TikTokは“問題のある中国企業”、米政府が警戒する理由とは?
人気動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国のバイトダンス(字節跳動科技)が、同アプリの米国事業を中国から切り離そうとしているという。
議米員、「米国の情報を収集している」
TikTokの米国事業については、米国の国家安全保障への影響を検討する対米外国投資委員会(CFIUS)が事前調査を開始したと伝えられている。バイトダンスは、米国事業を中国と独立させることで米政府の懸念を払拭したい考えだという。
昨今の動画配信市場では、若い利用者層を中心にTikTokのような超短編動画の人気が高まり、YouTubeなどの従来のサービスから利用者を奪っていると言われている。
TikTokの米国におけるアプリダウンロード件数は2018年後半に「Facebook」「Instagram」「YouTube」「Snapchat」を上回りトップになった。世界ダウンロード数ランキングでは、2019年上半期にTikTokが「WhatsApp」「Messenger」「Facebook」に続く4位となり、Instagramを上回った。TikTokの同期間におけるダウンロード件数は前年同期比28%増の3億4400万件に達したとの報告がある。
こうした中、TikTokが米国の情報を収集したり、米国人利用者が閲覧する情報を中国政府が検閲したりしている恐れがあると米議員らが指摘し、CFIUSや国家情報長官代行に調査を要請した。先ごろは、米陸軍長官がTikTokの安全保障に及ぼす影響を調査するよう関係部署に指示した(ロイター通信)。
ロイターによると、TikTokは、利用者が入力した名前や年齢、電子メールアドレス、電話番号といった個人情報のほか、投稿写真や動画などのコンテンツを保存している。また、位置情報などの他の情報は自動で収集しているという。
もし今後、米政府がTikTokに対する何らかの措置を講じれば、バイトダンスのビジネスは大きな打撃を受ける。一方で、米政府の懸念解消に向けたバイトダンスの取り組みは、今後、中国企業が米国内で個人情報を取り扱う事業を展開できるかどうかの試金石になると、ロイターは報じている。
模倣したアプリの企業を買収、中国外で一気に利用者増やす
バイトダンスは2012年創業の中国企業。2016年にTikTokの前身となったアプリ「抖音(Douyin)」を立ち上げた。これは、米カリフォルニア州に拠点を置く動画投稿アプリの「ミュージカリー(Musical.ly)」を模倣したものだと言われている。
バイトダンスは2017年9月に、抖音(Douyin)の海外版であるTikTokを立ち上げた。その後の同11月には、約10億ドル(約1100億円)でミュージカリーを買収。そして、2018年8月にTikTokとミュージカリーを統合し、利用者のアカウントやデータを引き継いだ。これによりTikTokの利用者数は急拡大したが、米政府はこれらの経緯やデータ移行のプロセスを問題視しているという。
ロイターによると、バイトダンスは米政府の動きを受けて、米国人技術者を増やし、中国人技術者への依存を減らそうとしている。しかし、そうした施策が、米国のテクノロジー企業を脅かしていると指摘されている。
人材獲得競争で米企業への脅威に
写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップは昨年2月、米証券取引委員会(SEC)に提出した資料で、TikTok運営のバイトダンスを競合企業のリストに加えた。米ツイッターも投資家向けの資料でバイトダンスを競合企業の1社に挙げている。
CNBCなどの米メディアは昨年10月、バイトダンスが、シリコンバレーに活動拠点を構えて、米国のテクノロジー企業から人材を引き抜いていると報じた。
TikTokはハリウッドに近いロサンゼルス郊外のカルバーシティに米国本社オフィスを構えている。今年初頭にも、この地域で本社オフィスを拡大移転する計画だという。
最近は、カリフォルニア州マウンテンビューに支局を設置したとも伝えられた。そこはかつて、フェイスブックの対話アプリ「WhatsApp」のオフィスだった。フェイスブックの本社があるメンローパークからわずか数キロメートル離れた場所で、バイトダンスは地の利を生かし、人材獲得競争で米企業に対抗しているという。
関係者によると、同社は2018年からこれまでの間に数十人をフェイスブックから引き抜いた。同社が提示する報酬額はフェイスブックよりも最大2割高いという。また、スナップやフールー、アップル、ユーチューブ、アマゾン・ドット・コムなどからも多くの人材を引き抜いていると伝えられている。
米政府は、国家安全保障上危惧する企業として、中国通信機器大手のファーウェイ(華為技術)を指定しているが、バイトダンスも米国にとって“問題のある中国企業”になってきたようだ。
- (このコラムは「JBpress」2019年11月29日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)