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カジノ法案審議の開始に向けた論点整理

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、いよいよ始まりそうです。ここに来るまで一体何年の年月を無駄にし、何人の関係者達が倒れていったのでしょうか(遠い目)。以下、日経新聞より転載。

カジノ法案、今国会で審議入りへ 自民方針

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H6L_R01C16A1PP8000/

自民党は1日、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案(カジノ法案)を9日にも衆院で審議入りさせる方針を固めた。衆院内閣委員会の審議時間に余裕が生じ、慎重だった公明党も容認した。観光客誘致の起爆剤として期待するが、今国会で成立するかは不透明だ。

法案はカジノや宿泊施設などIRの整備を後押しする内容。超党派の国際観光産業振興議員連盟(IR議連)がまとめた。政府・自民党内には、2020年東京五輪や、大阪への誘致をめざす25年の国際博覧会(万博)との相乗効果を期待する声が多い。

実は「早ければ今月9日にも法案審議の開始」というメッセージは、 内々では先月の公判くらいからアナウンスメントが為されていたのですが、審議の開始にあたって最大の障害となっていた公明党のスタンスが軟化したため、何とかここに至りました。勿論、これからの法案審議が一番大変なワケですが、一先ずここまで至ったことにホッとしておる所であります。

ということで、本稿では法案審議の「先取り」と致しまして、本法案の論議ポイントを纏めてご紹介いたします。

1)カジノ合法化の目的

今回審議の対象となるIR推進法案(通称:カジノ法案)は、その第一条に我が国でカジノ合法化を目指す目的が明示されています。その内容は:

●特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである

(※特定複合観光施設区域:カジノを含む複合観光施設の整備区域)

となっているわけですが、まずもってこの部分においてその効果の検証が必要となるでしょう。勿論、推進派は「カジノを含む複合観光施設の開発が観光振興、地域経済振興、および財政の改善に資するのだ」という前提で本法案の提案をしているわけですが、これに反対もしくは慎重の立場に居る方々の中には、この前提そのものに対して異論を唱えている方も存在します。勿論、その異論のあり方も多様であって、カジノに観光振興や経済効果はないのだとする主張、例えその効果があったとしてもそのようなモノに頼るべきではないという主張まで、恐らく多種多様な異論反論が交わされるものと思われます。

勿論、この法律の推進派はこれら各種異論・反論に対する論理的な回答を用意しておかなければなりません。

2)カジノの負の影響対策

一方、今回のカジノ合法化の検討に合わせて、必ず行わなければならないのがカジノ導入によって予想される様々な社会に与える負の影響対策であります。その内容は大きく、1)依存症問題、2)治安維持、3)青少年教育への影響、に峻別されるわけですが、今回のカジノ合法化に合わせてどのようにその対策を講ずるのかという手法論に対する論議および、その効果に関する検証も必要でしょう。

また、推進派の立場としては、反対派がことさらに主張する「賭博=害悪」論の中には、あまりにも実情を歪曲させ、誇張をしすぎた印象論に基づくものもあるという主張もあります。この辺りは、推進派が「事実」をデータ等に基づいて説明して行くことも必要であるものと思われます。

3)カジノ合法化の手法論

そして、最後に焦点になるのがカジノ合法化の賛否とは別に存在する、その合法化の「手法論」に関してです。特に本法案において法律的に最大の論議焦点となるのが、我が国において初めて「民営賭博を初めて合法化する」という今回のカジノ法案の建て付けであります。

皆様もご承知の通り、刑法185条において原則的に賭博を禁止する我が国においては、「賭博」は公の独占業務としてのみ認められ、一方で民間が提供するものは賭博未満に射幸性を抑えた「遊技」でなければならないというのがこれまでの賭博行政の在り方でありました。

一方、実は本カジノ法案は、その第二条において

●この法律において「特定複合観光施設」とは[…]民間事業者が設置及び運営をするものをいう。

という記述がなされており、これは民間事業者に直接賭博施設の運営権を付与する民営賭博の合法化を意味しているのだとの説明が行われています。即ち、今回のカジノ法案は、ただ単純に「我が国でカジノを認めるべきかどうか」の論議を超え、「我が国で民間企業が賭博事業を行って良いのかどうか」という非常に原理的な賭博統制論にまで論議が及ばざるを得ない法案となっているということ。

例えば私自身はカジノ合法化の推進論者でありながら、一方で民営企業に直接その権利を付与する事に対しては慎重を喫するべきだという立場をとる論者であり、この点は単純なカジノ合法化に対する賛否を超えた論点となるのは間違いないでしょう。

ということで、早ければ今月9日にも始まるとされているカジノ法案審議、その舞台となる衆院内閣委員会の動向に是非ご注目頂ければ幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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