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なぜビジネスセンスがない人ほど「働きがい」という言葉を使うのか?

横山信弘経営コラムニスト
「働きがい」のある職場で働きたい……(写真:アフロ)

■得体の知れない用語「働きがい」

「モチベーションという用語よりも、得体が知れない」

以前からこう思っているこの「働きがい」という用語は、とはいえ昨今多くの企業で使われるようになった。

どちらかというと「モチベーション」よりも新しく、そして意味合いを理解されていない用語であるにもかかわらず、である。

※参考記事:【もう死語?】成功する人ほど「モチベーション」を口にしない

「モチベーション」という用語の意味を、何となく言語化できる人はいても、「働きがい」をうまく言葉として表現し、小学生でもわかるように説明できる人は、そう多くはいないだろう。

以前、あまりに「働きがい」のことを口にする経営幹部がいた。なので、言葉の意味をどう捉えているのか、やんわりと質問してみた。すると、

「働きがいと言ったら、働きがいだ。それ以上、どう説明しようというのだ」

と開き直られてしまった。私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。もしも私が、

「目標を絶対達成するにはどうしたらいいかって? そりゃあ絶対達成させることですよ。それ以上、どう説明したらいいんですか」

と言ったら、相手はどんな気持ちになるだろうか。クライアント企業の社長であれば、すぐさま「もう来なくていい」と私は言われるに違いない。少なからず「働きがい」も「絶対達成」も、居酒屋でビールを飲みながら交わす会話の中にだけ登場する言葉ではない。

経営幹部が責任のある場で発する言葉だ。その言葉の定義を正確にとらえていない、というのは問題ではないか。

そこで今回は「働きがい」という、とても風変わりな言葉について考えてみる。現場で頻繁に使われている言葉であるから、本来はこういう意味合いで使うべきではないかという提起もしたいと思う。

■「働きがいのある会社」が教えてくれるもの

毎年GPTW(Great Place to Work Institute)Japanが「働きがいのある会社ランキング」を発表しているが、たしかに「働きがいのある会社」というのが、いい会社のように思わせられるが、実際のところはどうだろうか。

私見を書こう。私は「働きがいのある会社」というのは、食べ物にたとえると「美味しい食べ物」のようなもの、と思っている。

「美味しい食べ物」を食べたい人がたくさんいるのと同じように、「働きがいのある会社」に入社したい人も多い、と私は受け止めているということだ。

ちなみに、私は何度かセミナーで「食事の本質」とは何か? を質問してみたことがある。セミナー参加者の大半が「必要な栄養をとること」と答えた。そう。私もそう思っている。

とても退屈で、つまらない答えだが、しかし「本質」というものは、だいたいがそのように面白みに欠けたものなのだ。

それゆえ食事をするうえで、まず考えるべきは、

・必要な栄養素は何か?

・必要な摂取量はどのぐらいか?

・必要な摂取タイミングはいつか?

・必要な摂取回数はどれぐらいか?

こういったことになるのだろう。いっぽうで、食事において本質でない事柄は、

・美味しいか?

・食感はどうか?

・腹いっぱいになるか?

・雰囲気のいいレストランかどうか?

・食欲をそそる皿に盛られているか?

・最近食べたかどうか?

・中華か、フレンチか、イタリアンか?

といったことだ。「木」でたとえれば本質とは「幹」であり、美味しいかどうか、最近食べたかどうか、食感はどうか、というのは、「枝葉」のことだと思う。

極端なことを書けば、どんなに雰囲気のいいレストランで食べようが、腹いっぱいになろうが、栄養があまりに偏ったものを食べ続ければ不健康になってしまう。

そういった食事を「いい食事」とは呼ばないだろう。当然、ビジネスの世界でもそうだ。大学のサークル活動でもないし、高校生の部活動でもない。ボランティア活動でもないのだ。だから、

・組織風土

・従業員エンゲージメント

・心理的安全性

・モチベーション

といったものは本質ではない。「枝葉」の要素である。本質というのは、前述したとおり、つまらなくて、多くの人を魅了するような要素ではないのだ。

それでは、ビジネスの本質とは何か? 働くうえで最も意識すべきこと何なのか?

■「心理的安全性」と「働きがい」の違い

昨今「心理的安全性」という言葉もやたらと使われるようになった。しかし「働きがい」と違って、この言葉の意味はわかりやすい。漢字を分解すれば、誰でも意味を推測できるからだ。

私は「心理的安全性の高い会社に入社したい」という人の気持ちはわかる。何となく人間関係がギスギスしたような、そんな会社で長い期間働くのは誰だって嫌だ。

いっぽう「働きがい」という言葉には「働く」という言葉が含まれているので「心理的安全性」とはかなり意味が違う。

この言葉も同様に分解してみればわかるだろう。「働く」と「かい(甲斐)」の二語である。

「甲斐」というのは当然、「やった甲斐があった」という風に使われる表現であり、過去を振り返って覚える感情のことである。とりわけ、勇気をもって、努力して、覚悟をもって、やったあとに覚える感情だ。

たとえば、営業成績の上がらない部下がいたとしよう。しかし、その部下は最近、家庭の事情で仕事に身が入らないほど疲れているようだった。そこで、上司が見るに見かねて、こう声をかけたのだ。

「いつまでも落ち込んでいても、しょうがないだろ。別れた奥さんは戻ってこない。気持ちを切り替えて、仕事に打ち込んだらどうだ。俺は君に期待している。君ならやれるよ」

このように話したところ、

「そうですね。私が借金を隠していたことが問題だったわけですから、自業自得。落ち込んでいても、しょうがないですよね。わかりました、課長。そのように言ってくださって、ありがとうございます。頑張ります」

部下がそのように心を開いてくれたら、このとき、この上司は、

「言った甲斐があった」

という感情を覚えることだろう。

「勇気を出して言ってよかった。言った甲斐があったよ」

と、このように。

つまり「働きがい」とか「やりがい」というのは、「働いた甲斐があった」「やった甲斐があった」という感情のことである。当然、勇気を出して、覚悟を決めて何かの行動をしたあとに覚える感情だ。

したがって、何もする前から「働きがい」だの「やりがい」だのという感情があるかどうかは、推し量ることはできない。

もっとわかりやすい例を出そう。たとえば税理士や会計士、社会保険労務士などの資格をとるために、資格学校に通おうと考えたとする。その際、「勉強しがい」のある学校を選ぶだろうか? 

「甲斐」とは、努力した効果の検証である。本質ではない。

「働きがい」は「働く」の本質ではないし、「やりがい」は「やる」の本質ではない。「働きがい」も「やりがい」も結果論である。それを求めて働くわけでもないし、やるわけでもない。

つまり、目的とはなりようがない要素であることを忘れないでほしい。「働きがい」という感情は。

■ビジネスの本質とは何か?

それでは「働く」の本質とは何なのか? 

国民の三大義務から考えてみる。日本国憲法には、「教育の義務」「勤労の義務」「納税の義務」という3つの義務が定められていて、私たち日本国民はそれを守らなければならない。

働くために勉強し、働いて税金を納める。それを私たちは課せられているわけだが、では働く本質とは税金を納めることなのか? いやそうではない。私たちは納税マシーンではないのだから、税金を納めることが働く本質ではないだろう。ただ言えることは、収益を上げない限り納税はできない、ということだ。本質ではないにしても、働いているだけでは義務を果たすことはできないと覚えておこう。

それでは「働く」という言葉よりも「ビジネス」という表現について触れてみたい。

私は経営コンサルタントとして、すべての働く人に伝えたいことがある。それはVUCAの時代になってから、最低限のビジネスセンスを持つべきだということだ。雇用される側の立場であったとしても、である。

※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べて「VUCA」という。現代は、「VUCAの時代」だと呼ばれて久しい。

ビジネスセンスとは、もちろん「ビジネス」の「センス」である。デザインセンスがある人は、デザインが何かをわかっているし、歌のセンスがある人は、歌が何かをわかっている。

したがってビジネスセンスがある人はビジネスとは何か。ビジネスの本質とは何かを正確に理解している。

安宅和人著『イシューからはじめよ』に書かれてあるように、質の高い仕事をするためには本質(イシュー)を見抜くところから始めなければならない。そうしなければ、大きく遠回りするか、いつまでたっても成果を手に入れられないからだ。

それではビジネスの本質とは何であろうか。ビジネスモデルという表現から探ってみる。ビジネスモデルとは『収益を生むストーリー』、もしくは『収益を生み出す設計図』のことだ。

先述した通り、納税は義務であるから収益を生まなければならない。そしてボランティア活動をしているわけではないのだから、働く人に物心両面の豊かさを味わえるぐらいの経済的報酬をもたらすことが求められる。

だからビジネスをやる以上は収益を出し、税金を納めても手元に残る十分なお金を作ることが必要だ。

有名経営者の講演を聴講すると、

「お金を追求してはならない」

という言葉をたまに耳にする。もちろん必要以上にお金を追及してはならないし、誰かの犠牲の上に成り立つ経済的成功は醜い。しかし、ボランティアではなくビジネスをやっているのであれば、「最低限生きていくだけのお金を稼ぐだけでいい」という話にはならない。

もっと豊かになりたいという願望があるからこそ企業は成長するし、経済は発展するのだ。

だからビジネスの本質は「お金儲け」なのである。食事の本質が「必要な栄養をとること」と似て、とても味気ないが、事実そうなのである。

繰り返すが本質は前提だ。だから必要な栄養がとれ、そして美味しい食事ならいいが、ただ美味しいだけの食事は、本質から外れていると言える。

同じように「働きがい」は感じられるが、赤字で、従業員の物心両面を満足させる報酬を支払うことができないような会社は「いい会社」とは言えない。

帝国データバンク調べでは、実に70%近い日本企業が赤字企業である。この割合は20年以上変化していない。そのため世の中の7割ぐらいの会社で働く人は、まず「働きがい」以前に、ビジネスの本質である「お金儲け」を考え直すべきだ。黒字化して正しく納税することである。

赤字企業が減らないと税収が増えないため、日本政府は何らかの形で増税せざるを得なくなる。

■社会貢献は本質ではない

ビジネスの本質は「社会貢献」だという人もいるが、それならボランティアをメインの活動にしたらいい。最低限の収入で社会貢献活動をしている人と区別しないと、おかしな話になる。

昨今はSDGsやESGというキーワードが報道で多く取り上げられている。すべての人が地球の環境について意識を向けることは、きわめて重要なことだ。環境に配慮した企業活動を志すことにも、おおいに賛成する。

私が青年海外協力隊時代、環境アセスメントに精を出していた同期隊員がいた。私もよく諭された。25年以上も前のことで、時代は大きく変わったなと思う。

私は21歳から30年以上、知的障がい者のボランティア活動を続けている。この間、ビジネスについて、ボランティアについて、ずっと考え続けてきた。

私なりの結論はボランティアはボランティア、ビジネスはビジネスである、ということだ。社会に配慮した活動をするのだから「お金儲け」はどうだっていい、ではいけない。好きとか嫌いとか関係がない。ビジネスは、お金を儲けることが前提だからである。

■ビジネスセンスがある人は?

ここでもう一度ビジネスセンスについて触れておこう。ビジネスセンスがある人は必ず「お金儲け」について理解している。十分に収益を生まないような赤字経営は絶対に避けたいと願う。

そしてセンスがある人は日本語を正しく使う。

「いいものを作れば必ず売れる」

とか、

「利益は必ず後からついてくる」

といった、きれいごとを言わない。これらの言い方は「収益を生み出すストーリー」として日本語がおかしいからだ。

お金を生み出すのは誰なのか? 当然「私」である。もしくは「私たち」である。だから主語は必ず「私」か「私たち」でなければならない。少なからず人間であるはずだ。「製品が売れる」「利益が出る」といった主体性に欠ける表現はしない。

自分自身でその「ストーリー」を作れるか。「設計図」を描けるか。ここが問われているのだ。だからビジネスセンスがある人は主体的なお金儲けのことがわかっている。そしてお金が持つインパクトの大きさもわかっている。「お金がなさすぎる」リスク、「お金がありすぎる」危険性も熟知している。

だからこそ、お金をどのように主体的に生み出せるのか。そのことが正しくわかってもいないのに、

「お金のことを考えるのは汚い」

と受け取る人は、お金について軽視しているし、ビジネスの本質を理解していない。だからビジネスセンスがないのだ。

■お金の大切さを知ってほしい

ビジネスについて私の考えを書いた。ビジネスの本質は「お金儲け」である、ということだ。

そして「働く」人は、必ずビジネスを意識してもらいたいと思っている。日々の「作業」をこなすことが「働く」意味ではないのだ。

毎日出勤し、普通に働いているだけで、自動的に給与が振り込まれると受け止めている会社員はお金に無頓着かもしれない。しかし会社を辞め、収入減を失ったとき、1万円を稼ぐのにどれほど大変か。身に染みることであろう。

1万円どころか、千円も稼ぐのは簡単ではない。100円でもそうだ。

すでに家にあるものをヤフオクやメルカリで売れば小銭は稼げるだろう。しかし、そのリソース(資源)が底を尽きたらどうなるか。何か売れそうなもの(有形でも無形でも)を仕入れ、付加価値をつけて販売しようとするだろうか。とはいえ、それをどのように売るのか。誰がいくらで買ってくれるのか。そのストーリーは描けるだろうか。

どんなにクオリティの高いものを製作しようが、市場に何も働き掛けないと勝手には売れてくれない。意識しないままに儲かることはないのだ。だから自分自身で主体的に売るのである。

実際にやったことがない人にはどのように説明しても理解できないだろう。自分自身でお金儲けをしてはじめて、その難しさを知り、お客様にも仕入れ先にも感謝できるし、手に入ったお金を大事にしようと思うのだ。ビジネスの原点はここにある。

借金に苦しんだ経営者を、当社の税理士やコンサルタントはいつも目にしている。資金調達に走り回る経営者を支え、銀行やファンド会社に帯同し、一緒に頭を下げて回る同僚たち。そんな彼ら彼女らを、私は知っている。

そんな姿を目にすると、お金の大切さが骨身にしみるのだ。

本質を押さえれば、健全な感情や感覚も手に入るものだ。栄養価の高いものを食べれば、美味しいと思えるようになるのと同じ。

しっかりお金儲けしようと創意工夫することで、「働きがい」も覚えられるようになるものだ。本質から目をそらさず、そこから始めることが重要だ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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