ロシアと対決する北欧ノルウェーの国防政策
2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ全面侵攻を受けて欧州各国は危機感をあらわにし、北欧のフィンランドとスウェーデンはNATO加盟申請を決断しました。その隣のノルウェーは1949年に既にNATOに加盟しており、北部のトロムス・オ・フィンマルク県(2020年にトロムス県とフィンマルク県が合併)でロシアと国境を接しています。
北部フィンマルクにおけるノルウェー軍の戦力配置
Finnmark landforsvar (FLF) フィンマルク国土防衛
- Garnisonen i Sør-Varanger (GSV) セル・ヴァランゲル守備隊
- Porsanger bataljon ポルサンゲン大隊
- Finnmark heimevernsdistrikt (HV-17) フィンマルク郷土防衛隊
Stasjonsgruppe Banak バナク空軍基地群
フィンマルク国土防衛(FLF)とはノルウェー陸軍とノルウェー郷土防衛隊の3部隊を合わせた合同司令部であり、フィンマルク防衛本部です。
ロシア国境から僅か10kmの位置にノルウェー陸軍のセル・ヴァランゲル守備隊(GSV)の駐屯地があります。この駐屯地の直ぐ隣に民間施設のキルケネス空港(2784m滑走路1本)があり、有事の際に軍事利用されることになるでしょう。もしロシア軍が侵攻して来た場合に空挺部隊で真っ先に狙われる拠点です。
セル・ヴァランゲルの西180kmのポルサンゲン市のポルサンモエン駐屯地にノルウェー陸軍の1個大隊が駐屯しています。このポルサンゲン大隊は2020年5月1日に設立されたばかりで未だ編成途上であり、2025年に完全編成の装甲偵察大隊となる予定です。ノルウェー軍ではロシアの侵攻を想定した最前線への新たな戦力整備が進んでいる最中なのです。なおこの駐屯地には元々はフィンマルク郷土防衛隊HV-17が駐屯しています。
これらフィンマルク国土防衛(FLF)は平時から常駐している警戒戦力であり、もし戦争の危険が差し迫った場合は後方に配備されている主戦力の他部隊が前進して来ます。
ポルサンモエン駐屯地から北18kmにノルウェー空軍のバナク基地(2788m滑走路1本)があります。ここは滑走路が軍民共用でラクスエルブ空港でもあり、空軍は普段は救難ヘリを配備していますが、定期的に戦闘機も訓練にやって来ます。有事の際は戦闘機が配備されることになるでしょう。
2015年にロシアへの配慮を止めたノルウェー
ノルウェーは従来はロシアを刺激しないように、国境に接するフィンマルクでの軍事演習を行わないように配慮してきました。しかしこの方針は2014年のロシアによるクリミアおよび東部ウクライナへの侵攻で終わりを告げ、2015年からノルウェー軍はフィンマルクで大規模な軍事演習を実施し、NATOと一体となって、ロシアの侵略を拒絶する道へと進んでいます。
これ以降、ノルウェー軍とNATOとの「ロシアの目と鼻の先で実施」する合同演習は常態化しています。ロシアを刺激しようと構わない、この地での軍事演習を行い、防衛戦争に備えるとしたのです。
2022年のノルウェー冬季演習「コールド・レスポンス2022」ではトロムス・オ・フィンマルク県バルドゥフォスにアメリカ空軍のB-52戦略爆撃機が飛来し、ノルウェー空軍のF-35ステルス戦闘機が編隊飛行を行うという強烈なデモンストレーションを行ってロシアを牽制しています。
2022年4月11日にはトロムス・オ・フィンマルク県の港湾都市トロムソにアメリカ海軍の強襲揚陸艦「キアサージ」が入港、ロシアに睨みを利かせています。
なお2017年1月からはアメリカ海兵隊のノルウェー駐屯が許可されており、常駐ではありませんが、年間のうち半年間だけ展開するローテーション配備がされてきました。ただしこの展開方針は現在ではやや変更されています。
そしてノルウェーには冷戦時代からアメリカ海兵隊の事前配置備蓄物資プログラム(MCPP-N)があり、有事の際の増援として海兵遠征旅団が派遣された場合に活用される予定となっています。