欧州2位のデンマークに快勝したなでしこジャパン。順位決定戦の相手は、世界ランク5位の強豪国カナダ。
【2連勝】
会心の勝利だった。
ポルトガルで行われているアルガルベカップに出場しているなでしこジャパンは、グループステージ最終戦でデンマーク女子代表と対戦し、2-0で勝利。
ヨーロッパの強豪国の一つであり、昨年の女子ユーロで準優勝したデンマークを内容でも圧倒した。
「ボールが予想したところに来なかったのですが、こぼれ球を狙うと決めていたので、気づいたら体が勝手に反応していました」(MF長谷川唯)
0-0で迎えた82分に先制ゴールを挙げた長谷川は、苦笑しながらも、1年ぶりの代表でのゴールに充実した表情を見せた。
左サイドだった前半はほとんどボールに絡めていなかった長谷川だが、後半、トップ下にポジションを移してからは持ち前のテクニックと運動量を存分に発揮。
高さとパワーで容赦なく潰しにくる相手との駆け引きを楽しむように、勢いをうまくかわし、日本の攻撃にアクセントを加えた。
82分、DF熊谷紗希のロングフィードが、後半からピッチに立ったFW横山久美にピタリと合った。横山のシュートは相手GKに弾かれたが、ゴール前にふわりと上がったボールを、相手DFの背後から長谷川が倒れこみながら右足で押し込んだ。
それは、日本に勝利をぐっと引き寄せる重要な1点だった。
高倉麻子監督は、アルガルベカップ初戦のオランダ戦からスターティングメンバーを10人替えて第2戦のアイスランド戦に臨んだ。そして、この日も再び9人を替えて、第3戦のデンマーク戦に臨んだ。
スターティングメンバーは、GK池田咲紀子、ディフェンスラインは右からDF有吉佐織、熊谷、DF三宅史織、DF鮫島彩。MF阪口夢穂とDF市瀬菜々がボランチを組み、右サイドにMF中島依美、左サイドに長谷川。2トップにFW岩渕真奈とFW田中美南が並ぶ4-4-2のフォーメーション。
試合直前に起こったスコールの影響でピッチの一部がぬかるみ、風下だった前半は日本にとって特に不利な状況が重なった。だが、それも、ハンデにはならなかった。
田中と岩渕の2トップが前線でデンマークのパスコースをはっきりと限定し、中盤、ディフェンスラインがそれに続く。守備で先手を取る試合運びには、初戦のオランダ戦(●2-6)の大敗から得た教訓が生かされていた。
攻撃面では、岩渕と田中を中心に、多彩なコンビネーションから決定機を創出した。
だが、いずれも相手GKの好セーブやポストに阻まれゴールネットを揺らすことができない。39分にはデンマークのカウンター攻撃から決定的なピンチを迎えたが、ゴールポストに救われ、この試合最大のピンチを逃れた。
後半に入っても互いに決定機を生かせず、0-0のまま時間が経過していく中、82分に長谷川が決めた先制点は日本の優位を決定付けた。
日本はリードした後も浮き足立つことなく試合を進めると、試合終了間際の93分には、阪口のパスを受けた岩渕がペナルティエリア内で倒され、自らペナルティスポットに立つ。
相手GKの逆を突いて冷静に決めた後、厳しかった岩渕の表情にようやく笑顔がこぼれた。
【安定していたディフェンスライン】
2-1で勝利した第2戦のアイスランド戦に続き、日本が第3戦のデンマーク戦でも守備で主導権を握れた要因は、初戦のオランダ戦の大敗をきっかけに、選手たちが自主的に戦い方を確認し合ったことだ。
また、この試合は最終ラインに有吉、熊谷、鮫島という経験豊富な3人が並んだことで、試合運びを安定させた。鮫島は試合後、勝因を冷静に分析し、今後の課題として、この試合で唯一招いた決定的なピンチの場面を挙げた。
「デンマークの前線の選手はそこまで速さがなく、ボールの受け方が器用ではなかった分、助かった場面がたくさんありました。前半、サイドチェンジからシュートをポストに当てられた場面は、自分がもう少し(ボールにアプローチするタイミングを)待てたと思います。左右に振られて裏を狙われることは、海外勢相手ではよくあること。あの形をどう防ぐかは、また新たな課題ですね」(鮫島)
このピンチは結果的にシュートがポストに当たって難を逃れたが、GKの池田はこの場面も、最後までしっかりとシュートコースを見極めていた。
「前半はわりと慎重に入りましたが、後半は気持ちの面でも積極的にチャレンジできたと思います。ディフェンスの選手と声をかけ合いながら、セットプレーの守備でも、話し合った成果を発揮できたのは収穫です」(池田)
常に「ゴールを守る」ことの本質を追求し、結果に一喜一憂することが少ない池田も、6失点を喫したオランダ戦の後はさすがに落ち込んだという。
だが、5日間でしっかり気持ちを切り替えた。そして、この試合では大きな声で後方から的確なコーチングでチームを鼓舞し、攻撃の起点としてビルドアップにも貢献した。
【2年間で積み上げたもの】
この試合は、デンマークに対して、高倉監督が交代策やポジションチェンジなどの采配で先手を取っていたことも大きい。
驚きだったのは、市瀬のボランチ起用だ。年代別の代表でもA代表でもセンターバックを務めてきた20歳の若きDFが、グループステージの順位が決まる大一番にボランチで出場することは、日本の試合を徹底的に分析してきたであろうデンマークにとっても「まさか」だったに違いない。
高倉監督は試合後、
「市瀬らしく、ボールを拾ってつなぐというところで巧さを見せてくれました。オプションとしては十分にやれると思いました」(高倉監督)
と、手応えを口にした。
代表で初のボランチは、市瀬本人にとっても多くの刺激を得る経験だったようだ。
「オランダ戦は(センターバックとしてディフェンスラインの)裏への対応などで課題が出ましたが、ボランチのポジションでは、攻撃の時にもっと相手のリーチを考えなければいけないな、と。なでしこリーグとは相手の一歩目の速さが違うので、海外の選手とも戦える体やスピード、テクニックを磨いて、もっと上手くなりたいです」(市瀬)
選手同士の組み合わせで、多彩なコンビネーションを生み出せるチームーー。
それは、高倉ジャパンが発足してからの約2年間、指揮官がブレずに貫いてきた哲学だ。
そんな中、昨年からは2019年のフランス女子ワールドカップ予選を兼ねる今年4月のアジアカップに照準を合わせ、チームの幅を広げるための様々なチャレンジをしてきた。
加えて、高倉監督は、直感的な采配でチームに変化を起こす”勝負師”の一面ものぞかせる。
今大会は中1日、2日の連戦で、トレーニングの回数が限られているが、その中で、市瀬をボランチに据える急造システムが組まれたのは試合前日の紅白戦の1回限り。新システムが機能するかどうかは未知数でもあった。
だが、選手たちが覚悟を決めるのも早かった。
レギュラーの固定はなく、試合ごとに組み合わせやポジション、途中出場など、起用される状況が変化する難しい状況の中で、選手たちは指揮官が目指す戦術を基本にして、試合の中では相手チームに柔軟に対応しながら、ポジション的には即興の組み合わせでも互いの良さを引き出せるようになりつつある。
それは、「おおよそ今回のメンバーでアジアカップに臨む」ことが一体感を生み出している面も大きい。
「ある程度メンバーが固定された中でやれているので、選手の特徴をお互いがようやく知って、それを生かせるようになってきていると思います」(岩渕)
デンマーク戦で複数の選手と良いコンビネーションを見せた岩渕の言葉には、チームとしての確かな成長が感じられた。
様々な試行錯誤を繰り返してきた2年間を経て、なでしこジャパンは一段階上の、魅力的なチームへと変貌しつつある。
ピッチに立つ選手の中でおそらく人一倍、思いを巡らせてきたのが、背番号10を背にチームを牽引してきた阪口だ。
デンマーク戦の前日練習で市瀬と初めてボランチを組んだ阪口の第一声は、「いっちゃん(市瀬)、好きにプレーしていいよ」だった。
阪口は、なんとか自分に合わせようと神経を遣う若い選手たちのプレッシャーを取り払い、彼女たちに伸び伸びプレーさせようとする。だが、その中で阪口自身が攻撃に参加できなくなったこともあった。
だからこそ、待たれているのは、代表のボランチ候補たちが高い得点力を秘めた阪口の力を生かせるかどうかだ。
かつて日本を世界一に導いたボランチ、澤穂希さんの得点力を、その隣で最大限に生かした阪口のように。
【中1日で迎える5位決定戦】
日本は2勝1敗でCグループ2位になり、日本時間の3月7日(水)の夜に、5位決定戦でBグループ2位のカナダと対戦する。
カナダ(FIFAランキング5位)は女子サッカー強豪国の一つで、2012年のロンドンオリンピックと2016年のリオデジャネイロオリンピックで3位になっている。カナダはグループステージ第3戦で韓国を3-0で圧倒しており、日本にとって不足ない相手。ここまでの3試合を通じて積み上げてきた成果が試される重要な一戦になる。
なでしこジャパンとカナダ女子代表との5位決定戦は、日本時間3月7日(水)23時55分(現地時間7日14時55分)にキックオフ。フジテレビ系列で、同日23時40分より生中継される。