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支持率の低い尹大統領への日本の不安 約束は守られるのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田首相と尹大統領(内閣広報室)

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が本日、来日する。

 韓国の大統領としては2019年6月に大阪で開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のため来日した文在寅(ムン・ジェイン)前大統領以来、3年9か月ぶりである。

 日本政府は尹大統領を相手にギクシャクしていた日韓関係を正常化させたいところだが、尹大統領の支持率は大手世論調査会社「韓国ギャラップ」の調査(3月8-9日)では34%である。「支持しない」は58%に達していた。

 尹大統領が昨年3月の大統領選挙で対抗馬の野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表と戦って得た得票率、即ち支持票は50%に近い、48.5%だった。約1年で14.5%も減らしたことになる。

 ほぼ60%に近い国民、即ち国民10人中、6人が尹大統領を支持しない理由として1番に挙げていたのが元徴用工問題に対する対応で、続いて多かったのが外交、3番目が「経済・民生・文化への対応」だった。興味深いのは5番目の理由として「独断的で、一方的である」との回答があったことだ。

 昨年8月に韓国ギャラップの調査で尹大統領の支持率が30%を切り、過去最低の24%を記録したことがあった。この時、「評価しない」(64%)しない理由の1番が「人事」で、2番目が「経験不足」だったが、これは大統領に就任(5月10日)してまだ3か月しか経っていないことから致し方ないことだが、それ以外の理由として「資質に問題」や「無能」そして「独断的で、一方的である」ことを挙げていたことだ。韓国の国民の多くは今も、尹大統領の言動を「独断的で、一方的である」と捉えているようだ。「聞く耳」を持つ岸田文雄首相とは大きな違いである。

 これまで公表された韓国の4社の世論調査によると、元徴用工問題に関する尹政権の解決策については「反対」が59.5%(時事リサーチ)、59.9%(リアルメータ―)、51.1%(メディアトマト)、59.0%(韓国ギャップ)と、どれもこれも過半数を超えていた。

 それでも、尹大統領は強気で、自らの決定を押し通す考えだ。それもひとえに「日韓関係を未来志向の関係にするため」との信念に基づいているからである。支持率は上がったり、下がったりするもので、いずれ今回の決断が支持され、支持率も上がるだろうと楽観的で、尹大統領自身は支持率の下落をさほど気にしていないようだ。

 但し、大統領の想いとは裏原に、先の韓国のギャラップ調査では尹大統領の決断と日韓首脳会談で日韓関係は改善されると思うかとの質問に韓国人の60.6%が「今と変わらない」と悲観的にみていることだ。日本でも共同通信社が韓国の解決策に関する世論調査(3月11-13日)を行っていたが、日本人もまた今後の日韓関係については67.6%が「変わらない」と回答していた。

 尹大統領は常々「『反日』を政治利用すべきではない」と口癖のように言ってきた。その尹大統領もまた、大統領選勝利のため伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)のような存在である「反日独立運動家」「尹奉吉(ユン・ボンギル)義士記念館」の前で大統領選挙出馬会見を行い、大統領選挙期間中には解放の日の8月15日には独立運動家らが祭られているソウルの孝昌公園を訪れ、菅義偉首相(当時)が官房長官時代にテロリストと呼んでいた安重根の写真をバックに記念写真を撮っていた。

 また、大統領選の「外交安保公約」の中に日本軍慰安婦被害者問題や強制徴用者判決履行を盛り込み、さらに大統領選挙期間中に元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんを訪れ「私が必ず日本から謝罪を取り付ける。(元慰安婦)お婆さんらの心の傷を必ず癒すようにする」と述べ、日本政府から再度謝罪を取り付けることを指切りまでして約束していた。

 当時、尹大統領陣営では李元慰安婦とのツーショットの写真などをフェイスブックやツイッターに添付して流していたが、この時、支持層からは「尹候補、大統領になって元慰安婦の恨みをはらしてください」「尹候補は約束をすれば、必ず守る人だ」「李お婆さん、尹候補が謝罪を取り付けるので余生を楽にお過ごしください」などの書き込みが殺到していた。大統領選に勝つためのパフォーマンスと言えば、それまでだが、どれもこれも日本にとっては気になるところだろう。

 また、尹政権与党は「外交に与野党はない。外交を国内政治に持ち込むべきではない。政争にすべきではでない」として、尹政権の対日アプローチを「屈辱外交」とか「外交惨事」と批判している野党に協力を求めているが、尹大統領自身が大統領選挙期間中に「民主党政権(文在寅政権)は親中・親北の『屈辱外交』を行い、その結果、韓米、韓日関係が崩れてしまった」と文政権の外交を痛烈に批判していたことはまだ記憶に新しい。

 今朝の韓国発ニュースによると、李明博(イ・ミョンパク)元大統領が昨日、代表就任の挨拶に訪れた「国民の力」のキム・ギヒョン代表に尹大統領の元徴用工解決策を評価し、支持を表明したようだ。

 李元大統領は大統領就任2か月後の2008年5月に来日した際「私は日本に対してもう謝れとは言わない。過去にこだわっては生きられないし、未来を生きることはできない」と語ったことから日本人の多くは大阪生まれの李明博大統領に期待を寄せていた。

 ところが、2011年8月に憲法裁判所が慰安婦問題で日本と交渉しなかった政府の不作為を違憲と定めたことでやむを得ず当時民主党政権の野田佳彦総理に対して慰安婦問題での善処を要請したところ、それを跳ね付けられたことで態度を硬化させ、民間団体の日本大使館前の慰安婦設置を黙認し、日本が慰安婦問題を解決しなければ「第二、第三の像が建てられるだろう」と野田総理を威嚇し、2012年8月10日には歴代大統領誰一人、足を踏み入れたことのなかった竹島上陸を決行し、4日後の14日には「(天皇が)韓国に来たければ、独立運動家を回って跪いて謝罪せよ」と日本の国民感情を逆なでするような発言を行ったのは周知の事実である。そのような過去を背負った先輩の大統領から激励されたとなると、日本にとってはなおさら気になるところであろう。

 党内に朴振(パク・チン)外相や羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)元院内代表ら竹島上陸歴のある政治家や、日本の放射能処理水放流を巡って「日本は極めて無礼で、過去を反省しない帝国主義的傲慢な態度である」と批判している朱豪英(チュ・モヨン)院内総務や趙太庸(チョ・デヨン)議員、金善教(キム・ソンギョ)議員ら多くの「反日議員」を抱えている尹大統領がどこまで「我が道」を押し通すことができるのか見ものだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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