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エムバペ獲得に失敗も…アンチェロッティ・マドリーが戴冠する可能性が高い理由。

森田泰史スポーツライター
インテル戦で決勝点のロドリゴ(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリーが、好調だ。

4試合を消化したラ・リーガで首位をキープ。チャンピオンズリーグでは、グループステージ開幕節でインテルを下し、スペイン勢で唯一勝利を挙げたチームとなった。

マドリーが調子を上げている背景に、カルロ・アンチェロッティ監督の存在があるのは確かだろう。この夏、キリアン・エムバペ獲得に失敗したマドリーだが、「最大の補強」はアンチェロッティ監督の就任だったと言えるかもしれない。

この夏に就任したアンチェロッティ監督
この夏に就任したアンチェロッティ監督写真:ロイター/アフロ

アンチェロッティ監督といえば、マドリーにラ・デシマ(クラブ史上10回目のチャンピオンズリーグ優勝)をもたらした指揮官である。

ゆえに、マドリディスタはアンチェロッティ監督を愛しており、また信頼している。だが「ソフトタッチ」と称されるイタリア人指揮官の美点は選手マネジメントに留まらない。彼はまた、優れた戦術家でもあるのだ。

■戦術家としてのアンチェロッティ

アンチェロッティ・マドリーでまず注目すべきは〈可変の形〉である。

例えば、第4節セルタ戦だ。この試合、マドリーは【4−3−3】の基本布陣を敷いた。GKクルトゥワ、DFグティエレス、ナチョ、ミリトン、カルバハル、MFカゼミーロ、モドリッチ、バルベルデ、FWヴィニシウス、ベンゼマ、アザール。これがアンチェロッティ監督の送り出したスタメンだ。

その試合中にマドリーは幾度も顔を変えている。

具体的には、【4−3−3】【4−2−3−1】【4−4−2】を使い分けながらゲームを進めていった。

【4−2−3−1】になるのは、セルタのアンカー対策だった。【4−1−3−2】という特殊なシステムを敷くセルタで、鍵を握るのはアンカーを務めるタピアである。ここを潰すために、モドリッチあるいはバルベルデをぶつけ、セルタのビルドアップを封じようとした。

これで終わるのは、普通だ。単に2つのシステムを可変しただけである。欧州のトップレベルのチームであれば、このくらいは容易にこなせるだろう。だがアンチェロッティ・マドリーの恐ろしさは、更にここからもう一つのシステムを重ねてくるところにある。

選手の起用法の観点でいえば、アザールを右WGに置くのは正しくない。彼は左WGに置かれ、突破力、カットイン、左ハーフスペースでのポジショニングで違いを出せる選手だからだ。しかしながら、アンチェロッティはあえてアザールを右においた。【4−4−2】の可変を行うためだ。

ヴィニシウスが左サイドハーフに下がり、バルベルデが右サイドハーフにずれ、カゼミーロとモドリッチがダブルボランチを形成する。アザールとベンゼマが2トップを形成して、マドリーの【4−4−2】が完成する。

対峙するのはアンカーシステムのセルタだ。アンカー脇のスペースが空く。そこをアザールやベンゼマが利用する。アザールとベンゼマに関しては、マドリーで一緒にプレーするようになってから、非常に良い連携を見せている。彼らは自由にポジションを入れ替え、阿吽の呼吸でパス交換をする。その2人を前線に据えることで、ボール保持時に効果的な攻撃が可能になった。

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■ビッグマッチのパフォーマンス

そして、マドリーはチャンピオンズリーグ・グループステージ開幕節、インテル戦を迎えた。アンチェロッティ・マドリーにとって、今季初めてのビッグマッチだった。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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