ホンダが国内2輪レースも体制発表。とはいえ、夏の鈴鹿8耐のラインナップはいまだ未知数。
1月11日(金)にホンダは東京オートサロンの会場で2019年のモータースポーツ活動の体制を発表した。主に4輪・自動車が中心のイベントだが、近年のホンダは東京オートサロンで2輪車も展示し、この場で2輪・4輪共に主要モータースポーツの参戦体制を発表している。
今年も国内ホンダワークスは1台体制
プレスリリースとプレスカンファレンスで発表された2019年のラインナップを見て行くと、今季も国内で最大のプライオリティを置くのは全日本ロードレース選手権JSB1000クラスに参戦するファクトリー(=ワークス)チームの「Team HRC」だ。
昨年、10年ぶりに同選手権と夏の鈴鹿8耐に2017年王者の高橋巧(たかはし・たくみ)を起用して復活したファクトリーチームだが、ライバルとなるヤマハ、カワサキ、スズキ(ヨシムラ)がトップチームを2台体制にしているのに対し、ホンダは1台体制。昨年はヤマハの中須賀克行(なかすが・かつゆき)、野左根航汰(のざね・こうた)が1-2フィニッシュを3度も決めるシーズンとなり、ホンダも2台体制を敷いてくるかと思われた。しかしながら、ファクトリーチーム「Team HRC」は高橋巧の1台体制のまま据え置きとなった。
チャンピオンゼッケン1番はヤマハの中須賀が着けるため、今季の高橋巧はゼッケン13番を着ける。高橋巧(Team HRC)は昨シーズン、序盤から怪我の影響やトラブルなどに悩まされ勝利になかなか恵まれなかったが、最終戦の鈴鹿でようやく優勝。シーズンを通じてホンダCBR1000RRWが着実に進化を遂げたことは証明できた。今季は開幕戦から勝利し、チャンピオン奪還を狙う。
プライベーター有力はモリワキとテルル
全日本JSB1000のファクトリーチームは1台だが、ホンダの発表ではホンダCBR1000RR SP2を走らせるプライベートチームの体制も紹介された。リリースの表記順列で行くと最上位に記されているのが「KYB MORIWAKI RACING」の高橋裕紀(たかはし・ゆうき)。これまで清成龍一(きよなり・りゅういち)との2台体制を敷いてきたモリワキだが、今季は清成がスーパーバイク世界選手権に参戦するため、1台体制となる。タイヤはピレリを継続使用すると考えらる。
また、2番目に表記されているのは「テルルMotoUP Racing Team」でこちらは秋吉耕佑(あきよし・こうすけ)とルーキーの羽田大河(はだ・たいが)の2台体制。昨年、新体制に移行してタイヤもブリヂストンをチョイスしたが、秋吉はキットバイク(市販レース用モデル)を使用してランキング9位。各メーカーのファクトリーマシンと優勝争いをするのは厳しい状況だった。タイヤに関してはファクトリーと同じブリヂストンを履くということで、今季のパッケージと戦闘力が注目だ。また、羽田大河は昨年までロードレース・アジア選手権を主戦場としていたライダーで、大抜擢の起用と言える。
そして、2017年のチャンピオンチーム「MuSASHi RT HARC PRO.Honda」はJSB1000に参戦2年目となる水野涼(みずの・りょう)を継続起用する。同チームは昨年も鈴鹿8耐で第2のファクトリーチーム的なポジションを担っていただけに今季も有力チームとしてのポジションは間違いない。あとは全日本のエース、水野がどこまでJSB1000に順応し、ベテランやファクトリーチームに迫れるか、いわば勝負の年となる。
そして、「Honda Dream RT 桜井ホンダ」は濱原颯道(はまはら・そうどう)を、「Team ATJ」にはベテランの関口太郎(せきぐち・たろう)が起用されることが明らかになった。
夏の鈴鹿8耐は一体誰が?
この発表に意外にも名前が無かったのが、昨年のJ-GP2クラス(600cc)のチャンピオン、岩戸亮介(いわと・りょうすけ)である。彼はまだ21歳の若手ライダーで、ホンダの名選手を育ててきた「チーム高武」の出身。さらに夏の鈴鹿8耐には「Team SuP Dream Honda」から参戦し、1000ccバイクを乗りこなしていたため、そのままホンダ系チームからのJSB1000にステップアップすると見られていた。しかし、ホンダの発表の翌週、カワサキが岩戸の「Kawasaki Team GREEN」加入を発表。岩戸は期待の若手としてライバル陣営の戦力となることが明らかになったのだ。
真冬の1月に夏の話をしてもあまり実感が湧かないが、岩戸のカワサキ移籍で気になるのはホンダ系チームの鈴鹿8耐(7月28日決勝)のラインナップである。岩戸の移籍に加えて、今季はホンダ陣営に昨年とは異なる状況が他にもある。
先述のようにスーパーバイク世界選手権に清成龍一がモリワキとアルティアレーシングのコラボレーションチーム「Moriwaki Althea Honda Racing」から参戦。体制発表のプレスリリースでは清成の名前に星マークが付いており、これはHRC(ワークス/ファクトリー)との契約を意味する。当然、清成は鈴鹿8耐でホンダのファクトリーマシンに乗る一人と考えられるが、「Team HRC」からの参戦なのか、それとも昨年同様「モリワキ」からの参戦なのか、注目すべきポイントであろう。スーパーバイク世界選手権はピレリのタイヤを使用するレースであるから、鈴鹿8耐でピレリを使用すると考えられる「モリワキ」からの出場が自然な流れと言えるだろうか。
実は今年の鈴鹿8耐では7月のテスト走行が著しく制限される。レースウィーク以外の公式テストは3日間のみで、毎年恒例となっていたメーカーやタイヤメーカーによる貸し切り枠での走行が禁止される。また鈴鹿サーキットの一般走行枠を使った場合についてもMotoGP(ロードレース世界選手権)、スーパーバイク世界選手権(SBK)、FIM世界耐久選手権(EWC)、英国スーパーバイク選手権(BSB)の年間参戦ライダー、全日本JSB1000の上位15名は7月の間、走行禁止となる。すなわち、各選手権のトップライダーを起用することになるファクトリー系チームは実質3日間の公式テストで全ての方向性を決めてしまわないといけないことになるわけだ。
このテスト制限は各メーカーのラインナップ決定を大いに悩ませることになるだろう。ヤマハは実績を考えれば、中須賀、マイケル・ファンデルマーク(SBK)、アレックス・ロウズ(SBK)の優勝トリオで行くのが最も自然。カワサキも昨年の実績を鑑みればジョナサン・レイ(SBK)、レオン・ハスラム(SBK)の2人が参戦する可能性は高い。一方のホンダは昨年ファクトリーチームに起用予定だったレオン・キャミアが怪我で欠場となり、直前にラインナップが変更。方向性が定まらぬまま本番となってしまった。それだけに、今年のテスト制限でラインナップ構築に最も頭を悩ませるのはホンダかもしれない。
一方でホンダにはMotoGPライダーの起用という選択肢がある。2017年は現役MotoGPライダーのジャック・ミラー、2018年は中上貴晶(なかがみ・たかあき)を鈴鹿8耐で起用した実績があり、今季のファクトリーチーム「Team HRC」にもまた現役MotoGPライダーが起用されるかもしれない。ただ、今年のMotoGPには「REPSOL Honda」「LCR Honda」の2チーム4台しかホンダのチームはなく、鈴鹿8耐に参戦経験があるのはカル・クラッチローと中上貴晶の2人だけ。意外に選択肢は少ない。
また、7月にはスーパーバイク世界選手権がイギリス、アメリカと2週連続で続くカレンダーが設定されており、同選手権に参戦するライダーが7月前半の公式テストに参加するのはかなりハードな状況。7月は同選手権のライダーはほとんどテストができないと考えて、テスト制限のない6月までにプライベートテストを実施して、ある程度の合わせ込みをやってしまうという策もあるだろう。一方で、日程的には7月4日のドイツGP後に約1ヶ月の夏休みを迎えるMotoGPのライダーは比較的スケジュールに余裕がある。5年ぶりの鈴鹿8耐制覇を狙うホンダファクトリーに果たして大物MotoGPライダーの起用はあるか?期待してしまうのは私だけではないだろう。
【2019年Hondaモータースポーツ活動計画】(抜粋)
<MotoGPクラス>
・Repsol Honda Team
マルク・マルケス/ホルヘ・ロレンソ
・LCR Honda CASTROL
カル・クラッチロー
・LCR Honda IDEMITSU
中上貴晶
<スーパーバイク世界選手権>
・Moriwaki Althea Honda Racing
レオン・キャミア/清成龍一
<全日本ロードレース選手権JSB1000>
・Team HRC
高橋巧
・KYB MORIWAKI RACING
高橋裕紀
・テルル MotoUP Racing Team
秋吉耕佑/羽田大河
・MuSASHi RT HARC-PRO.Honda
水野涼
・Honda Dream RT 桜井ホンダ
濱原 颯道
・Team ATJ
関口太郎