っている。1つは食料品価格(として)ですよね。企業が赤字を出さないで続けていくのに、そこに廃棄コストがそもそも入っている。捨てる前提で売っている。メーカーも欠品すると、取引が続けられないからというのがあって、そういう多すぎる仕組みになっちゃっている。
もう一つは、この前、高橋さんから教えていただいた、ごみ処理費ですよね。でも、京都市は2000年から半分近く減らしているので、半分まではいけるんじゃないかなと思っていて、2兆円の中の半分近くが生ごみ。環境省の平成28年の最新のデータだと、70パーセントが生活系というふうに書いてあったんです。
高橋:そうですか。これですか。これが多分、最新ですよね。
ーそうですね。生活系ごみが7割というふうに書いてあって。食べ物はすごく重いので。
高橋:ざくっとこれでも年間1兆9,600億とごみ処理費がかかっているんで、このうちの建設費とか、処理・メンテナンスもありますけれども、実際は2兆円近くかかっているということは正しいと思うんで。これは結局、焼却炉を造ったりとか、メンテナンスのお金と、実際に焼却炉処理しているお金を全部合わせてということなんですよね。
ーはい。
税金8,000億円を使ってコンビニ売れ残りや飲食店食べ残しなどの食べ物ごみを廃棄していることを一般国民がほとんど知らない
高橋:そうやって考えると、この前も言ったように、焼却炉で燃やされているうちの京都市で40%、一般に4~5割の間ぐらいが生ごみというふうに書いてある。これは、事業系も生活(家庭)系も合わせても、大体それぐらいというのは変わらないんです。
そうすると、少なく見積もっても、2兆円の4割はわれわれの税金を使って廃棄されてしまっているというのはうそではないと思うんです。
それを一般国民がほとんど知らないというところが私は問題だと思うんです。
要するに、インターネットでも、テレビでも、恵方巻きの衝撃的な映像だけは流れてもったいないねと言って、もったいないねと言うことだけで、みんなテレビの報道も終わってしまっているんで、実は、それは自分たちの税金がそれを処理するために回されているんだと。
むしろ、うちに出しているような事業者というのは、意識が高いからリサイクルをしようとなっている。ただ、これはごく一部で、日本中を見ると、ほとんどが焼却炉で燃やされていて、それもわれわれの税金の8,000億ぐらいが使われているんだということを一般の消費者の人たちに知ってもらって、自分事として捉えていただくということをしていかないと、なかなか変わらないのかなという気がします。
ーそうですよね。どういうふうにしたらいいかなという。恵方巻きにしても、クリスマスケーキにしても、自分たちがコストを負担している。結局、まだ他人事になっている。
高橋:そうです。結局、まだ他人事なんです。
2019年2月に持ち込まれる米飯は増えていた
ー多分、1月も恵方巻きの材料であろうものが入ってきているかなと思うんですけれども、全部いろいろ一緒くただと思うんですけれども、米飯なんかの動きはどうですか。
高橋:多少増えていますけれども。
ー多少増えている?
高橋:でも、今の時点(2月1日)で、2月2日、3日は2回転しますと、担当会社はうちに言ってきているんで。
ー2回転。じゃあ、いつもは1回転で。
高橋:1回転のところが2回転、来ると言っているんで、それは明らかに恵方巻きだな。容器が足りないから貸してとか言いに来ているんです。
ーそうですか。じゃあ、2018年と変わっていないのかな。
高橋:変わっていないと思いますよ。変わっていないというのは、1つはもちろんメーカーもこれだけメディアで騒いでいますから、発生抑制はしていると思うんですよ。ただ、私が思っているのは、それ以上に恵方巻きが売れているんじゃないかなと思うんです。売り上げが、大手コンビニはどこも、恵方巻きは伸びていますよ。
ー全体の市場の棒グラフだと、確かにこういうふう(右肩上がり)になって。
高橋:結局、伸びると、どうしてもロス率というのはある程度出ますので、発生抑制をかけたとしても、売り上げが伸びていればロスも出ますので、うちに来る量というのは減らないのかなという気がします。
ーミツカンさんの恵方巻きのデータだと、摂食率が下がっていると。特に20代で下がっている、というのがあったんですけれども、(2月の)2日、3日は(処理される食べ物が入ってくる量は)多いんですね。4日とかはまだ分からないんですね。
高橋:本当にこれは出たとこ勝負なんです。
ー出たとこ勝負。
2005年から工場1日も稼働が止まったことがない
高橋:これは廃棄物処理法ができた背景がいろいろあって、産業廃棄物と一般廃棄物を分けなきゃいけないということがありますんで、そうなっていると。
うちは昼間だけなんですけれども、365日、土日も、お正月も休みなく動かしています。2005年からこの工場は始まっていますので、もう14年ぐらいやっているんですけれども、1日も止まったことがない。
ーすごいですね!震災を経ても?
高橋:震災のときも1日も休まずです、あのときは、計画停電みたいのがありましたんで。
ーありましたね。
高橋:時間差があって、8時〜(夕方)5時という感じではなかったんですけれども、例えば午後から動かして8時までやるとか、そういう形の対応をしながら1日も止まったことがない。
社員は一人2役3役のプロフェッショナル
高橋:大きなプラントメーカーの機械だとか、そういったものというのは大体みんな1カ月止まったりとか、トラブルで、メンテナンスでとか、いろいろ止まっちゃうんですけれども、うちは非常にシンプルな機械を使っていますので、故障しても全部、自分たちの手で直すというやり方でやっているんです。
ですから、経理をやっている方は、溶接のプロなんです。普段は経理をやっていて、機械が故障したら下に下りていって溶接をやるとか。
ーすごい効率的な働き方ですね。
高橋:普段、作業している方も、もともとプラントメーカーの副工場長がいたり、元学校の先生がいたり、元駅長さんがいたり、そういう方でみんなスタッフを固めているんで、1人2役、3役、皆さんできる、という人たちなんです。ですから、基本的には絶対に工場は止めないということでやっている。多分、普通の大きなプラントでやっていることと、ちょっと違うのかな、という形です。
取材を終えて
何年も前から一緒にメディア出演するなどしてお互いに知り合いだった高橋社長のところへ、初めて改めてお伺いし、話を伺った。今回ご紹介した以外にも密度の濃い内容があるので、別の機会にご紹介したい。
メーカーは小売との取引が停止されないよう欠品しない。小売は消費者にそっぽを向かれないよう欠品しない。では消費者は?大量の恵方巻き廃棄を他人事のように「まだバカなことをやってるのか」とつぶやく人たち。いえいえ、あなたがそのコスト払っていますよ。
2019年2月、食品関係企業に30年以上勤めている方に、事業系廃棄物に税金が使われていることを話したところ、産業廃棄物だと思い込んでいた、とのことだった。筆者もそうだったし、食品関係の仕事に就いている人すら、この事実を知らないのだ。ましてや一般の人たちはほとんどが知らないだろう。
2月14日のバレンタインデーで扱われる食品のうち、日持ちのしない生クリームやケーキなどは、売れ残れば廃棄されると推察される。
先日、筆者の公式サイトの業務申し込みフォーム宛に次のような趣旨が届いた。
「自分は恵方巻きを購入しないが、節分で恵方巻きを楽しみにしている人もたくさんいるはず。それを、廃棄処理される食品画像を掲載するのは不快。文化を楽しむ人に失礼なことをするものだとあきれる。モラルが欠けている」
「仕事の申し込み以外はお断り」と書いてある同意フォームに同意しておきながら苦情を書き込むあなたのモラルは・・・?
全国メディアも節分前から恵方巻き廃棄の映像や画像はどんどん流している。
高橋さんが、毎年殺到するテレビや新聞などのマスメディア各社に、恵方巻き大量廃棄の写真を提供し、取材のたびに税金のことを強調しているのはなぜなのか?
食べ物の大量廃棄は「もったいない」の他人事では済まない、私たちが毎日、食べ物を捨てるためのお金を負担している「自分ごと」なのだと、一人でも多くの人に気づいてもらい、食べられるのに捨てられる食べ物が少しでも減って欲しいと願っているからだ。
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