ローランドTR-808クローンにおける商標権回避策について
「ベリンガーによる808クローンの予約が海外でスタート。お値段299ユーロ!」という記事を読みました。
説明するまでもないと思いますが、808とは、ローランド株式会社が1980年に発売したアナログ方式のドラムマシンTR-808のことです。TR-808は、その独自のサウンドが人気を得て様々な音楽ジャンルで使用されています(最近ですと「PPAP」におけるカウベルのサウンドが有名です)。とっくの昔に製造終了になっていますが、ローランド自身によるものも含めて、多くの類似機器(クローン)が販売されています。上記記事で紹介されるRD-8はアナログでありつつ、価格がめちゃくちゃ安いのが気になるところです。
上記記事によれば、元々予定されていた名称はRD-808であったところ商標権の考慮からRD-8になったようです。「808」は商標登録されていませんが、当然ながら「TR-808」はローランドにより商標登録出願されていますので、万一にでも類似を問われることを避けたかったのだと思われます。なお、TR-808の正式名称はRhythm Composer TR-808なのですが、ベリンガーはRhythm Designerとして名前のかぶりを避けています。
商標権という観点から言うともう一つ興味深い点があります。RD-8(タイトル画像)と本物のTR-808の写真(下記)を比べて見るとわかりますが、横16個のボタンが赤、オレンジ、黄色、白が4個ずつなのは共通ですが、順番が逆です。
実は、TR-808のボタンの色配列は、ローランドにより商標登録および出願されています。1件(下図左)は登録済でもう1件(下図右)は昨年の12月に出願され、まだ審査中です(早期審査請求がされましたが特許庁により早期審査対象外とされています)。同様の商標はドイツ等でも出願済です。
いずれも、立体商標ではないので、実際に権利行使された時に、機器のデザインにまで権利が及ぶのかは微妙なところですが、一定の抑止力はあるということかと思います。一方順番を逆にするというベリンガーの回避策は、反対方向から見れば同じになってしまうのでどれくらい意味があるかは何とも言えません。
ちなみに、同じくローランドのアナログ時代の名器、TR-909やTB-303も同様に筐体デザインをベースにした商標登録出願がされています(下図参照)。いずれもまだ審査中です。これらの機器も他社による数々のクローンマシンが出ていますので、ローランドとしては名称やデザインのフリーライドを防ぐために商標権を押さえておくことは当然と言えるでしょう。