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「なんか言いたいことがあるんだろう?」「本心を知りたい」と言う人はどういう勘違いをしているのか?

横山信弘経営コラムニスト
部下の本心が知りたい……(写真:アフロ)

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場に入るので、経営者やマネジャーたちの悩みごとをよく聞きます。当事者意識のない部下。言うことを聞かない部下。やると言ったのにいざとなるとやらない部下……。そういう部下たちに、

「日ごろから部下が何を考えているのか、知りたい」

「なんか言いたいことがあるんだろう?」

「本心を知りたい」

などと、問い掛けたくなるようなのです。まるで、彼氏彼女のことがよくわからない、恋愛に悩む若者たちのように「本心が知りたい!」と愚痴を言われるような経営者です。現場ではとても多く見受けます。気になるのは、日頃から抱える部下に対する苛立ち、不満、愚痴が、勘違いの行動となって表面化してくることです。あまりに衝動を抑えられないと、

「どうしても、本心が知りたい」

と言って、部下との面談をセッティングしてしまいます。そして、こう問い掛けるのです。

「最近どうかな? 会社や仕事に対して何か気付きとか不満とか、あるかな?」

と。

もっとハッキリ言う場合もあります。

「何か思っていることがあるんだろう? 言いたいことがあるんならハッキリ言ってくれ」

と。

ここで、

「わかりました。それじゃあ言わせていただきますが、私は部長のやり方にどうしても納得がいきません。先日の会議でこう言ったじゃないですか……」

などと部下が話しはじめたら、上司の期待通りと言えるでしょう。やはり言いたいことがあったのか! そんな不満を胸にしまっていたのなら、どうしてもっと早く言ってくれなかったのか! などと思うことでしょう。そして今日は面談をセッティングして本当によかった。と安堵するに違いありません。

しかし99%、このようなことはありません。100%ない、と言いたいぐらいですが、100回あれば1回ぐらいはあるかもしれないので、99%とします。それぐらい、確率の低いことです。

「なんか言いたいことがあるんだろう?」「本心を知りたい」と上司から言われても、ほとんどの部下は「え!」と驚くだけです。部下が素っ頓狂な表情を浮かべるので、上司は食い下がり、

「ほら、最近仕事に身が入ってないじゃないか。最近は会議でも発言が減ってきたし、何か会社に対して不満があるんじゃないか? 遠慮せずに言いたまえ。ちゃんと相談に乗るから」

と問い掛けたりして、無理やり相手の心を開かせようとします。

このとき、相手が「ええっと……」と考え始めたら、もうこの面談は打ち切りにしたほうがいいでしょう。なぜなら、「ええっと……」としばらく時間をかけて考えたということは、この後に口から出てくるセンテンスの数々は、日ごろから意識していることではない言説だからです。

普通、人が考えようとしたときは、最もアクセススピードの速い「短期記憶(ワーキングメモリ)」にアクセスをします。しかし、この領域に求めるデータが格納されていなければ、もっと脳の深い部分にある「長期記憶」にアクセスします。脳の短期記憶(ワーキングメモリ)に格納されている情報は、アクセススピードが圧倒手金い速いため、日頃から何度も何度もアクセスすることになります。この状態を「意識している」と言います。

好きな彼女、彼氏のことを思い悩む人がいます。その人の脳の短期記憶(ワーキングメモリ)には、いつも恋い焦がれている相手のことが常駐しているものです。しかし脳の短期記憶に入っていないのであれば、長期記憶に入っているのです。しかし、長期記憶は容量が非常に大きいため、何か「切り口」がないと、アクセスしようがありません。したがって、「ええっと……」と言い始めた部下は戸惑います。「切り口」がないからです。

「言いたいことがあるんならハッキリ言ってくれ、とおっしゃいますが、どういうことでしょうか」

「だからァ、最近、仕事に身が入ってないだろう」

「仕事に身が入っていない……って? どの仕事でしょうか?」

「ええっと……。たとえば、この前の資料だって、提出するのが遅かったじゃないか」

「ああ、その件なら、事前に遅れるとメールで伝えていたと思いますが」

「メール? いや、その……。メールじゃなくて、昔はもっと面と向かってコミュニケーションをとってきたじゃないか」

「ええ? 昔から、メールでやり取りしていましたよ」

「それじゃあ、この前の会議ではどうなんだ?」

「会議、ですか? 私が何か会議で変なことを言いましたか?」

「いや、そうじゃなくて……。その、何か、日ごろから言いたいことがあるんじゃないかと思って」

「私が? 課長に?」

「私じゃなくてもいい。会社に対して、でもいい」

「うーん、そりゃあ、100%不満がない、というわけじゃありませんが……」

相手が「ええっと……」と考えた時点で、脳の長期記憶にアクセスしはじめたということです。ですから日ごろから考えていない言葉が出てきます。いつも意識していない言葉を引き出しても、意味がありません。問題の核心をついていないからです。

恋愛でも同じです。「いつも何を考えているんだろう?」「なんか私に言いたいことがあるのだろうか?」「本心を知りたい」と、アレコレ脳の短期記憶(ワーキングメモリ)に入れて意識しているのは当事者だけであって、相手の脳の短期記憶には入っていないものです。

もし相手の脳の短期記憶に入っている事柄であるなら、相手から言ってくるものですし、そうでなければ、質問した瞬間に「だったら言わせてもらいますが」とすぐさま答えるものです。

関係をギクシャクさせるだけですので、「なんか言いたいことがあるんだろう?」「本心を知りたい」と言って、相手を刺激するのは控えたほうがいいでしょう。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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