Yahoo!ニュース

中国はなぜ米国を怒らせたのか トランプ米大統領より恐ろしい超タカ派副大統領の米中「新冷戦」宣言

木村正人在英国際ジャーナリスト
マイク・ペンス米副大統領(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]毎度の問題発言で世界を右往左往させているドナルド・トランプ米大統領の「超タカ派政権」がいよいよ本性を現してきました。トランプ大統領の右腕、マイク・ペンス米副大統領が10月4日、ワシントンの保守系シンクタンク、ハドソン研究所で「トランプ政権の対中政策」と題して行った40分の演説が中国を驚愕させています。

中国に対して制裁関税を連発、貿易戦争を仕掛けるトランプ政権の考え方を明確にしたペンス副大統領の演説は、第二次大戦終結直後の1946年、米ソ冷戦の始まりを告げたウィンストン・チャーチル英首相の「鉄のカーテン」演説を思い起こさせます。

【「鉄のカーテン」演説】

「バルト海のシュチェチン(ポーランド)からアドリア海のトリエステ(イタリア)まで、欧州大陸を分断する鉄のカーテンが降ろされた。中欧から東欧の古代国家のすべての首都は鉄のカーテンの向こうにある」

翌47年、ソ連通の米外交官ジョージ・ケナン氏が米外交雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に「X」という匿名で「ソ連の行動の源泉」という、いわゆる「X論文」を発表。「資本主義と社会主義は相容れない」として、ソ連の膨張主義に対する「封じ込め」政策を唱え、以後、米国の対ソ外交の根幹をなしていきます。

1979年、米社会学者エズラ・ヴォーゲル氏著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーになり、日本車が標的にされた日米貿易摩擦が激化。ジャパン・バッシング(日本叩き)が強まった時代とも類似しますが、日本と米国は日米安保条約で結ばれた同盟国。

国家資本主義を掲げ、経済だけでなく軍事でも米国と対立する中国は「不倶戴天の敵」になりつつあります。

日経記事「中国に甘い時代『もう終わった』米副大統領の演説要旨」ホワイトハウスのホームページからペンス副大統領の演説を見ておきましょう。

【「大国の競争」の時代】

米国の国家安全保障戦略の中で、トランプ大統領は昨年12月に「大国の競争」という新しい時代を唱えた。外国の国々は地域的に、そしてグローバルに彼らの影響力を再び、声高に主張し始めている。彼らは米国の地政学的な優位に挑み、彼らの思うように国際秩序を変えようとしている。

【中国の自由化は実現せず】

ソ連の崩壊後、中国は必ず自由化の道を歩むと考えた。21世紀への楽観主義から、中国に米国経済へのアクセスを認め、世界貿易機関(WTO)加盟を後押しした。古典的な自由原則、私有財産制、個人の自由、宗教の自由、人権の尊重とともに、中国の自由が経済的にも政治的にも拡大することを期待して、これまでの米政権はこうした政策判断を行った。しかし、その希望は実現しなかった。

【対中貿易赤字】

過去17年間で中国の国内総生産(GDP)は9倍になり、世界第2の経済大国となった。成功の大半は米国の対中投資による。中国共産党は自由で公正な貿易とは相容れない関税、割当制、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の侵害、産業への補助金を武器に使ってきた。

こうした政策は中国の競争相手、特に米国の代償によって中国の製造業の基盤を築き上げた。中国の行動は米国の貿易赤字を膨れ上がらせ、昨年の対中貿易赤字は3750億ドル(約42兆円)に達した。

これは米国の貿易赤字の半分近くを占める。トランプ大統領の指示で米国は中国製品への2500億ドルの追加関税を実施している。公正かつ互恵的な合意がなされない限り、対象品目を実質的に2倍以上に増やす可能性がある。

筆者記事:中国潰しか トランプが仕掛けた米中貿易戦争 中国輸出品28兆円相当に25%制裁関税へ

【南シナ海の要塞化】

中国は陸・海・空・宇宙で米国の軍事的な優位を崩す能力を身につけることを最優先課題にしている。西太平洋から米国を追い出し、米国が同盟国を助けに来るのを阻止しようとしている。

中国の船舶は定期的に日本の施政下にある尖閣諸島周辺をパトロールしている。南シナ海に造成した人工島の軍事基地に対艦、対空ミサイルを配備。中国軍艦は南シナ海で「航行の自由」作戦を実施していた米海軍のイージス駆逐艦に45ヤード(41メートル)以内まで接近。米駆逐艦は衝突回避を強いられた。

筆者記事:北極に「一帯一路」拡大「戦争に勝つワールドクラスの軍隊」目指す中国 安倍首相はいつまで尖閣を守れるか

筆者記事:日中平和友好条約40年「第5の政治文書」で尖閣は守れるか 止まらぬ中国 南シナ海を軍事要塞化

【監視国家】

近年、中国は自国民への支配と弾圧に急激に逆戻りしている。米国の技術を使ってサイバー空間に「万里の長城」を築き上げ、自国民への監視を強めている。英作家ジョージ・オーウェルの『1984年』のような監視国家を2020年までに完成させることを目標にしている。

宗教の自由に関して言えば、キリスト教徒、仏教徒、イスラム教徒への新たな弾圧を強化している。地下教会を閉鎖し、十字架を破壊、聖書を燃やし、信者を投獄している。チベット自治区の仏教徒は150人以上が抗議のため焼身自殺を遂げた。新疆ウイグル自治区では最大100万人のイスラム教徒のウイグル族が投獄され、洗脳が続けられている。

筆者記事:中国「臓器移植の闇」海外からの移植ツーリズムが激増する中、死刑囚からの臓器摘出疑惑くすぶる

【借金漬け外交】

中国は影響力を拡大するため「借金漬け外交」を利用している。中国はアジアからアフリカ、欧州、中南米にかけて数千億ドルものインフラ融資を持ちかけている。しかし、良く言ってもその融資条件は不透明で、その利益は絶え間なく中国に流れ込んでいる。

スリランカでは商業的価値があるかどうか疑わしい港湾を中国国有企業が建設、スリランカ政府は巨額の負債を背負わされた。返済に窮すると、中国はスリランカにその港を引き渡すよう圧力をかけた。すぐに中国海軍の海洋進出のための軍事基地になる恐れがある。

筆者記事:借金地獄の中国「一帯一路」に対抗  安倍首相は質の高いインフラ輸出を促進 EUはアジアへ「欧州の道」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事