「わたし専用化粧品」が次に来る? 来日したKビューティー会社に聞いたトレンド 新成分も開発中
「韓国では今後3~5年で、パーソナライズされた化粧品が普及していくでしょう。韓国ではそれを販売するための資格試験がすでに始まっています。有資格者がアドバイスを提供することで、個々に合った化粧品を提案するのです。今はまだ始まったばかりですが」(HtoO Lab イ・ウニョン代表)
11月20日に都内神田で行われた「2023 One Asiaコスメビューティーフォーラム」(主催:大韓民国政府・食品医薬品安全処主催/後援:大韓化粧品協会)を取材してきた。
なにせ韓国から化粧品・スキンケアメーカー30社以上が東京を訪れ、フォーラムを開催したのだ。恰好の機会だった。
韓国でのトレンドが一体何なのか。近年は韓国発の「CICA」成分入りの商品が日本のコンビニでも販売されるほどにまでなった。次に日本に来そうなものは何か。そこを知りたかった。
ところが、現場で聞いた話では…
「天然素材系が流行り、という大きな流れはありますが、以前の様なはっきりとしたトレンドが何かというのは定義しにくいです。こういうタレントを起用して、どんな広告を打てば効果がある、という考え方が最近は通用しません。個々人が自分の趣向に合わせ、好みのものをYouTubeで調べ、購入するという流れがありますね」(RNT Company キム・イヌCEO)
なかなか「これが流行り」という話が出てこない。
「韓国での化粧品・スキンケア用品のトレンドを追うのは本当に難しいですね。我々の業界ではトレンドをリードして製品を作っていくというよりも、それぞれのユーザーに合ったものを信じて進むことが、トレンドになっていくでしょう」(reblocell ソン・ジョンユンCEO)
「韓国では、ユーザーが自分の肌の性質を知っている。だから有名人のモデルやブランドイメージで買うという時代は過ぎています。ある原材料のエキスを強調しても『これは自分に合わない』と買わない。成分表を見て、これが自分に合うのかを見て買う。それゆえ、パーソナライズされた化粧品が注目されていくでしょう」(HtoO Lab イ・ウニョン代表)
「平均」がトレンドにならない近頃の韓国
これ、近年の韓国社会ではすごく重要な話だ。
多くの人が好むものより、個人の趣向に合うもの。これが「トレンド」なのだ。
「平均喪失社会」という言葉がある。
人気シリーズの書籍「トレンドコリア」(ソウル大学消費トレンド分析センター)の2023年版で最重要キーワードとして取り上げられた。書籍にはこう記されている。
「韓国社会では『平均』が無くなりつつある。周辺で起きているあらゆることに「普通、たいがい、平均的に○○だ」という言葉を使うことが難しくなった」
スキンケア用品・化粧品でも同じことだ。メーカーはかつては「このライフスタイルだから」「何歳くらいだから」「朝に時間がない人が増えている」といった括りで消費行動のサンプルを抽出し、平均値の一番高いところを見つけてマーケティングすればよかった。
しかし、新型コロナのパンデミック時代に2年間「非対面社会」が続いたこともあり、もともと資本主義社会にある「持てる者と持たざる者」の差が顕著になった。同著はこう続ける。
人それぞれ、ということになってきたからだ。
オンラインコミュティの掲示板では、知人の結婚式のご祝儀をいくら払えば適切なのか、友人の紹介で出会った異性に何度目のデートで告白すればいいのか、といった過去には「国民的ルール」ともいえたポイントを聞く質問が多く上がっている。
日常の簡単な問題に答えを探すために、オンライン世界をさまよう。その姿は逆説的に言うとすべてが当然と考える「平均的な答え」がなくなっているからだ」
周囲の人がどうか、なのではなく「自分がいいと思うから、それを買う」という傾向が強い。例えば韓国からの流れで日本でも話題になった「MBTI」(本来はアメリカ発祥のものだが)もその流れの一つだ。「血液型」や「星座」の占いよりも、細かい分類で、より自分自身のことを細かく教えてくれる。筆者は最近、K-POP評論家のキム・ユナ氏にインタビューを行ったが、このジャンルでも「昔は一つのグループをずっと熱烈に応援、という傾向があったが今は周囲に流されず『このグループのこの曲がいい』という楽しみ方になっている」と言っていた。
世界初の「カスタム化粧品調剤管理士」国家試験が始まっている
スキンケア商品・化粧品でも「だいたいこの年齢層・収入層がこのあたりを好む」といった見立てが出来なくなっている。より自分自身にカスタマイズされたものを求めるようになっているのだ。
それゆえ冒頭の「韓国では今後3~5年で、パーソナライズされた化粧品が普及していく」という予測が出てくる。
「韓国では2020年、コロナのパンデミックの時代から少しずつ言われてきた話でもあります。カスタム化粧品販売業制度は世界で初めて2020年3月14日に施行されました。韓国政府食品医薬品安全処の参加組織が実施する資格試験を経て認められたカスタム化粧品調剤管理士は、専門の販売店で、個人の肌の状態や好み、診断結果に基づき化粧品に色素や香料などの原料を混合したり、化粧品を分けて詰めるなどの役割を専門的に担います」(現場にいた韓国の化粧品関係者)
この試験、平均の合格率が20%前後という難関だが、2021年5月時点では合計4008名が資格を取得している。
変化の速い国・韓国で先にこの試みがなされ、その後日本にも「パーソナライズ化粧品」の大きな流れがやってくるだろうか。
「政府が支援」の話通り 新素材の研究も次々と
と、まあお硬い社会の流れの話もいいんだが、それでも粘って聞き出した。
各社が推す“トレンド”を。
「刺激物や発がん物質を含む成分に代わるものが登場している。例えば、日本でもすでに流行っているグルタチオンはもちろん、アクトインという成分が入った製品も注目されている」(HtoO Lab イ・ウニョン代表)
「韓国社会でのトレンドの把握が難しいとはいえ、コロナ時代の巣ごもり生活を経て家で軽いホームケアをやる人が増えている。この商品ランナップを展開。MTSというリズムを利用して肌に吸収させる技術。あるいは微小電流を利用して肌に吸収させるタイプも開発中」(reblocell ソン・ジョンユンCEO)
「ビーガンのコンセプトや機能性成分を入れている商品を開発。容器の中で混ぜて泡立てるスキンケア用品も。機能性成分は主に肌の鎮静と抗炎症に特化した特許成分を使用。現在日本では「Cica」成分を中心にコンセプトで販売されている基本製品が多いが、Cicaの主要成分だけを抽出した「Teca」と呼ばれるこの成分とプロバイオティクスを組み合わせて、「Dermateca Biome」という基礎ケアの商品を開発。韓国でも取り扱っているメーカーは少ない」(RNT Company キム・イヌCEO)
11月中旬にも韓国化粧品協会副会長に話を聞いたが、その際「韓国では化粧品・スキンケア用品の新たな試みに対して、政府が資金的に支援する態勢が出来ている」という話になったが、現場のメーカーの話を聞き、それは本当だったな、と感じられた。