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ウェブCMにも出演! 岡野陽一、相席スタート山添、ザ・マミィ酒井……「クズ芸人」が注目される理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

3月11日、KDDIと沖縄セルラーの携帯電話の新料金プラン「povo2.0」のウェブ動画「クズ芸人だから教えられるお金の付き合い方」シリーズの公開が始まった。

「クズ芸人」としてこの動画シリーズに出演しているのは、相席スタートの山添寛、ザ・マミィの酒井貴士、ピン芸人の岡野陽一という面々。大のギャンブル好きで借金を重ねている彼らが、クズ芸人ならではの目線で新成人にお金との付き合い方を教える内容になっている。

最近のお笑い界では「クズ芸人」がちょっとしたブームになりつつある。借金や遅刻癖や女癖の悪さなどの「クズ」な要素を持つ芸人たちが注目を集める機会が増えているのだ。

アンガールズ田中が提唱するクズ芸人の3分類

2021年4月29日放送の『ダウンタウンDX』(日本テレビ)では「そこまでするか! ラクして楽しく生きるクズ芸人の処世術!」という企画が行われ、ドランクドラゴンの鈴木拓、オズワルドの伊藤俊介、ザ・マミィの酒井貴士、ラランドのニシダなどがクズ芸人として紹介されていた。

彼らは遅刻を繰り返していたり、借金を重ねていたり、金に汚かったりする。スタジオで明かされた彼らの問題行動の数々に、共演者たちは驚きを隠せなかった。

2021年4月24日深夜放送の『ゴッドタン』(テレビ東京)では、アンガールズの田中卓志が、クズ芸人たちをその特徴から「金」「性悪」「サイコ」の3つに分類していた。

「金」とは多額の借金を抱えていることで、岡野陽一や空気階段の鈴木もぐらが当てはまる。「性悪」とは性格が悪いことで、鬼越トマホーク、とろサーモンの久保田かずのぶ、TKOの木下隆行が当てはまる。「サイコ」とは常人の理解を超えたキャラクターを持っていることで、コロコロチキチキペッパーズのナダルや安田大サーカスのクロちゃんが当てはまる。

ポジティブな生き様が勇気を与える

また、2019年9月12日に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日)で行われた「私生活芸人っぽい芸人」という企画も、いわゆるクズ芸人の定義に近い「私生活芸人っぽい芸人」が取り上げられていた。

この企画に出演していたのは、千鳥の大悟、納言の薄幸、見取り図の盛山晋太郎、岡野陽一、鈴木もぐらというメンバー。彼らは、タバコ、深酒、ギャンブル、借金などの特徴を持っていて、昔ながらの芸人らしさを備えている。

ギャンブル中毒も、多額の借金を抱えているのも、遅刻癖があるのも、一般社会では許されることではない。本人が信用を失うだけでなく、周囲に迷惑をかけてしまうこともある。そんなクズ芸人たちが、なぜお笑いの世界では面白おかしく取り上げられ、注目を集めているのか。

それは、彼らが自分のだらしなさを堂々と認めて、それを明るく笑い飛ばしているからだ。そんな彼らのタフでポジティブな生き様が、人々に勇気を与えてくれる。

誰にでも多かれ少なかれダメな部分はある。そのことで他人から白い目で見られたり、厳しく怒られたりして、落ち込んでしまうこともあるだろう。また、真面目な人であればあるほど、失敗することを恐れて、いつもビクビクしながら生きていたりするかもしれない。

一方、クズ芸人たちは決して卑屈にならず、自分の欠点を人前にさらけ出し、それを笑いのネタにする。そこには、開き直りとしか思えない苦しい言い逃れもあれば、一理あると感じられる屁理屈もある。それらすべてに何とも言えない人間臭さがあり、温かみが感じられる。

クズ芸人の生き様は、同じような欠点がある人には安心感を与えるし、真面目な人には肩の力を抜いてリラックスさせる効果がある。

「芸人は型破りでいてほしい」という潜在的な需要

クズ芸人が「芸人っぽい芸人」と言い換えられていることからもわかるように、そもそも芸人とは一般社会でまともに生きていけない人のための職業であると考えられてきた歴史がある。芸人が金や女にだらしがないのは当たり前のことだった。

今でこそ、芸人にも一般人並みの常識や社会性が求められるようになっているが、そんな現代でもアウトサイダーとしての芸人に対する憧れや期待というものは存在する。芸人には型破りな生き方をしていてほしいと潜在的に思っている人は多いのではないか。

もともと同調圧力の強い日本社会は、コロナ禍という未曾有の危機に直面して、ますます息苦しいものになりつつある。クズ芸人と呼ばれる人たちは、この閉塞感のある社会をかき回して、風通しを良くしてくれる希望の星となっているのかもしれない。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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