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アサド政権が崩壊したシリアでの戦闘は止まず:ロシア、トルコ、イスラエル、米国がシリアを相次いで攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

12月8日、シャーム解放機構が主導する「攻撃抑止」軍事作戦局が首都ダマスカスを制圧、国際テロリストに指定されている指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーことアフマド・シャルアが同地に入る一方、バッシャール・アサド大統領が家族とともにロシアに亡命した。これにより、反体制派の攻勢は一つの節目を受けたが、シリアでは戦闘が各地で続いた。

この戦闘を主導したのは、シリア軍でも「攻撃抑止」軍事作戦局でもなかった。

ロシア軍の爆撃

むろん、両者の小競り合いは発生してはいる。シリア北西部の地中海岸に位置するラタキア県では、トルコとの国境に面するカサブ町に「攻撃抑止」軍事作戦局を構成すると見られる武装勢力が侵攻し、シリア軍、そして親政権の民兵との間で激しい戦闘が発生、武装勢力が同町、そしてカサブ国境通行所を制圧した。

これに対抗するかたちで、ラタキア県とタルトゥース県に駐留を続けるロシア軍がラタキア県北部(トルコマン山地方)、そしてシャーム解放機構が支配するイドリブ県のジスル・シュグール市近郊の農村を爆撃した。

ロシア軍は12月6日にも、中国の新疆ウイグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党がラタキア県北部のシリア軍の拠点を攻撃したことを受けて、同地一帯を爆撃している。

トルコ軍とシリア国民軍の侵攻

シリア北部に目を転じると、「攻撃抑止」軍事作戦局の一大侵攻作戦に呼応して、「自由の暁」と銘打った軍事作戦を開始していたシリア国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)がトルコ軍とともに、アレッポ県東部の主要都市であるマンビジュ市およびその周辺などに対して、砲撃や無人航空機での攻撃を加えた。シリア国民軍はマンビジュ市に侵入、同地を支配し、トルコが「分離主義テロ組織」とみなし、米国の支援を受けるクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導するシリア民主軍と激しく交戦、シリア国民軍は同市を制圧したと発表した。

イスラエルによるAOIの掌握

それだけではない。イスラエル軍もシリアへの爆撃、そして地上侵攻を行った。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、第4次中東戦争を受けて国連のもとで1974年に成立していた兵力引き離し合意が「崩壊した」と主張、占領下のゴラン高原に面する兵力引き離し地域(AOI)に部隊を進軍させ、ヘルモン山(ジャバル・シャイフ)一帯を手中に収めた。また、シリア軍が撤退した南部のダルアー県、スワイダー県、ダマスカス郊外県、さらには首都ダマスカスのマッザ航空基地や中心街の治安厳戒地区のシリア軍の軍事拠点を爆撃した。爆撃は、シリア軍が放棄した航空兵器などを、シリアの反体制派が使用することを回避するための措置だと説明された。

米軍がイスラーム国の拠点を爆撃

一方、シリア中部では、米国(有志連合)がイスラーム国の拠点70ヵ所以上に対して爆撃を実施した。シリアでの政変に伴う混乱に、イスラーム国をはじめとする過激派が乗じることを阻止するのがその狙いとされている。

シリアでの「独裁政権」の崩壊は、ただちに民主化を意味するものではなく、シャーム解放機構の主導のもとで進められるであろう政権移譲と新国家建設をめぐる意見の相違や対立を解消して初めて実現し得る。しかし、それと併せて、シリア内戦と呼ばれているシリアでの紛争に直接、間接に関与してきた外国の介入を排除して初めて、領土の一体性の回復が実現される。しかし、アサド政権が崩壊した歴史的な1日である12月8日の紛争当事国の動きは、こうしたシリアにとっての悲願に早くも暗雲を投げかけている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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