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新型ホンダCBRで大逆転チャンピオンなるか?F.C.C. TSRが最終戦・エストリル12時間に挑む!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
TSRのホンダCBR1000RR-R【写真:TSR】

鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)を含むオートバイの耐久シリーズ「FIM世界耐久選手権(EWC)」が9月26日に開催されるエストリル12時間耐久レースで2019-20シーズンのフィナーレを迎える。

先月末にフランス、ル・マンで開催されたル・マン24時間レース(2輪)では日本代表チームのF.C.C. TSR Honda France(鈴鹿市/以下、TSR)が見事に優勝。同チームはランキング2位に浮上し、最終戦に望みをつなぐことになった。

F.C.C. TSR Honda France【写真:TSR】
F.C.C. TSR Honda France【写真:TSR】

新型ホンダCBRで奇跡的なルマン優勝

今季のEWCは本来なら7月末の鈴鹿8耐でフィナーレを迎え、9月からは新しいシーズン(2020-21)が始まっているはずだった。それも新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、スケジュールは大幅変更になった。

シリーズを統括するユーロスポーツイベントは4月のル・マン24時間レースが8月末に延期し、9月には今季2回目となるボルドール24時間(ポールリカール)を開催し、10月末に3ヶ月延期された鈴鹿8耐でフィナーレを迎える全5戦のスケジュールに改訂した。

1つのシーズン中にボーナスポイントが多い24時間レースが3レースも開催される。

これは日本のTSRにとっては好都合なスケジュール変更だった。なぜなら、TSRは2019年9月に開催された開幕戦・ボルドール24時間でエンジンブローを起こしリタイア。12月の第2戦・セパン8時間ではトップ走行中に転倒を喫して13位で終える。

昨年12月のセパン8時間。まだコロナ禍前でF.C.C.など多くのパートナー企業の日本人がチームを手伝った【写真:TSR】
昨年12月のセパン8時間。まだコロナ禍前でF.C.C.など多くのパートナー企業の日本人がチームを手伝った【写真:TSR】

TSRは信頼性がある旧型CBR(ホンダCBR1000RR SP2)で大量得点を確保して、新型CBR(ホンダCBR1000RR-R)をデビューさせる計画だったが、当初の予定は大幅に狂い、ランキング10位以内にも入れないままシーズンの折り返しを迎えることになった。

そして、コロナ騒ぎである。スケジュール改訂は地に落ちたTSRに逆襲のチャンスを与えるものとなったが、それも一時的なもの。フランスでは夏からさらに感染者が急増し、9月のボルドール24時間レースは中止、10月末の鈴鹿8耐も外国人の入国制限が厳しいため中止、そこにエストリル12時間を追加した全4戦のスケジュールに再度、変更されたのだ。

【2019-20 FIMEWC】

第1戦 ボルドール24時間(フランス)

第2戦 セパン8時間(マレーシア)

第3戦 ル・マン24時間(フランス)

第4戦 エストリル12時間(ポルトガル)

TSRはまさに背水の陣で挑んだル・マン24時間だった。無観客で開催されたル・マンではエース格のジョシュ・フックが予選で怪我を負い、決勝を前に大ピンチ。フックの負担を減らしながら、マイク・ディメッリオフレディ・フォーレイがハイペースの走行を行った。

レース前半はウェットコンディションでアクシデントが相次ぐ荒れたレースだったが、TSRはトップを独走。新型CBRのデビュー戦でありながら、奇跡的な優勝を勝ち取ったのだ。もちろん、これはホンダCBR1000RR-Rの世界選手権での初優勝である。

ル・マン24時間レースで2度目の優勝を果たしたTSR(中央)【写真:TSR】
ル・マン24時間レースで2度目の優勝を果たしたTSR(中央)【写真:TSR】

新型マシンに自信を見せた藤井総監督

「俺たちはCovid-19に、こんな状況に立ち向かった。そして勝ったんだ。ブラボー、フランス!」

24時間レースを終えて、おそらく40時間以上眠っていないであろう藤井正和・TSR総監督はハイテンションでそう叫んだ。勝つと全身全霊で喜びを表すのは藤井のいつものシーンだが、いつも以上に喜びを爆発させていたのが印象的だった。

それもそのはず。TSRはこのホンダCBR1000RR-Rという新型マシンに心血を注ぎ、準備をしてきたからだ。2008年以来のフルモデルチェンジとなった新型マシンは圧倒的なストレートスピードを誇り、ほぼノーマルでレースを戦えるほどポテンシャルが高い。ベース車両としては規格外のハイスペックマシンと言えるだろう。

藤井正和総監督とホンダCBR1000RR-R【写真:TSR】
藤井正和総監督とホンダCBR1000RR-R【写真:TSR】

実はTSRは昨年末からホンダCBR1000RR-Rの様々なオリジナルパーツを早速リリースしている。これはこのニューモデルの情報をいち早く得ているからこそできる仕事と言える。それは彼らがFIM EWCでチャンピオンを獲得したからこそ認められる仕事でもある。当然、新型モデルでの参戦に向けて早くから情報を得て、レース用のマシンも準備してきた。

「今年からTSRは自分たちで作ったマシンでレースをすることにした。だから、鈴鹿8耐でもファクトリーマシン(ワークスマシン)は使いません」と藤井は6月のインタビューでキッパリ語っていた。

今年の6月、インタビューに答える藤井総監督【写真:DRAFTING】
今年の6月、インタビューに答える藤井総監督【写真:DRAFTING】

「お客さんに渡せるもの(パーツ)を僕らが先行で開発し、それを後に使ってもらうというやり方に戻すことにした。新型CBRが出るのが決まった時、これに託せると思ったんだ。もし、新型が出ないということになっていたら、今もファクトリーに頼っていたかもしれないね」

TSRはファクトリーマシンを使ってレースをしていると思われがちだが、FIM EWCの海外でのレースは全てTSRで独自で仕上げたホンダCBR1000RRで戦い、それでル・マンもボルドールも優勝した。

ただし、夏の鈴鹿8耐だけはホンダのファクトリーマシンを貸与されてレースをしてきたのだ。その理由はホンダ、ヤマハ、カワサキなどがファクトリーチームで参戦する鈴鹿8耐ではスペシャル仕様のマシンでなければ勝ち目がないからだ。メインスポンサーのF.C.C.の地元・日本で、年間参戦するチームが10位以内を目標にするレースはさすがにできない。

緊急事態宣言解除後に鈴鹿で行われたテスト走行。秋吉耕佑、高橋裕紀らの日本人ライダーが走行を担当した【写真:TSR】
緊急事態宣言解除後に鈴鹿で行われたテスト走行。秋吉耕佑、高橋裕紀らの日本人ライダーが走行を担当した【写真:TSR】

ただ、新型CBR1000RR-Rのポテンシャルの高さを感じた藤井は独自のリソースで年間シリーズを戦うことを決断。FIM EWCにおいてホンダを使うチームは現状少ないが、レギュレーションを熟知するTSRは今後、新型CBRのパーツを次々に開発することで、FIM EWCにホンダユーザーを増やしていきたい意向だ。

最終戦で優勝して天命を待つ

残念ながら10月末の鈴鹿8耐は中止が決定。今季はTSRの走りが日本で見られないことになってしまったが、ル・マンで勝ったことでTSRに大逆転のチャンピオンの可能性が出てきた。

最終戦となるのはポルトガルのエストリル。かつてはF1やMotoGPを開催していた1周4.1kmのオールドサーキットである。FIM EWCの開催は20年ぶりだという。

朝8時30分にスタートし、夜8時30分にチェッカーを迎えるという12時間のフォーマットで行われる最終戦だが、今回は急遽決まったレースということもあってか、参加台数が23台という異例の少なさだ。コースは空いている状態になるので、淡々としたレース展開になっていくであろう。

また、エストリルはホームストレートが長いので、ホンダCBR1000RR-Rの武器が活きるサーキットでもある。24時間をほぼノントラブルで走りきった信頼性の高さなど、その素性の良さを考えるとTSRは優勝にかなり近い。

エストリルのピット。ル・マンと同様、メカニックやスタッフの多くはスペインとフランスが拠点のメンバー。日本とヨーロッパに拠点を持つのもTSRの強みだ【写真:TSR】
エストリルのピット。ル・マンと同様、メカニックやスタッフの多くはスペインとフランスが拠点のメンバー。日本とヨーロッパに拠点を持つのもTSRの強みだ【写真:TSR】

「我々の仕事はレースで勝つこと。レースの状況によって、柔軟に戦略を変えていくつもりだよ。12時間のレースと言っても、十分に長いレースだからね」と藤井総監督は最終戦の目標を語る。

【ランキング上位5チーム】

1位: SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM =127点

2位: F.C.C. TSR Honda France =87点

3位: YART YAMAHA =82点

4位: BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM =82点

5位: WEBIKE SRC KAWASAKI France TRICKSTAR =80点

ル・マンの優勝でランキング2位まで一気に浮上してきたTSRだが、ランキング首位のSUZUKI ENDURANCE RACING TEAM(SERT)とは40点ものポイント差がある。仮にTSRがエストリルでポールポジション、8時間経過時点でトップ走行、12時間レースを優勝というパーフェクトウインを達成(67.5点)しても、SERTが4位以上で完走すればチャンピオンはSERTに。ということで、かなり他力本願の要素が強い条件だ。

今回の最終戦は動画配信サービスの「Hulu(フールー)」で生配信される(英語実況/9月26日・午後4時から)ほか、後日、BS日テレ、日テレG+(ジータス )でもダイジェスト番組が放送される予定だ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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