日本は冷戦時代の核戦争の脅威下でも核シェルターが全く普及して来なかったことで知られています。一般的によく引用される数字は核シェルターの販売と普及を目指す「日本核シェルター協会」が調査した数字ですが・・・
しかしスイスやイスラエルはともかく、アメリカ、ロシア、イギリス、ソウルの数字には大きな違和感を覚えます。特にイギリスは冷戦時代から核シェルターの普及に不熱心だったことで広く知られており、基本方針は日本と大きな違いが無かったはずだからです。
以下はイギリスを代表する歴史研究者のデービッド・エジャートン教授が2020年3月にガーディアン誌に寄稿したコラムを、キングス・カレッジ・ロンドンに転載されたものです。全体的な文脈はイギリス政府の新型コロナウイルス対策に関するものですが、核シェルターの建設について比較する書き方がされています。
デービッド・エジャートン教授はこのイギリス政府の政策を結果的に正しかったとしています。何百万トンものコンクリートがシェルターではなく建造物や道路に有効活用され、経済的に良い状態になったと評価しています。
この考え方はともかくとして、「イギリスは核シェルター建設に不熱心だった」という事実は間違いないと言えるでしょう。すると日本核シェルター協会の主張する「イギリスの核シェルター普及率67%」という数字と整合性が付きません。67%は非常に高い数字です。何らかの間違いだと思われます。
以下はやや古いですが2009年に投稿されたスイスインフォの記事です。スイスの核シェルター普及率は世界一であると自慢する内容で、他国と比較した数字が掲載されてあります。
もしも「イギリスの核シェルター普及率67%」が事実ならば世界でも上位に入る高い数字の筈ですが、しかし実際のイギリス政府の核シェルター政策は不熱心だったことは前述のとおりです。
また「韓国ソウル市の核シェルター普及率323.2%」も正しくはありません。323.2%という数字はソウル市が報告した数字でもあるのですが、実はこれは核シェルターではないあらゆる地下施設が含まれた数字です。
以下はソウル市の2020年10月27日の投稿記事の資料数値で326.6%とありますが、地下鉄、ビル、トンネル、地下駐車場などの地下施設が計算に入った数字です。
この指定基準でよいなら、日本の東京の避難所(シェルター)の普及率の数字は跳ね上がる筈です。少なくとも0.02%などという数字にはならないでしょう。地下施設ならなんでもよいというならば、100%を超えている可能性もあります。
つまり日本核シェルター協会の調べた数字は、核シェルターを売りたいがための宣伝用に大きく誇張されたものです。各国の核シェルター普及率の比較としては全く使えません。