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リッチー・モウンガ来日。当分オールブラックスにはならない?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ワールドカップ決勝時のモウンガ(写真:ロイター/アフロ)

 ニュージーランド代表として今秋のワールドカップフランス大会で準優勝を果たしたニュージーランド代表のリッチー・モウンガが、11月21日、今季から加わる東芝ブレイブルーパス東京の入団会見を都内でおこなった。

笑顔で話すモウンガ(筆者撮影)
笑顔で話すモウンガ(筆者撮影)

 モウンガは身長176センチ、体重83キロの29歳。ポジションは司令塔のスタンドオフで、鋭い仕掛けとリーダーシップに定評がある。

 生まれ育ったカンタベリーで、強豪クルセイダーズの一員として活躍。昨季は国際リーグのスーパーラグビー・パシフィックで優勝し、前身のスーパーラグビーでは2019年まで3連覇を達成した。

 オールブラックスことニュージーランド代表としては、これまで56キャップ(テストマッチ出場数)を獲得。今秋のフランス大会まで2度のワールドカップに出場した。

 ワールドカップには2度出場。今秋のフランス大会では、決勝で南アフリカ代表に11-12と惜敗も、準優勝を果たした。

 ブレイブルーパスとは複数年契約。まずは司会者に促される形で、ワールドカップへの所感やブレイブルーパスで戦う意気込みを明かした。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「東芝に加入を決めてから、来日して皆さんに会えることを楽しみにしていました。ここでの日々を楽しんでいます。

 オールブラックスは素晴らしい経験ができた。現実は自分たちの力が及ばなかった。東芝に繋がる学びを得られたと思っています。学んだことを活かし、最終的には優勝に繋がるようにしたい。

 東芝に加わってここまでの時間、本当にいい時間を過ごしています(11月中旬に合流)。チームの文化、雰囲気は本当に素晴らしいと感じています。(拠点の)府中も自分自身や家族にとって、自分の場所と呼ぶにふさわしい素敵な場所です。

 まずチームの力になりたい。学んだことを同じ選手に与えることで、何かをさらに追加していけるような存在になりたい。リーグワンでは自分のラグビーのキャリアの中でも最高のプレーをしていきたい」

——オールブラックスの活動、特にワールドカップで「東芝に繋がる学び」があった。具体的には。

「ラグビーはある意味シンプルなスポーツ。スペースにアタックする。あとはゲームの流れが大事なスポーツでもあります。大事な瞬間は一瞬です。ワールドカップで学んだことは、その一瞬の影響が本当に大きいということです。東芝では、シンプルなことをしっかりやる重要性を意識したいです」

——ブレイブルーパスのリーチ マイケル主将との関係は。

「リーチは、自分自身にいていいと自信を与えてくれた人。やりたいことに自信を持たせてくれる。ミーティングでは、ただ座って遠慮しているのではなく、発言し、東芝のレガシーに加わりたいと思わせてくれる」

——日本で楽しみな対戦は。

「かなり多くのオールブラックス経験者がいます。楽しみにしているのは、友人のブリン・ホール(ブルーレヴズのスクラムハーフ。ニュージーランド代表経験はないものの、クルセイダーズでモウンガとともに優勝を味わっている)。日本人選手との対戦も楽しみにしています。私が聞くには、このリーグは凄くタフ。自分の身体への要求が高いと聞いている。そのチャレンジを楽しみにしたい」

——世界的な選手が日本に集まるわけは。

「ひとつは、この国の美しさがある。すごく便利なのは、飛行機で直接、来られること。毎年、より多くの選手が日本でプレーをしたいと興味を持っています。以前、来ていた選手が帰国した時、日本で過ごしたリーグがどれだけよかったかを伝えているのだと思います。

 私はティム・ベイトマン、マット・トッド、トム・テイラー(過去にブレイブルーパスに在籍)から色々と聞いています。彼らは私と同じクライストチャーチの出身です。クライストチャーチと府中が似ているのだと教えてくれました。『家族で住むには最適だよ』と。子どもがいるので、そこは重要な点でした。また日本文化についても。それを受け入れる立場にあれるのを嬉しく思います。ニュージーランドにはなく、日本にあることがある。自転車で(補助席を設置して)、自分の息子と娘を前後に乗せるようなことは、ニュージーランドではなかなか見られない。ただ、ここでは皆、そうしている。そんな違いも楽しいです」

 会見では、サバティカルの問題にも焦点が当たった。

 ニュージーランドには、自国でプレーしている選手しか代表入りできないという内規がある。海外でのプレーは代表引退、もしくは代表辞退を意味しているに等しい。

 現役の代表選手が他国へ行く際は、サバティカルという仕組みを使って1年契約でプレーしていた。

 サバティカルとは、もともとは長期契約者向けのまとまった休暇という意味。ここではニュージーランド協会と契約するオールブラックスの選手が1年間、海外でプレーできる制度を指す。

 このサバティカルの活用には、メリットとデメリットがある。受け入れるクラブにとっても、選手自身にとっても、である。

 クラブにとっては能力の高い選手を活用しやすくなる一方、当該選手の知的財産を組織に残すのが難しい。

 1年契約といっても、実際のシーズンは約6カ月で終わる。サバティカル組が合流するのは開幕の1~2カ月前のケースが多く、実質は10カ月しかそのチームに在籍しないこととなる。海外選手に人気の高い日本のリーグワンには、サバティカル組の採用をしない方針のクラブもある。

 サバティカルは選手にとっても、短期的に他国の文化やラグビーに触れられる一方、新しい所属先に愛着がわきづらかったり、海外移籍で得られる利益を得にくかったりする。複数のクラブ関係者の話を総合すると、サバティカル組の1年あたりの年俸は、複数年契約をした選手のそれよりも割安となる傾向がある。

 今回の会見でも、サバティカルにまつわる質疑があった。

 モウンガは、「サバティカルという言葉はあまり好きではありません」と話した。

「私はずっとクライストチャーチに住んでいました。カンタベリーのクルセイダーズ、そしてオールブラックスでプレーしました。毎年、毎年、同じサイクルでした。自分にとって今回の経験は、自分のラグビーの能力を違う環境で試すチャンスです。このチャンスをくれた東芝には光栄に思いますし、尊敬しています。自分が個々からやることは、全ての学びを活かし、全てを東芝に費やすことです。

サバティカルという言葉はあまり好きではありません。(日本でのプレーは)自分にとっては休みではなく、1年だけのものとも思っていません。全ての覚悟を持って東芝でプレーしたい。このクラブのために必要のあることをしたいです」

 繰り返せば、モウンガはブレイブルーパスと複数年契約を結ぶ。つまり現行ルールでは、その間のニュージーランド代表入りは叶わない。

 モウンガは、今年1月6日の時点ではこのように述べている。

「ニュージーランドも他国に合わせて順応すべきだと思っています。でないと、いい選手がもっと早いタイミングで離れて国を代表することができなくなる。日本に来るニュージーランドの選手の数も年々、増えています。変化に順応しないと、ニュージーランドのラグビーのスタンダードは落ちかねない。国を代表したい選手も多いと思いますが、ラグビーを引退した後のことを考え別の国でプレーしたい人も増えている。変化は必要です」

参照:「ニュージーランドのスタンダードが落ちかねない」。リッチー・モウンガの警鐘。【ラグビー旬な一問一答】

 自国の取り決めへ、一石を投じる意志がにじんだ。

 もっとも今回は、「東芝にフォーカスしたい」と話した。2027年のワールドカップオーストラリア大会への挑戦は、現時点では「考えていない」という。

「まず東芝に加入するにあたり、自分は東芝にフォーカスしたいという気持ちになっています。オールブラックスは国をまたいだ向こうの事だと考えます。現時点にフォーカスして、全てのできることを東芝に提供したい。できるだけ長くプレーしたいと考えます。自分がリタイアするまでです。自分としては、いいラグビーをしたいと考えます。

 それがこの仕事の現実ですが、東芝が来てくれということで、そうすると決めました。その代わり、いいラグビーをこのチームのためにしたい。シンプルに言えばこういうこと。いいラグビーを提供したい」

——次のワールドカップ出場は考えていないのか。

「現時点ではここにフォーカスしているので、先は考えていないです」

 ちなみにこの日は、モウンガとともにブレイブルーパス入りのシャノン・フリゼルも会見した。

会見するフリゼル(筆者撮影)
会見するフリゼル(筆者撮影)

 ニュージーランド代表のフランカーとしてフランス大会でプレーした、身長195センチ、体重114キロの25歳。日本にいる間にニュージーランド代表でプレーできないことについて、こう言及していた。

「ここは自分のコントロールできない部分だと思っています。他選手にとってはいいチャンスになるし、その意味では公平なのかなと。他の選手がオールブラックスになるチャンスを得ることになります。自分にとってはブレイブルーパスでプレーすることにフォーカス。リーグワンで優勝することを最大限に考えます」

 元ニュージーランド代表主将のトッド・ブラックアダーがヘッドコーチになって4シーズン目を迎えるブレイブルーパス。一昨季に旧トップリーグ時代の2015年度以来となる4強入りを果たすも、昨季は12チーム中5位に終わっている。大物加入を追い風に、リーグ内での序列を変えられるか。

背景にはチームスピリットの「猛勇狼士」(筆者撮影)
背景にはチームスピリットの「猛勇狼士」(筆者撮影)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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