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アン・シネ単独インタビュー 日本ツアー再挑戦を決意!「引退はない。自分が誰なのかを知る機会に」

金明昱スポーツライター
アメリカで調整を続けているアン・シネ(写真・本人提供)

 “セクシークイーン”の愛称で日本でも知られる韓国女子プロゴルファーのアン・シネ。

 彼女のインスタグラムを見て驚いたのは、今月にアメリカにいたこと、そして現地のゴルフ場で練習に励んでいる姿が写真と動画に上がっていたからだ。

 旅行をかねたプライベートゴルフなのか? もしくはまだ現役のプロゴルファーとしてツアーに挑戦する気持ちなのか。

 それを確認するため、アン・シネに直接連絡を試みた。メッセージ・トークアプリのLINEやカカオトークを送っても、忙しくて返事は帰ってこないときが多い。

 ただ、今回は返事がすぐに帰ってきた。

「インタビューは大丈夫です」

 2022年をどのように過ごすべきかが明確に決まったのだろう。

 アン・シネの現在の心境とこれからについて、電話で話を聞くことができた。

12月中旬からアメリカ入り

「12月中旬からアメリカに移動して、今は様々なゴルフ場を転々としながら練習やラウンド、トレーニングを続けています。コロナがあるので、なるべく外出せず、ゴルフ場と家を行ったり来たりするのを心掛けています。2月初めまで滞在します」

 開口一番の声はとても明るく、充実した日々を送れている様子が伺えた。

 アン・シネが日本ツアーで最後に姿を見せたのは2019年10月の「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」。昨季(2020-21年)もツアー出場資格はあったが、コロナ禍の影響もあって、一度も来日できていない。

 2019年には満を持して挑んだプロテストでも合格を勝ち取って正会員となり、日本ツアーで戦う意欲に満ちていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大がアン・シネの気持ちに変化をもたらした。

「日本ツアーには出たかったのですが、コロナ禍で日韓を行き来するのが難しく、隔離生活を余儀なくされること、ビザの問題もありました。ワクチンがまだなかった当時は、感染のリスクが高く怖かったのもあります」

 いまだに収束の気配がない新型コロナウイルスだが、感染者数が減っても、新たな変異株が出れば状況が一変する。そんな状況では試合に集中するどころではないのも理解できる。

 ただ、アン・シネは完全に日本で試合に出ることを諦めたわけではなかった。

「状況が良くなれば日本に行こうと常に考えていたんです。ようやくそのタイミングが来たと感じています」

JLPGA新人セミナーにリモート参加

 実はアン・シネは、昨年12月に開催されたJLPGAの「新人セミナー」にオンラインで参加している。

 JLPGA入会1、2年目の会員が対象。2019年にプロテストに合格したアン・シネもその対象で、きっちり参加しているのをみると、日本ツアー参戦をまだ諦めていないという意思表示だったのだろう。

「当初は色々と悩みました。引退についてやそうした考えもその都度、たくさん変わりました。でも、時間が経つにつれ『自分の体が動くなら、やりたいようにやろう』と考えながら過ごすようになりました」

 確かに昨年7月に1年半ぶりの実戦となった韓国ツアーの「DAEBO hausDオープン」に推薦で出場した際、韓国メディアに「引退を考えなかったわけではなかった」とも告白していたが、結果的にはそうした決断には至らなかった。

昨年7月の韓国ツアーに推薦で出場したアン・シネ。1年半ぶりの実戦だった(写真・KLPGA)
昨年7月の韓国ツアーに推薦で出場したアン・シネ。1年半ぶりの実戦だった(写真・KLPGA)

今季は推薦からレギュラーツアー出場狙う

 現状、アン・シネは日本ツアーの出場権は持っていない。つまり、レギュラーツアーには推薦枠からの出場しか道がない。

「私が試合に出たくても、推薦での出場となるので、招待してくれる大会があるなら、それはそれでとてもありがたいことです」

 必ず大会から推薦が得られるという保証はないが、最大で8試合は出場が可能だ。

 限られた試合の中で結果を残さねばならず、簡単なシーズンではないが「温かくなる4月以降から出られるように準備を進めていますが、そうなればうれしいです。そのためにもしっかりと調整を続けていきます」と意気込む。

 アン・シネは今も日本ではファンを多く抱える人気プロである。

 タイトなウェアでの見た目の派手さが話題になるが、「プロとして魅せることも仕事」という意識の高い選手であることは、これまで本人から何度も話を聞いてきた。

 実績も韓国ツアーでは通算3勝しており、そのうち1勝はメジャーの「韓国女子プロゴルフ選手権」。毎年開催される同大会の会場には、歴代優勝者の写真が飾られており、アン・シネも歴史に名を刻んだ選手の一人だ。

 2017年に日本ツアー初参戦してからは“セクシークイーン”の愛称で人気を博したが、仮に今季出られる試合があるならば、新たな話題を振りまいてもらいたいとも思う。

「自分探しの機会にする」

 今季の目標について聞くと、慎重にこう語り始めた。

「試合に出て優勝するという目標とかではなく、自分が誰なのかを知る機会にしたいんです。この2年間で、自分が一体何者なのかわからなくなるときがありました。私もツアーで選手たちと戦ってきた選手なのに、かつては優勝したこともある選手なのにもかかわらずです。日本でもプレーしてきたのに、もう他人が話す昔話のように感じるんです。自分を失った感覚があるので、自分を探しに行くこと、これが第一の目標です」

 アン・シネが日本で試合に出れば、もちろんメディアは放っておかないだろう。必ず何かしら話題になり、注目されることで、彼女もまた自分が何者であるのかを感じられるはずだ。

 31歳になる彼女だが、まだ引退する年齢ではないだろう。現在、アメリカでは体力を向上させること、落ちた飛距離を取り戻すことを重点に練習に取り組んでいる。

 今季は推薦でいくつ試合に出られるかわからないが、若い世代が台頭する日本女子ツアーの中で、“セクシークイーン”旋風の再到来を期待したい。

カメラに向けて笑顔で手を振るアン・シネ。今年は日本ツアーで見られるか(写真・MHN Sports Kwon HyukJae)
カメラに向けて笑顔で手を振るアン・シネ。今年は日本ツアーで見られるか(写真・MHN Sports Kwon HyukJae)

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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