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シリア政府と反体制派が平和的且つ正式な権力移譲で合意:アサド大統領の所在は不明

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

「シリアのアル=カーイダ」として知られるシャーム解放機構(HTS、旧シャームの民のヌスラ戦線)が主導する「攻撃抑止」軍事作戦局が11月27日にシリア北部での一大侵攻作戦を開始してから12日目となる12月8日、同軍事作戦局は首都ダマスカスに入った。

「攻撃抑止」軍事作戦局の進入により、シリア軍との間で散発的な交戦が発生したようだが、首都ダマスカスは事実上無血開城された。

首都ダマスカス、そしてシリアの情勢はいまだ余談を許さないが、首都ダマスカスの無血開城に関して、現地からの情報によると、シャーム解放機構(「攻撃抑止」軍事作戦局)とムハンマド・ガーズィー・ジャラーリー内閣との間で、同内閣が暫定的に行政を担うことに合意したという。

この情報を裏づけるかのように、「攻撃抑止」軍事作戦局は12月8日午前6時39分、テレグラムに開設した専用のアカウントを通じて、シャーム解放機構の指導者であるアブー・ムハンマド・ジャウラーニーは以下の通り発表している。

アフマド・シャルア指導者:

ダマスカス市のすべての軍部隊へ、正式に引き渡されるまで、前首相の監督下に留まることになる公的機関に近づくことを固く禁じる。また、空砲を禁じる。

#軍事作戦司令室

#攻撃抑止

Telegram、2024年12月8日
Telegram、2024年12月8日

また、内閣のフェイスブックの公式アカウントでは、午前8時15分、ジャラーリー首相が自宅で撮影したビデオ声明を掲載し、ダマスカスに留まり、公的機関の運営に尽力し、国民に教育、保健、電気などのサービスを提供し続けると表明し、政府関係者、反体制派の双方に協力を呼び掛けた。

Facebook (@SyrianPrimeMinistry)、2024年12月8日
Facebook (@SyrianPrimeMinistry)、2024年12月8日

ジャラーリー首相の声明の概要は以下の通りである。

私は皆さんの一員であり、皆さんは私の一部です。私は自宅におり、この国への帰属意識ゆえにここを離れることはしません。外国を知らないからです。

人々がこの国やその機関、施設を大切に思いながらも、不安や恐怖を感じているこの時に、私は国の公共施設を守ることを重視しています。それらは私のものでも他の誰かのものでもなく、すべてのシリア国民の財産です。我々は、この国の資源を守りたいと願うすべてのシリアの市民に手を差し伸べています。

すべての市民にお願いしたいのは、公共財産に手を出さないことです。これらは最終的には皆さん自身の財産だからです。私はここにおり、平和的な方法でしかここを離れるつもりはありません。公共機関や国家施設の機能を確保し、国民の皆さんに安心と安全をもたらすことを保証したいと考えています。

すべての人々が理性的に考えることを望みます。我々は、手を差し伸べてくる反体制派に手を差し伸べます。彼らがシリアのこの祖国に所属する人々に危害を加えないことを確約する限りにおいて。

私は常に、公的部門でも民間部門でも政府においても、この国の利益を最優先にして昼夜を問わず働いてきました。我々はシリアがすべてのシリア人の国であると信じています。シリアはすべての国民にとって自然な場所であり、近隣諸国や世界と自然な関係を築くことができます。地域的な同盟や派閥に参加する必要はありません。ただし、それはシリア国民が選ぶいかなる指導者の手に委ねられています。

ルアイ・ムナッジド国内通商消費者大臣ら閣僚そして省庁も同様の声明を内閣のフェイスブックのアカウントで公開した。

今後当面は、シリア政府(内閣)とシャーム解放機構の合意が履行されるかが注目される。

アサド大統領の所在について、「攻撃抑止」軍事作戦局は12月18日午前6時16分、「独裁者バッシャール・アサドは逃げた」と発表している。

Telegram、2024年12月8日
Telegram、2024年12月8日

これに関して、国家元首、軍武装部隊総司令官(大将)、与党バアス党党首(中央指導部書記長)、連立与党連合の進歩国民戦線書記長を務めるアサド大統領、そしてこれまで戦況報告を頻繁に行ってきた国防省からの発表もいまのところない。

権力移譲とともに、アサド大統領や国防省(つまりはシリア軍)の対応もまた、シリア内政において当面の注目点となる。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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