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柔道場で柔道着を着て柔道技を使えば、罪に問われない?!

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

「柔道事故」から「柔道事件」へ

「柔道事故」の一部事案を市民はいま、「柔道事件」と呼ぼうとしている。

滋賀県愛荘町立秦荘中学校で2009年7月、当時中学1年の村川康嗣さんが、柔道部の練習中に顧問(柔道3段)に投げられ、急性硬膜下血腫により翌月死亡した。その事故について、大津地検は2013年7月に顧問を不起訴処分としたものの、大津検察審査会が今月9日に「起訴相当」の議決を下した。検察審査会とは、検察が不起訴処分とした案件について、市民の代表が審査するものである。すなわち市民が、上記顧問を刑事裁判にかけて罪を問う必要があると判断したのである。今後改めて地検による捜査がおこなわれる(再度不起訴の場合、検察審査会が二度目の審査をおこなう)ため、これだけで起訴が確定したわけではないものの、市民がこの案件を起訴相当としたことの意味は大きい。偶発的に生じた「事故」ではなく、刑事罰に問われるべき「事件」として、柔道事故が扱われようとしているのである。

「事件」で命を落とした村川康嗣さんは、柔道についてはまったくの初心者で、スポーツ経験自体が乏しい生徒であった。喘息も患っていた。顧問は、気温30℃を超えるなかで部員に3時間を超える練習を強いて、最後に部員たちに無制限の乱取を指示した。そこで最後まで取り残されたのが康嗣さんであった。顧問が自ら乱取の相手となり、康嗣さんを投げて、康嗣さんは意識を失った。乱取を開始して26本目の出来事であった。すでに乱取の18本目あたりから、康嗣さんはかなり脱力しフラフラの状態であった。それにもかかわらず、乱取が強制され、悲劇が訪れたのである。

柔道場で柔道着を着て柔道技を使えば、罪に問われないのか!

じつはこれまで、顧問が直接に加害者となったかどうかを問わず、過去に学校管理下で起きた118件の柔道による死亡事例(1983年度~)のうち刑事裁判にまで発展したものは1件もない。町道場にまで広げてみても、大阪市此花区で2010年11月に指導者が小学校1年生男児を投げて死亡させた事案(100万円の罰金刑)と、長野県松本市で2008年5月に指導者が小学校6年男児を投げて脳に重度の障害を負わせた事案(4月30日に判決)の2件のみである。

顧問によるしごき(投げ技・絞め技)の末に息子さんが記憶障害を残すこととなった小林恵子氏は、それでも刑事責任が問われなかった事態について、次のように語っている。

「柔道場で柔道着を着て柔道技を使えば、どこからが犯罪で、どこまでが柔道か、線引きは難しいので立件はできない」と通告されました。

出典:小林恵子、2011、「続発する柔道事故における社会的及び法的責任」『季刊教育法』168:19-25.

この経験を受けて小林氏はこれまでずっと、「柔道場で柔道着を着て柔道技を使えば、罪に問われないのか!」と、刑事責任が問われない現状を訴えてきた。「いやいや、それはもはや指導の範疇を超えていますよ」――市民はいま、そう答えを出そうとしている。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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