「福島第一原発」凍土壁失敗は何を生む 誤解の先にある次世代への責任
福島第一原発の海側凍土壁が99%凍ったが、効果を上げられず有識者は計画は破綻していると評価したと報じられました。
ヤフートピックスにも上げられたことから、凍土壁が効果をあげないことに、多くの方が私達の生活そのものに影響を与える状況のまま福島第一原発があると心配されていると思います。
これは恐らく凍土壁が原子炉建屋内にある高濃度汚染水を海に漏らさないための対策と誤解されているからではないでしょうか。
現場側では凍土壁は全く別の目的で作られています。その目的の意図するところを知ると、凍土壁に関するニュースで私達が本当に理解すべき問題が見えてきます。
漏らさないではなく増やさない
こちら「汚染水を増やさない対策「凍土壁」運用開始 サブドレンポンプの運用が最大の肝」で既にお伝えはしていることではあります。
汚染水を増やさないことが目的の対策が凍土壁です。
この目的への理解を進めるためには、汚染水がなぜ増え続けるのか?と汚染水がなぜ生まれるのか?と、そして汚染水が封じ込めてられている仕組みを順にお伝えすることが必要になります。
汚染水がなぜ増え続けるのか?
2つの理由があります。1つが建屋に直接入る地下水、2つ目が建屋に引き戻す汚染した地下水です。
1.建屋に直接入る地下水
原子炉建屋、タービン建屋といった建屋が各々独立しているように見えます。ですが原子力発電所はそれぞれの建屋が地下で繋がっています。その地下で繋がっている部分が地震および水素爆発により亀裂が入っています。
その亀裂から地下水がしみ入り、建屋内の高濃度汚染水と混じる状況となっています。現在のところその量は1日当たり150m3ほどと計算されています。
2. 建屋に引き戻す汚染した地下水
事故当時に遡ります。福島第一原発は海水を引き込み、設備の冷却に使っていました。その為、海側と通称呼ばれる一体は構造上、海と繋がっていました(この海水を引き込む配管が通っていた場所がトレンチと呼ばれる場所です)
建屋内の高濃度汚染水はそのまま海へと流れ出ました。その後、海水引き込む入口(取水口と言います)ごと港湾を埋め立て、地下水が海へ流れないよう水ガラスという物で地盤改良、前述のトレンチの封鎖(汚染水のくみ上げとセメントで充てん)、海側遮水壁の設置と海へと繋がる構造を根本的に改善しました。
その結果、海側まで流れ着いた地下水は海側遮水壁で最終的に堰き止められます。対策(構造上の改善と汚染水のくみ上げ)は打ちましたが、建屋に流入せず海側に廻り込んだ地下水が残留汚染により汚染しているのが実情です。
その残留汚染により汚染した地下水を地下水ドレン、ウェルポイントと呼ばれる井戸でくみ上げ、検査し海に流れ出ないよう建屋に引き戻しています。この量は建屋に直接流入する地下水量より多く、現在1日当たり約250m3と評価されています。
この2つの地下水が結果、建屋内の高濃度汚染水に混じり増えるということに繋がっています。単純に足せば1日約400m3ほどですので、貯蔵タンクが2,3日で一杯になる状況が続いているということです。
汚染水がなぜ生まれるのか?
1から3号機の原子炉圧力容器内にある核燃料は溶融し圧力容器を貫通しています。この溶け落ちた核燃料(デブリと呼びます)は、事故当時の熱量の1万分の1とはいえ、冷やし続けなければならない状態です。
この冷やすための水がデブリに触れ、原子炉建屋の地下に溜まった高濃度汚染水と混ざることで汚染水となります。
建屋地下の高濃度汚染水は浄化され再度冷却水として注入されます、それがまた高濃度汚染水となる。ぐるぐると循環しながら冷やすため循環冷却方式と呼ばれています。
デブリそのものが汚染源となっています。これらの取り出しは相当な年数がかかると見られています。ですので、汚染水が生まれる仕組み自体はデブリ取り出しが成されるまで解消されることはありません。
汚染水が封じ込めてられている仕組み
ここが凍土壁の目的が誤解されている原因かと思います。前述した海との隔離(トレンチ内汚染水のくみ上げ及び充てん、海側遮水壁の完成)済んだ今、以下の理由からも封じ込められていると考えられています。
1. MAAP解析コードによりメルトスルーはしていないと推定されている
MAAP(Modular Accident Analysis Program) は、米国電力 中央研究所 (EPRI) が所有する過酷事故解析コードです、事故時の原子炉圧力容器 (RPV) および格納容器 (PCV) 内の熱水力・核分裂生成物挙動を一貫して評価し、プラントの確率論的安全評価やアクシデントマネジメント策の検討で広範囲に活用されてきたものです。
こちらを福島第一原発にも導入し、冷却水の注水量の評価もしています。各号機のデブリ状況については、1号機は格納容器の底のコンクリートを最大で70cmほど削って止まっている。2,3号機については大部分が圧力容器内に残り、一部が格納容器の底に落ちコンクリートをほとんど削っていないとされています。
MAAP解析とコアコンクリート反応の検討について 平成23年11月30日 東京電力株式会社
解析上はメルトスルーはしていないという評価がされています。それらを確認するための調査として、ミュオン測定装置を用いて原子炉建屋の透視撮影や、ロボット導入による格納容器内並びに圧力容器内の目視確認が続けられています。
福島第一原子力発電所 2号機 ミュオン測定による炉内燃料デブリ位置把握について
2. 地下水がわざと建屋内に入るようにしている。
建屋の地下の貫通部亀裂により地下水が入る状態はわざとキープしています。それは地下水でもって建屋内汚染水を封じ込めるためにです。サブドレンポンプが最大の肝と報じたこちらの記事では、このわざと入る状況が汚染水を漏らさない最大の効果を示していることを書きました。
大変長々と説明を書きましたが、凍土壁の目的は地下水の流入を少しでも減らすための対策であり、海に漏らさない対策と汚染水の封じ込めは別な対策を打っているということです。
ここで、こんな思いを抱いた方もいるかもしれません。凍土壁の現状の進展は海への汚染を防ぐことを目的としていないならば、大きな問題ではないじゃないかと、なぜ莫大な国税を使い汚染水を増やさない対策をしているのか?
理由はとても単純です。放射性廃棄物の処理が確立しておらず、取りあえず貯めておく状態(保管状態)にしか今はできないからです。
処理方法が確立するまでの間は、放射性廃棄物がこれ以上増えないようにする対策を進めていくことが必要ということです。
汚染水が増えるということは次の世代に負の遺産を残すということ
建屋へ直接流入する地下水、地下水の汲み上げて建屋に引き戻す、これら二つの要因により、建屋の中で増えた高濃度汚染水(50億ベクレル/リットル)は浄化設備を通して最終的にトリチウムという放射性物質を含む「浄化済み水」(数百ベクレル/リットル)として保管されます。
ざっくりと言えば、浄化設備で放射性物質は取り除かれ、1000万分の1まで浄化が進んで蓄えられています。
この時、魔法のように放射性物質が消えるわけではなく、吸着塔といった放射性物質を取り除くために使われた吸着材は高濃度放射性廃棄物として新に発生し、発電所構内に保管し続ける状態となっています。この先の処理についてはまだ決まっていません。
浄化済み水(トリチウム水)も貯め続ける状況が続いています。こちらについては現在減らすといった方針で下記の3つの案が挙がっています。
1.これまで原子力発電所を運転すると日常的に薄めて海へ捨てていたもの、自然界の海にも存在するものとして、希釈して海へ捨てる。
2.コストをかけトリチウムも取る。
3.大気中へ放出する
といった3案は上がっていますが、福島第一原発から放射性物質が含まれる水が捨てられるといった言葉が持つ意味を考えれば、今は社会合意も取れておらず、減らすということが出来ません。
また、忘れがちなのがトリチウム水を貯めているタンクそのものも、社会合意を得ることが出来なければ捨てられないゴミとして扱われるということです。
福島第一原発のタンクとして使われていた金属を再利用します。こんな言葉で将来金属リサイクルが始まったとした時、冷静でいられるかということです。
私たちが厄介な物と扱う物は次の世代の人たちにとっても厄介な物です。そうした意味で負の遺産の継承問題として増え続けることは大きな問題といえるでしょう。
ここまでお話しさせて頂いたところで、凍土壁が上手くいかないことで想定されるリスクが見えてくると思います。
凍土壁が上手くいかない=福島第一原発が危険=生活が成り立たないではありません。
次の世代への負の遺産処理が上手くいっていないことが見えてきます。
凍土壁が上手くいっていないそれは事実です。
凍土壁が上手くいかない、東電は何をやっているんだ!とそれで終わってしまっては、実は私たちは知らずのうちに負の遺産が作られていることに気が付けません。
取り組みへの誤ったイメージも然りです。
福島第一原発に関わるニュースは今後も端的な情報として配信されていきます。その時、それが私達の生活に直結する問題なのか、それとも次世代に残してしまう問題なのか、見極めることは原子力事故から約5年半経った今、難しいことかもしれません。
ですが福島第一原発は事故処理から廃炉への道を進んでいる、すなわち放射性廃棄物処理を行っているという視点を持つことで、ニュースを正しく理解できることと思います。
そして放射性廃棄物の処理状況はどうなっているんだという視点の先には、後世にどのような形で放射性廃棄物の処理を委ねていくのかと考えが生まれていくことと思います。