日本の大企業に潜む「アラ定(アラウンド定年)」の深刻な問題
「最近の若者はやる気が見られない」という上司のぼやきは、今は昔。そんなぼやきを言っている場合ではない時代が、いよいよ本格的にやってきます。日本企業は、少子高齢化という問題を「部下育成」という身近なシーンで、嫌というほど味わうことになるでしょう。
私は企業の現場に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。仕組みの構築やスキルアップが目的ではなく、「結果」が求められる支援をしています。そのせいで、過去のやり方に固執している人の思考や行動パターンを変えなければならないことが多々あります。組織内のコンフリクト(衝突)は頻繁に発生します。経営者vs中間管理職、工場vs営業部、ベテランvs若者、正社員vsパートスタッフ……など等。
特に多いのが「上司vs部下」です。
しかし一昔前までは、「ベテラン上司vs若者部下」であった構図に、今は「ミドル上司vsアラ定部下」という構図も加わりつつあります。(「アラ定」とは、「アラウンド定年」の略。還暦間近の方を「アラ還」と呼びますが、年齢ではなく、定年退職の時期に近づいているかどうかを基準にしています)
30代、40代の課長や部長職の方が私の研修を受け、
「60歳を過ぎた部下が私の下に異動してきました。行動指標を決めても、まったくやり切ってもらえません」
「昔、世話になった上司が私の部下になり、本当に困っています。昔ながらのやり方を変えてもらえないので、チームの空気が締まらないのです」
……このような「ぼやき」を口にする人が急増しているのです。
20代の若者を前にして悩むのは、ある意味健全ですが、人生の先輩である10歳以上も年上の方が部下についたら、誰でも戸惑うことでしょう。しかも相手が定年間近であると、なおさらです。
「Aさん、イベント参加者に対するフォロー電話を今週水曜日までに終わらせておく約束だったじゃないですか」
「ああ、そうだっけ?」
「そうだっけ、じゃなくて……。全員、水曜日まで終わっています。Aさんだけですよ、終わってないのは」
「だいたいフォロー電話なんて必要なのかね? 昔はこういうやり方なんてしなかったけどなァ」
「今さら言わないでくださいよ。組織で決めたことなんですから。これじゃあ若い人たちに示しがつきません」
「私は後2年で定年なんだ。そう追い込まんでくれよ」
「アラ定」の方で問題なのは、無邪気に開き直ることです。若者が「入社してまだ2年なんですから、できなくて当たり前です。わかりますよね?」とあっけらかんと言ってきたら「ふざけんな!」と上司は一喝できます。しかし定年間近なベテランの方が「あと少しで定年なんだから、勘弁してくれよ。わかるだろ?」などと、少年のような無邪気さで開き直られると、上司は頭を抱えます。
理屈に合わない言い分ですが、相手が「人生の先輩」である以上、キツく言えないのです。
今後、日本のミドルマネジャーは、入社2~3年目の若者部下と、定年まで2~3年のアラ定部下を同時にマネジメントしていかなくてはならない時代が来ます。心の病に悩む部下や、育休をとる男性の部下、親の介護……など、特に大企業で働くミドルたちは、昔はなかった様々な問題に直面していくはずです。
今の日本企業は、30~40代のミドルマネジャーによって支えられています。「アラ定」の方々は、こういったミドルの心の支えになるだけでなく、手足となって動かなくてはならない時代になってきたことを自覚しなければなりません。