インドの便利屋さん派遣アプリ「Urban Company」の良さと隠れた価値とは?
近年インドでは、有望なスタートアップが続々と誕生している。2023年10月3日時点では、インドには111社のユニコーン企業がある(参考記事)。これはアメリカ、中国に次いで世界第3位の数だ。
「今後4年間でさらに122企業がユニコーンになる可能性がある(参考記事)」、などとも現地メディアでは報道されており、大変エキサイティングな時期であると言えるだろう。
筆者は現在インドのバンガロール在住で、インドのスタートアップの動向、特にユニコーン企業に着目している。
本記事では、便利屋さん派遣サービス「Urban Company(アーバンカンパニー)」について取り上げる。
筆者の実体験も交えつつ、そのサービスの内容と複数観点からの良い体験(UX)の内容、また社会的意義をお伝えしたい。
Urban Companyとは?
Urban Companyは、インドのグルガオンに本社を置くユニコーン企業「UrbanClap Technologies India Private Limited」のサービスである。
様々な分野の技術者をアプリ等を通じてカンタンに自宅に呼ぶことができるコンシューマー向けサービスで、具体的には、それぞれ以下のような分野の依頼を行うことができる。
- 清掃
- 修理
- 内装
- 美容
- マッサージ、など
このように書くと、日本の美容系店舗の検索・予約サイト「ホットペッパービューティー」のカテゴリ拡大版、かつ出張版のようなものだと思われる方もいらっしゃるだろう。
しかしUrban Companyは、ホットペッパービューティーのようにユーザが自力でリストから選ぶ形式ではない。
例えば、筆者がよく利用するマッサージだと、「サービス提供のレベル感」と「サービスカテゴリ(タイマッサージ、スウェーデン式マッサージ等)」を選択すると自動で適切な技術者が割り当てられる。
技術者はUrban Companyの制服を身につけており、到着するとテキパキと準備をされる。マッサージの場合、施術中はスピーカーでヒーリングミュージックを流してくださり、リラックスした状態で施術が受けられる。
マッサージ自体の質も、素人である筆者の観点ではあるが毎回満足のいくものである。実のところ筆者は毎週のように利用している。
また価格も、実店舗で実施されているものと比較すると安い。カテゴリや地域によると思われるが、バンガロール在住の筆者がよく利用するマッサージの場合、店舗でのサービスの半額程度である。
ユーザのメリット:コスパが高い便利サービスを、比較検討の労力なく使える
ユーザにとっては、Urban Companyは「標準化された品質を、検討・比較の手間なく簡単に使うことができる」という点で価値があると感じる。
特に「検討・比較の手間なく」の部分は特色があるポイントだ。
先述の通りUrban Companyは、技術者個々のプロフィールや評価を見て、派遣する人を選ぶことはできない。原則として、サービス内容や時間の選択のみしかできないのだ。
※過去に派遣した技術者のリピートのみ可能
一見すると「技術者を選べる方が良い」とも思えるが、「ユーザにとってのこだわりが強くない分野」のサービスを受ける場合には、良いUXなのではないだろうか。
例えば、筆者はマッサージは好きだが、マッサージ師の技術に強いこだわりがあるわけではないし知識もない。
そのため、マッサージ師を選びたいという気持ちは特にない。「『いい感じ』の方にマッサージしてもらえれば…!」というのが正直なところだ。個人によってこだわり度合いは異なると思うが、人それぞれこのような「こだわりが強くない分野」はあるのではないだろうか。
このように、Urban Companyは「標準化された品質を、検討・比較の手間なく簡単に使いたい」ニーズを満たす「ちょうど良い」サービスだと感じる。
技術者のメリット:稼ぎやすいだけでなく、生活が安定するしくみを利用できる
技術者にとっては「Urban Company」のブランドの名前があることで、「全く仕事が入らないかもしれない」という心配がないと言える。
実際、Urban Companyのブログによると、「Urban Companyのサービス提供者は、他のサービス提供者と比べてかなり少ない時間(ほぼ50%少ない時間)で、少なくとも60%高い月間収益を得ている」とのことだ。
Urban Companyで働き始めて4ヶ月という、筆者にフェイシャルマッサージをしてくださった女性のAさんに話を聞いてみた。
また以前企業に勤めていた技術者にとっては、Urban Companyの方が単価が高いことに加えて、フレキシブルな働き方もできることが大きなメリットに感じられているようだ。
フットマッサージをしてくださった女性のBさんはこう語っていた。
さらに調べてみると、他にも良い点があった。
Urban Companyは技術者全員に対して、生命保険、傷害保険、医療保険を提供、また希望者に対してはローンも提供しているという。(参考記事)
3年前からUrban Companyで働いているという、タイマッサージをしてくださった女性のCさんはこう語る。
また同様にコロナの時にローンを利用したという、フェイシャルマッサージとヘッドマッサージをしてくださった女性のDさんはこう語る。
Urban Companyは、データを活用した「金融サービス」の側面も
技術者たちが言う「ローン」。調べてみると、これはUrban Companyのデータ活用による画期的な取り組みだと感じた。
そもそも、Urban Companyで働く技術者たちは、信用情報や必要書類がないことが理由で、一般的な金融機関でお金を借りられない方が多いという。
しかし、Urban Company側は、技術者たちが働く中で蓄積されたデータを活用して金利や貸出上限額を算出することで、彼ら/彼女らに融資サービスを提供しているのだ。
もう少し具体的に説明する。
ある程度Urban Companyで働き実績を積むことで、Urban Company側には、その人が「どのくらいのスキルを持ちどのように働き、どのくらい稼げる可能性があるか」「どの程度の金利で、どの程度の額まで貸せるか」を判断できるデータが貯まる。
いわば、その技術者には「Urban Company専用の信用スコア」が付与されているような状態だ。
それにより、銀行ではお金を借りることが難しくても、Urban Companyにおける信用があることである程度まとまった額を簡単にUrban Companyから借りられるようになる。
短期的な資金(給与)だけではなく、中長期的な生活の安定につながる資金も得られるというわけだ。
Urban Companyは「様々なサービスの提供者として働いてもらう」ことが入り口ではあるものの、最終的には社会的弱者に向けた「金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)サービス」でもあると言えるのではないだろうか。
※このような「金融包摂サービス」は、中国の配車サービス「DiDi(滴滴出行)」や東南アジア各国で展開される配車サービス「Grab」などでも見られる。
今回は、インドの「Urban Company」のサービスの内容、ユーザ目線・技術者目線でのメリットと本サービスの別の観点からの捉え方をお伝えした。
このように単なる技術者派遣サービスの側面のみならず、金融包摂としての側面ももつ本サービスにおいて、一連の体験と考察から得られる日本・日本企業への示唆は筆者noteに記載している。ご興味のある方はご一読いただきたい。