「#metoo」で考えたい、セクハラ報道のリスクと心得
海外で始まった#metooのうねりは、日本でも広まりつつあります。12月17日に公開された、BUZZFEEDのセクハラ告発記事は、大きな話題となりました。
ネット上でも自分も被害に遭ったことを示す「#metoo」をつけた発信が相次ぎ、今後、セクハラなど性被害の告発・報道が増えるかもしれません。
「性暴力被害取材のためのガイドブック」という小冊子があります。これは、被害当事者が取材を受ける際の負担やリスクを減らすために制作されたガイドブックです。取材を受ける側・取材する側双方へのアドバイスが掲載されています。
■取材を受ける側が感じた不安・疑問が制作のきっかけ
このガイドブックは、「性暴力と報道対話の会」が2016年に制作しました。
「性暴力と報道対話の会」は、性被害の当事者が取材を受けた際に、不安や疑問を感じたりした経験から、「報道(メディア)と対話する場所を設けたい」とスタートした会です。性被害当事者と、テレビ局・新聞社の記者などの報道関係者が参加し、定期的に勉強会を開催しています。
ガイドブックのタイトルにある「性暴力」という言葉が重く感じられ、最近話題になっている「セクハラ」と「性暴力」は違うと感じる人もいるかもしれません。性被害支援の現場では、「性暴力」は性に対する人権侵害の総称です。
ガイドブックには、性被害当事者が取材で感じた良かったことや困ったこと、記者側の取材時の工夫などが掲載されています。
取材時に記者の説明が足らず、被害当事者を傷つけてしまう場合があります。たとえば、取材する側が「話せる内容だけ話してくれればいい」と思っていても、取材を受ける側が「起こったことは全て話さなければならない」と大きなプレッシャーを感じている場合もあります。
■取材を受ける当事者にはリスクがある
ガイドブックの中には、下記のような文章もあります。
取材者と取材対象者の間で齟齬がないように気をつけることは、どんな取材でも同じです。ただ、性被害当事者の場合、取材時のストレスが取材後のうつ症状やフラッシュバックにつながることがあると、知っておく必要があります。
取材時は気持ちが高ぶっていても、記事掲載後(番組放送後)に気持ちが落ち込んだり、想像以上の二次被害を受けることもあります。
もちろん、「何を聞かれても大丈夫」という当事者もいます。一方で、自分から「被害を告発したい」と思っていても、報道後に気持ちのコントロールが効かなくなることもあります。
当事者によっても取材時や取材後に何を感じるかはさまざまで、正解はありませんが、当事者にとってのリスクを、報道側は心得ておくべきだと思います。
■性暴力被害の知識、共有を
これまでは、「重たい」「暗い」「扱いづらい」と敬遠されがちだった性被害のニュースが、#metooの流れで取り上げられやすくなるのは前進だと思います。被害当事者の中には「現状を変えるために、被害者への偏見をなくすために、報じてほしい」という思いを持っている人もいます。
気をつけなければならないのは、性暴力・性犯罪は「報道被害」「二次被害」も起こりやすいテーマだということです。
性被害の報道に関するノウハウは、日本ではまだ蓄積があるとは言えず、「性暴力被害取材のためのガイドブック」も、今後更新されていく必要がありますが、現時点でのまとめはなるべく共有されるといいと願っています。
また、以前の取材で、支援団体の方が、「性暴力に関する基本的な知識や情報を提供する報道」「本当の被害者理解、被害者へのサポートになる報道」「報道の誤りを正すような、性暴力被害者をサポートする立場に立つ『有識者』を迎えた企画」を要望していたことが心に残っています。
有名人の事件や告発があるとセンセーショナルな報道が先行しがちですが、影響力の大きいテレビでは、性暴力の知識がないコメンテーターが発した一言が被害者への偏見を招くこともあります。
一方で、取材対象と信頼関係を築きながら問題を深く掘り下げた取材を行っている記者もいます(下記、【性犯罪報道】の関連記事で紹介)。性暴力取材の現場で何が求められるのか、未来につながる情報をどのように伝えていくべきなのか、これからも考えていきたいと思います。
(性暴力と報道対話の会についての関連記事)
【性犯罪報道】何を報じるのか、報じないのか。記者の葛藤とこれから(2016年12月27日)
【性犯罪報道】自粛だけではなく「理解ある報道を」 ノウハウの蓄積を求める声も(2017年1月25日)
性暴力 当事者と記者が協議 被害の実態、伝え方指針公表(2017年1月9日/毎日新聞)