お供え物の食品ロスをなくせ コンビニより多い寺での取り組み
今日4月8日はお釈迦さまの誕生日。仏教の開祖であるお釈迦さまが生まれた日だ。全国各地のお寺で花祭りなどの行事が催される。
文化庁の宗教年鑑(平成28年版)によると、仏教系単位宗教法人の数は77,232。 かたや、コンビニの数を調べてみると、一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会のコンビニエンスストア統計調査月報最新版(2017年2月度)では、全国で54,922。コンビニよりお寺の方が22,310も多い。
お寺は宗派がいろいろある。この宗派を超えて、全国47都道府県でおこなわれているおてらおやつクラブの活動をご存知だろうか。
始めたのは、奈良・安養寺(あんようじ)の住職である、松島靖朗(せいろう)さん。
このお寺で生まれたものの、お寺は継ぎたくないと思い、東京の大学に進学した。
卒業後はIT企業に勤めていたが、あるとき、奈良のお寺に帰り、住職になることを決心する。
奈良へ帰ったあと、2013年5月24日、大阪の北区で、母(28歳)と子ども(3歳)の遺体が発見される事件が起きた。部屋の中に食べ物はなく、電気とガスも停まっていた。生活に困って餓死した可能性が高い。
部屋に、母親が書いたメモが残されていた。
自身も1歳の子の父親になったばかりだった松島さんは、衝撃を受けた。
最後に おなかいっぱい食べさせてあげたかった ごめんね
松島さんは、小さい頃からお寺で育ち、お供え物は「お仏飯(ぶっぱん)」であると聞かされてきた。
わたしたちお寺の人間は、仏さまからご飯をいただいて生かされているのだ、と。
だが、お供え物は、果物や、地の物(地元で採れたもの)、旬の物など、すぐにだめになりやすいものも多い。果物や野菜はお供えしたままでは傷んでしまうし、加工食品はいずれ賞味期限が切れてしまう。
そこで、お寺に「ある」ものと、社会に「ない」ものを繋げばよいのでは、と松島さんは考えた。
2つの課題をつなげて解決する、というアイディアだ。
とにかく、自分ごととして、今すぐできることで動きたいと考えた松島さんは、この「おそなえ」を仏さまの「おさがり」として「おすそわけ」すればよいのでは、と考えた。
2014年1月、「おてらおやつクラブ」を正式にスタートする。
支える対象は、ひとり親世帯の子どもたちだ。
お寺のお供え物がだめになってしまう前に、箱に詰めて、母子支援施設などの福祉施設に届ける。福祉のプロである母子支援施設が、親や子どもに届ける。お寺は福祉の専門家ではないので、一歩引いて、あくまで後方支援の側に立ち、支援の枠組みをサポートする、という考え方である。
受け取ったお母さんたちの声を紹介する。
あけてビックリ!!うれしくて!うれしくて!我が家にお年玉が届いたような気持ちです 明日からがんばろ!と思いました
見ず知らずの方が、私たちのことを思って考えてくれたと思うと、どう言葉にすればいいのかわかりませんが、有難い限りです
お米やおやつを頂戴しました。子どもたちへのお菓子にくわえて栄養ドリンクも入っていて、本当にありがたかったです。応援してくれる人がいる あたたかな気持ちになりました
宅配便が来ると、息子と娘が「お寺からかな?」とワクワク待っています。家では買えないようなお供え物です。普段お世話になっている人達へもおすそわけしたいです
おやつ昨日届きました。毎月ありがとうございます!偶然にも昨日はひとり娘の誕生日でした!思いがけないプレゼントに、親子ふたり大喜びさせて頂きました
いつも送付状に、優しいお気遣いのひと言を添えていただき、ありがとうございます。小さな事かもしれませんが、こんな温かな手書きのひと言に、いつも感謝と有難みで心が震えます
一方、協力するお寺にとっても、松島さんの始めた取り組みは有難いものだった。お供え物をどうするか、というのは、実は全国のお寺の共通課題だったのだ。「もったいない」と思いながらも処分せざるを得なくなることに心を痛めているお寺も少なからず存在したのだ。
お寺さんからの声を紹介する。
新聞記事を読んで、これなら私たちにも協力できる と思えるものでした
貧困問題が遠くで起こる他人ごとではなく、身近な出来事であると気づかされました
いつも無駄にしてしまって心苦しかったお供え物 おすそわけすることで「もったいない」を「ありがとう」にできることが嬉しいです
この活動を知ったとき、10年は関わる必要があると感じました 覚悟を決めて参加します
おてらおやつクラブの支援団体からも声が届いている。
おすそわけをきっかけに、壁があったお母様との交流が増え、状況が把握でき、何より子どもたちが心を開いてくれるスピードがはやくなりました。新規の会員増加に繋がっています
おてらおやつクラブからのご支援により、私どもの支援の拡充にもつながっております。おいしいお菓子や果物などは、生活にいろどりやうるおい、ひいては相談者の方の笑顔にもつながるものです。日々のおやつの大切さを実感しております
おやつを買う余裕のない家庭が多かったので、お菓子はとてもよろこんで頂けました。パイナップルは缶詰しか見たことがなかったので、子どもたちは大喜びでした
松島さんは、親御さんから届くお手紙に共通するメッセージがある、と語る。
それは「見守ってくれる人がいる」ということが「孤立感を解消する」ということだ。
お寺や僧侶ができる社会活動といえるこの活動に、すべてのお寺が共感してくれるとは限らない。
「こんなのお寺のすることではない」と言う人もいる。
松島さんは、「すべての苦しむ人を必ずすくい取ってくれる仏さまの存在」を心に、活動を続けている。
5月24日には、奈良・東大寺でおてらおやつクラブの活動報告会が開催される。私も「もったいない」を「ありがとうへ」と題して登壇させていただく。2014年にこの活動を知って以来、全国の講演の場を頂くたびに、この活動について伝えてきた。これからも、多くの方に、おてらおやつクラブの活動を知っていただきたいと願っている。